【事例3】市川さん(仮名・29歳)の場合
市川さんが転職を考えた原因は、現在の会社で残業が多すぎることでした。
仕事の内容については満足していました。複数のプロジェクトを任され、着実に力を付けていったところまではよかったのですが、それに比例するように業務にかかる時間が雪だるま式に増えてしまったのです。
休日は好きな野球でリフレッシュするのが市川さんの楽しみでしたが、土日も仕事に追われることが多くなり、それもままならない状況に陥ってしまいました。「何のためにここまで仕事をしているのか」との疑問がふくらみ、転職を決意したのです。
そこで彼は、じっくり落ち着いて業務ができるだろうと「社内SE」を強く志望しました。安定した身分も欲しいと考え、業界は問わず大手企業を中心に複数社の社内SEに応募したのですが、実際に面接を受けてみるとなかなかいい結果が出ません。
理由として、特化した業界・業務知識が乏しかったこともありますが、一番の原因は「何となく転職」という彼の態度にあると思われます。
市川さんは、「残業が少なそう・楽そう」という思い込みだけで社内SEを選んでいました。キャリアアップしたいなどのポジティブな発想ではなく、どちらかというと現実逃避的なネガティブな発想から転職活動をスタートしていることは否定できません。面接時にも、特に「なぜ転職するのか」について明確に採用側が納得できるPRができていなかったのです。
彼なりに自分のITエンジニアとしてのスキル、キャリアに自信を持っていたことが悪い方向に働き、どこか社内SEを甘く見ていたところがあったことも理由として挙げられます。現プロジェクトが多忙だったとはいえ、企業情報もろくに確認せずに面接本番に臨んでいたことすらあったようです。
転職活動に失敗した3人の事例を紹介しました。冒頭の梅本さんは、そもそも今後何をしたいのか、どうなりたいのかが明確になっていませんでしたし、次の柴原さんは欲を出しすぎて自分の実力を見誤っていました。最後の市川さんは、なぜ転職するのかをきちんと説明できない状態で転職活動をしていました。
3者3様のケースに見えますが、ここから読み取れる大事なことは共通しています。それは、転職に当たっては「なぜ転職をするのか」という動機と「今後、どのようになりたいのか」というビジョンを明確にすることが必須ということです。これはどのような面接でも必ず聞かれる、採用者側が一番重要視しているポイントだからです。
また、転職活動の「テーマ」をきっちりと確立することも大切です。
「給与アップ」「キャリアアップ」「勤務地の変更」「キャリアチェンジ」……。さまざまな希望をかなえるために、「自分の強みは何か」「その強みをどのように生かせるのか」「どの業界・企業・ポジションで最も力を発揮できるのか」を事前に自己分析し、情報収集をして活動することをお勧めします。
例えば複数の企業から内定が出て、どれも魅力的に感じて判断に迷ったとき、転職活動のテーマがしっかりしていれば優先順位が明確になり、間違いのない判断ができると思います。
1969年生まれ、大阪府出身。私立理系大学卒業後、精密機器メーカーにてソリューション提案営業を経験し、2000年にアデコへ入社。現在、IT系人材・ITエンジニアを専門にキャリアコンサルティングを担当。営業としての観点とキャリアコンサルタントとしての経験から、1人1人のニーズをくみ取り的確な情報提供・アドバイスをすることを念頭に転職支援を行っている。
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