利害関係のある人との「営業や交渉」の時間として、ランチタイムを活用する人もいるだろう。
一緒に食事をすることには、人と人とを親密にする効果がある。特に、おいしい食事を共にすると親密感が増す。頼みごとや契約をまとめたいときに、相手をランチに誘って、食事の後半か、食後のティータイムに話を持ちかけるのは有効だ。
もっとストレートに、ランチを「接待」に使う場合もある。ランチだったら使う時間に限りがあるので、夜の接待よりも身体が楽で費用も抑えられるというメリットがある。
ランチタイムは外部の人と会って「情報交換」に努める主義のビジネスパーソンもいる。しかし、筆者は「社交ランチ」があまり好きではない。時間だけ取って、満足感のないランチになると、雑な印象だけが残る。本人が思うほど相手は満足していない場合もある。
接待でも情報交換でも、相手と「目的」を持って会う機会としてランチを設定する場合は、場所や食事の内容に気を遣うべきだ。端的に言うと、十分にお金と時間をかける方がいい。
若いころの筆者にとって、ランチタイムは当面の仕事から離れた「勉強や情報収集」のための時間だった。
若手社員時代は、しばしば10分程度で一人の昼食を済ませ、会社の近くにある書店に行くことが多かった。
行き先となる書店は目的別に複数あった。複数のフロアを持つ大型書店には特定の分野専門書や洋書など本を探す目的があるときに行ったし、中規模な書店には、新刊や最近話題の本などを漠然と探しに行くことが多かった。なじみの中規模書店を見る場合は、経済・ビジネスの本だけでなく、思想から実用書まで一通り広い分野の書棚を眺めるようにしていた。書棚の構成が頭に入っている中規模な書店は、並んでいる本に変化があるとぱっと目に付くので、情報の変化を感じるのに好都合だった。
本の立ち読みは、時間が限られている中で必要な情報を得ようとするので、情報収集にも勉強にも、なかなか効率のいい方法だ。もっとも、読書の真のコストは、本代よりも本を読む時間の方にある。興味を持った本は買ってしまう方がいい場合が多い。
食事は人生の楽しみの一つだし、ランチタイムは気分転換になる貴重な時間だ。会社の外に出て「おいしいもの」を食べに行く機会を、時々は作りたいものだ。無理のない程度に行動範囲を広げて、なるべくおいしいものを食べてほしい。
この際、紙とボールペンやお気に入りのタブレットくらいは持って外出したい。気分転換の際にも、頭のバックグラウンドは必要なことを考えている。有効なアイデアなどが、ランチの待ち時間や行き来の時間に思い浮かぶ場合が多い。午後の仕事の段取りなどをメモするにも役に立つ。
「ランチが楽しみであり、仕事もまた楽しみだ」という気分で職場に戻れるランチタイムが理想的である。
山崎 元
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。
2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトで『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。
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