小沢さん(仮名・34歳)は、中堅ソフトウェア会社で業務系システムの開発に携わるITエンジニアでした。担当は主に詳細設計以降。会社が3次請けであったため、上流工程を経験できる可能性がほとんどないことに不安を覚えるようになり、上流工程から担当できる環境を探そうと転職活動を始めました。
業務はかなり忙しく、ほぼ毎日22時前後まで仕事をしていました。いったん辞めて転職活動をすることも考えたそうですが、小沢さんは自分が「追い詰められると空回りしてしまう性格」だという自覚があったため、仕事を続けながらじっくりと転職活動をすることにしました。
最初のうちは暇を見つけてはWebサイトで求人情報を集めていましたが、限界を感じて、弊社の人材紹介サービスを利用することにしたそうです。私は多くの求人案件を紹介しましたが、なかなか時間の取れない小沢さんは、その中から3社ずつくらいを並行して受けていくことにしました。
何社かで面接の機会もありましたが、日程がなかなか調整できず、調整できても業務上の急なトラブルで当日キャンセルというようなこともありました。致し方ない事情によるものなのですが、企業からは「仕事時間の調整もできない人物なのか」と思われることにもなりました。
「もう少し仕事が暇になってから転職活動をした方がよいのではないか」と考えたこともあったそうです。とはいえ、仕事が暇になるめどはまったく立たなかったため、気を取り直して、根気よく転職活動を続けました。
転職活動は長期戦になりましたが、苦労のかいあって、5カ月後についに内定を獲得。業務も処遇も大変満足できる内容で、小沢さんはすぐに転職を決めました。現在は希望どおり上流工程を担当し、ますます活躍しているようです。
退職してからの転職活動、在職中の転職活動、どちらがいいのかは難しい問題です。それぞれにメリットとデメリットがあるからです。具体的には、次のようなことが挙げられると思います。
<退職してからの転職活動>
メリット
デメリット
<在職しながらの転職活動>
メリット
デメリット
最終的には自分が納得できる転職活動ができればよいのですが、私は、可能な限り「在職しながらの転職活動」をすることをお勧めします。
退職してしまうと精神的に追い詰められ、プレッシャーが大きくなってしまうため、相当しっかりとした強い気持ちを持って臨まなければなりません。また離職中ということで、企業よりも弱い立場になってしまいます。離職期間が長びけば焦りも大きくなります。これらの理由から妥協をしてしまい、希望どおりの転職ができない可能性もあるのです。
妥協した転職をしてしまうと、近いうちに再び転職をすることになります。転職回数が増えてしまうことで、さらにその次の転職において不利な状況となるかもしれないのです。
在職中での転職活動は時間が取りにくく、また「背水の陣」ではないため、長期化するとモチベーションが下がってくることがあります。「これほどしんどい思いをしてまで、転職しなくてもいいのかな」と考えるようになってしまうのです。転職するか・しないかを冷静に判断するためにも、「なぜ自分は転職するのか」を常に明確にしておく必要があります。苦労の末に転職先が決まっても、業務引き継ぎ・会社からの引き留めにより、すぐに退職できない危険性もあります。
しかしそういったデメリットがあったとしても、精神的に追い詰められることなく、じっくりと落ち着いて転職活動を行えることは、十分なメリットであると考えています。できる限り、在職しながら転職活動することをお勧めします。
アデコ 関西支社 人材紹介サービス部 コンサルタント
大阪府出身。大学卒業後、メーカー系ソフトウェア会社へ入社。約7年間SEとして官公庁・電力・交通システムの開発を数多く経験。同社を退職後、アデコへ転職。現在IT業界専門のコンサルタントとして、ITエンジニアの転職支援に従事。求職者のビジョンとスキルをうまく調和させたキャリアプランの提案を心掛けている。
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