転職するたびにランクが下がるなんて転職活動、本当にあったこんなこと(5)(2/2 ページ)

» 2007年01月10日 00時00分 公開
[藤田孝弘アデコ]
前のページへ 1|2       

ブランドと給与重視のバブル転職

 高橋さん(仮名)は、初めて会ったときは27歳のサーバエンジニアでした。新卒でシステムインフラ構築に強みを持つ会社に就職して実績を積み、入社後3年でリーダーに抜擢され、社内でも高い評価を受けていました。彼は環境を変えてさらにキャリアを積みたいと考え、プロジェクト終了を機に退職。人材紹介会社に登録し、私が担当したのです。

 当時はITバブルの絶頂期。転職の選択肢も豊富にあり、複数の企業を紹介できる状態でした。高橋さんの強い希望で、大手のシステムインテグレータ(SIer)、ネットワークインテグレータ(NIer)、ベンダに限定して数社に応募し、2社から内定をもらうことができました、1社は大手SIer(C社)のデータセンターのサーバエンジニア、もう1社は、大手老舗NIer(D社)のネットワークエンジニアでした。どちらに行っても大きなステップアップになります。

 C社は1年契約の契約社員で月給38万円の12カ月分、D社は正社員で月給19万円と残業代の12カ月分プラス賞与という条件でした。経験を積みスキルを高めるためにも、正社員で採用してくれるD社を勧めましたが、彼の意思は固くC社への入社を決めました。キャリアも大切だが、いまは月額の給与を優先したいということでした。

退職と2度目の転職

 転職から1年が経過したある日、高橋さんから電話がありました。企業を紹介してほしいというのです。1年しかたっていないのになぜ? と私は驚きました。ITバブル崩壊で大手の求人が減少しだした時期であり、転職はリスクが大きいため現職にとどまることを勧めました。ところがよく話を聞いてみると、すでに会社に退職願いを提出してしまったというのです。

 状況が状況なので、急いで企業を探す必要がありました。中堅のSIerとネットワーク系の企業を数社紹介し、3社の面接に進み、第一希望の大手商社系NIer(E社)から内定を得ました。さすがに前回とは異なり、月給38万円という要望には応えてくれませんでしたが、何とか年収はキープすることができました。

 彼が入社してから約1年が経過し、IT関連の展示会に行く機会がありました。高橋さんが所属するE社も展示会に出展しており、ブースをのぞくとお客さまに熱心に説明する彼の姿がありました。彼も私に気付き軽く会釈をしてくれました。高橋さんのことが気になっていただけに、私は内心ほっとして展示会を後にしました。

まさかの3度目の転職

 数日後、高橋さんから電話が入りました。私は、展示会で会ったことのあいさつかと思い電話を取りました。ところが、彼はまた仕事を紹介してほしいというのです。理由を聞くと、所属していたメールサーバの部隊が縮小となり、ネットワーク機器を扱う部門への転属をいい渡されたためとのことでした。前回の転職経験から、退職後の転職に大きなリスクがあることは理解しているはず。今度は退職していないことを祈りながら話を聞きました。しかしそんな私の願いとは裏腹に、高橋さんはすでに退職願いを提出していたのです。

 「高橋さん、残念ながら紹介する企業はもうありませんよ」。景気が悪化しIT投資が縮小する中、企業の採用意欲も低下し、それまでに紹介したような企業は以前にも増して採用基準を引き上げていました。そのうえ2年間で2回もの転職は大きなハンディとなります。高橋さんにはこの状況を理解してもらい、企業の規模・年収・業種には一切こだわらないという条件で求人企業の紹介を開始しました。

 SIerではかなり苦戦しましたが、数社に応募する中であるインターネット系ベンチャー企業、急成長中で新聞や雑誌でも取り上げられる話題の人気企業から内定が出ました。この状況でこのような企業から内定が出るのは、願ってもないチャンスです。とはいえ30歳になっていた高橋さんにとって、20代が大半を占める企業に勤めることには迷いがあったようです。年収も少しダウンしたのですが、わらにもすがる気持ちで入社を決意しました。

そして、4度目の転職

 3カ月後、高橋さんから1本の電話がありました。何と、またしても会社を退職してしまったというのです。理由は、周囲に20代前半の若手が多く、社風もそれまでの会社と大きく異なるため、うまく溶け込めなかったとのことでした。

 今回はいっそうの苦戦を強いられましたが、最終的には、中小規模の独立系ネットワークサービス会社に入社することができました。規模はそれほど大きくありませんが、大手ベンダの協力会社として技術力を高く評価されています。給与は前職を少し下回りますが、教育制度も充実し、長期的に力を付けるには非常に良い環境です。

 あれから3年が経過しましたが、高橋さんから連絡はありません。最近、高橋さんを採用した企業の担当者と話をする機会がありました。彼は現在、メンバー3人を率いるリーダーとして活躍しているとのことでした。周囲からも高く評価されているということを聞き、私はほっと胸をなでおろしました。

長期的な目標を立てることの重要性

 高橋さんの転職活動を振り返ると、長期的な目標を重視していなかったことは明らかです。企業を選択する指標として、給与やブランドのみにこだわってきた結果、転職先で行き詰まり、短期間での退職を繰り返すことになりました。

 これに対し冒頭の住田さんは、長期のビジョンに基づいたキャリアパスを描いていました。それに従って、自分に足りない点を補足するために何をすべきかを考え、人材紹介会社を長期的なパートナーにして情報交換をし、常に自分に最適なキャリアを構築するために行動したことが成功につながりました。つまり両者の違いで重要なのは、長期ビジョンとキャリアパスを考えたうえで行動ができたかどうかであると考えられます。

 いまは好況で求人数も急増し、大手企業、有名企業からの求人も増えています。こんなときこそお金や知名度で企業を選択するのではなく、しっかりとキャリアを考えたうえでの選択が重要になると考えます。選択肢が広がりチャンスが多い一方、本当に重要なことは何かを見失いがちなときでもあります。安易な転職は禁物です。転職は計画的に行うことをお勧めします。

著者紹介

アデコ

藤田孝弘

人事系コンサルティング会社にて人事採用と教育・人事制度関連のコンサルティングに従事。その後、IT専門の人材サーチ会社にてITコンサルタントやSEを中心とした人材のキャリアコンサルタントを経験、現職に至る。これまで、IT業界を中心に3000名以上の転職支援を行った実績あり。現在、@ITジョブエージェントのパートナーとしても活躍中。



「転職活動、本当にあったこんなこと」バックナンバー
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。