エンジニアに必要な国語の技術:経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(10)(3/3 ページ)
エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回のテーマは、社内外とのコミュニケーションに欠かせない「国語力」。「部長は帰っていない」はここに「いる」のか「いない」のか? 句読点一つで意味が変わるので、日本語はやっかいだ。
構成を決めてから書く
的確な文章表現力があるとビジネスで効果が上がると述べてはみたが、実のところ、効果的な文章を書くコツがあるなら筆者が教えてほしいくらいだ。しかしここで文章を書いている手前そうも言っていられない。勇気を奮って、文章を書く上で筆者が心掛けていることを二つ書こう。
一つは、構成を決めてから書くことだ。
A4の紙にプリントして一枚を超える長さの文章は、どのような構成で書いたのかが一読して目に見えるようでないと、読み手の頭に内容が入りにくい。読みやすい文章を書くためには、書き始める前に構成を決めておくことが重要だ。
筆者は文章の構成を決める際に、白い紙の真ん中に文章のテーマないしはタイトルを書いて丸で囲み、その周囲を囲むように、書こうと思う項目と項目ごとのキーワードを手書きでメモして、「何を書くか」を洗い出すことにしている。
書きたいテーマとキーワードを書き並べ尽くしたら筆記用具を変えて(例えば鉛筆から赤ペンに)、書くべきテーマに対して「どんな順番で書くか」を考えて、順番に番号をマーキングして、文章の構成を決めている。せいぜい5分か10分の作業なので、この一手間を惜しまない方がいい。
単行本であればこのメモを目次のように整理して眺めて考えてみるが、1万字程度までの文章であれば、紙一枚に書き殴ったメモだけを見ながら書ける。構成の見通しを付けてから書く方が速く書けるし、出来上がった文章が読みやすくなることが多い。
曖昧の除去で表現を改善
二番目に心掛けているのは、「曖昧の除去」と文章を見直すことだ。
例えば、下書きの段階では「○○と思う」「○○と考える」といった、自分の考えに対する自信度を反映した文末や、程度の強さを表す副詞を文中に使い、考えをいわば迷いながら文章の形にしていることが多い。こうして書いた文章の文末を言い切りにしたり、副詞を削除したりできないかとチェックする。
内容的に可能なら、8割方はその方が文章がすっきりして言いたいことが伝わりやすい。副詞を削って、言い切って、それで意味が通じるなら、たいていはその方がいい文だ。
曖昧の除去には、「助詞の『も』や『の』をなるべく使わない」など幾つかのコツがあるが、常に使える原則として一般化するのはなかなか難しい。
明快かつしゃれた日本語を書くのは、センスと努力の両方を必要とする高度な技能だ。そのための参考書として、「考える短歌 作る手ほどき、読む技術」(俵万智著/新潮新書)を挙げておく。もともとは短歌の作り方を語った本だが、すっきりとしていながら味わい深い散文を書く上で大いに応用できるヒントが多数述べられている。ご一読をお勧めする。
それにしても日本語は難しい。例えば、本稿のタイトル「エンジニアに必要な国語の技術」。言いたいことは「エンジニアにも必要な国語の技術」と助詞「も」を入れる方がより正確に思えるが、タイトルとしてどちらがいいのかは微妙だ。
筆者は、「会社は2年で辞めていい」(幻冬舎新書)という本を出したことがあるが、当初考えていたタイトルは「会社は2年で辞めてもいい」だった。辞めてもいいけど、辞めないのもありだ、というニュアンスを伝えたかった。しかし出版社の営業部門から、「も」が入らない方が語呂と切れ味が良いと意見が出て、前記のタイトルに落ち着いた。どちらが本当に良かったのかは、いまだに分からない。
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筆者プロフィール
山崎 元
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。
2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトで『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。
※この連載はWebサイト『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を、筆者、およびサイト運営会社の許可の下、転載するものです。
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