XML関連仕様の動向を毎月お届け!
W3C/XML Watch - 12月版

慶應大学で次世代Webに触れる

加山恵美
2001/12/12

ついに日本でW3C Day 開催

会場となった慶應義塾大学のキャンパスは、すっかり秋の景色でした

 11月29日、イチョウの葉が舞う慶應義塾大学三田キャンパスにて「W3C Day」が開催されました。日本のW3Cホストによる初のW3C Dayとあって、会場はほぼ満席の盛況ぶりでした。

 今月のW3C/XML WatchはこのW3C Dayの報告を中心にお届けします。ただしビッグイベントを前にしたせいか、肝心のW3CのWebサイトでの技術文書の方は、残念ながら更新があまり見られませんでした。年末は、W3C Day以外にも各国で行われるイベントがいくつか開催予定なのでそれらの準備があったからかもしれません。

W3Cの11月の動き

 今月もまずは、W3Cの公開文書について見ていきましょう。11月はXMLに関して、勧告、勧告案、勧告候補に昇格したものはありませんでした。ドラフトの中で1つだけラストコールが設定されていたのがありました。それは11月20日に発表になったExclusive XML Canonicalization version 1.0で、XML Canonicalizationで排他処理を行うときの仕様です。

 これは今回初めて発表された文書ですが、ラストコールが3週間後の12月11日と早めに設定されています。今後の動きも早くなるかもしれません。また同じくもう1つ、新出のドラフトがあります。これからW3Cが注力していくであろうと思われるセマンティックWebに関連する仕様となります。それは11月16日に発表されたSemantic Interpretation for Speech Recognitionで、音声認識に関係する仕様です。まだまだ出たばかりで今後どうなるのか、セマンティックWeb全体と併せて今後も見守っていきましょう。


イベントの入り口に掲げられたバナー(上)。W3Cの創設者であるTim Berners-Leeの、SMILによる動画でのあいさつ(下)

初の日本のW3Cホスト主催「W3C Day」

 W3C Dayというイベントは、W3Cスタッフによるセミナーです。イベントはW3Cの広報・普及のための活動の一環として行われ、W3Cが策定した技術やガイドラインなどの解説が行われます。これまでも世界各地のW3Cオフィスにて開催されてきましたが、今回は初めて日本のW3Cホストである慶應義塾大学が主催するW3C Dayとなりました。また、同時通訳が入り日本語と英語の2カ国語で行われるという点でも初めてとなりました。

 今回のイベントでは、同じくW3Cのホストである米MIT/LCSと仏INRIAからもスタッフが駆けつけ、慶應義塾大学からは全スタッフが運営に参加して、それぞれのスタッフによる技術解説が行われました。さらに冒頭のあいさつではSMILを用いて、Webの発明者でもありW3C DirectorでもあるTim Berners-Leeが会場の参加者に顔を見せました。当日のアジェンダが「W3C Day at Keio」として、W3Cのサイトに掲載されています。

セマンティックWebからSVGまで

 今回のイベントでは、W3Cの歴史から始まり、4つの技術セッション、最近の話題とタウンミーティング、最後にキャンパスのカフェテリアに移動して懇親会で締めくくられました。

 この日行われた技術セッションの内容を、簡単に紹介していきましょう。

  • セマンティックWebへの取り組み
     Webの発展と並行して、HTMLやXMLは技術仕様としてはほぼ完成の域に達してきた。今後、W3Cが注力していくのが次世代のWebともいわれる「セマンティックWeb」だ。従来のHTMLでは、いろんな表示技術によって人間の興味を引いたり、理解を助けたりする。しかしあくまでもHTMLは人間へのプレゼンテーションのための技術であり、人間がコンテンツを読んで、理解しなくてはならない。

     そこで、Webページのデータに対して、意味を補足する「メタデータ」を追加して、Webページの機械的処理をしやすいようにする、これがセマンティックWebだ。例えば、メタデータによって、店舗の営業時間、画像の撮影日や撮影者、といったことまで検索エンジンのキーワードで検索可能になるかもしれない。このメタデータの表記にはRDF技術が用いられる。セマンティックWebではXML技術をベースに利用し、スキーマを規定する用語の一覧である「オントロジー」を加え、メタデータ上で検索や処理ができるようにする。

     セマンティッックWebは、現時点ではまだまだ概念的にも技術的にもこれからの領域である。現在W3CではRDFのワーキンググループと、新設された Web Ontology WGが中心になって取り組んでいる。

  • Annotea: An Open RDF Infrastructure for Shared Web Annotations
     Annoteaとは、Webで用いられるコンテンツに注釈を付けるためのインフラである。Webサイトの利用者が、だれでもそのWebにメタデータとしての注釈を記述することができる。注釈にはRDF技術を用い、その注釈がWebにてユーザー同士で共有できるようにもする。Annoteaは、セマンティックの実現に向けた試験的なプロジェクトのような性格を帯びており、ゆくゆくは、セマンティックWebで機械的な処理を助けるための機能の一部となる可能性もある。

  • コンピュータ以外からのWebアクセス技術とその実際
     PCやPDA、携帯からセットトップボックスまであらゆる機器から、Webアクセスができるようにするための活動(Device Independence Activity)は、日本を中心に行われている。日本では携帯電話が広く普及し、いまやWebの閲覧も可能となった。次は家電をWebと接続するソリューションに注目が集まりつつある。これらのコンピュータ以外からのデバイスによるWebへのアクセスにおける現状の問題点、具体的な解決策に用いられる技術要素、コンテンツ変換などが論じられた。

  • Beyond SVG 1.0 - Mobile SVG and XML Integration
     SVG技術の概要について、実例を交えながらプレゼンテーションが行われた。SVGのデータはベクトルであり、ラスタやピクセルを用いたものではないので、画像のサイズや縮尺を変更しても鮮やかさを保つことができる。さまざまなSVGを使った図のサンプル、動画のバリエーション、テキスト表示方法の属性など、多様なSVG技術が披露された。

タウンミーティング

 最後のタウンミーティングではW3Cのスタッフが壇上に並び、参加者との自由な意見交換会となりました。まず最初の質問にて、特許問題に関する率直な意見が出ました。米国で繰り広げられているW3Cの特許問題についての議論を、日本でも知らしめて正しく進めるために、W3Cは尽力してもらいたい、という激励の言葉でした。これに対してW3C側は、翻訳作業の公平性や労力による困難さを述べつつ、背景を解説していました。

 また、W3C標準に準拠しているかどうかをチェックするためのテストスイートやバリデータの開発には、どれくらい取り組んでいるのか、といったことに関する質問があり、それに関連してW3CのQuality Assurance活動W3C標準の一覧表が紹介されました。この標準の一覧表では、ステータスだけではなくそれぞれの標準に対するバリデータやテストスイートの有無も表示されているので、標準に準拠した製品を開発するエンジニアにはかなり役に立ちそうです。

タウンミーティングでは、W3Cの主要スタッフがずらりと勢ぞろいした

 ではまた来月お会いしましょう。

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セマンティックWebの姿がかいま見えた「W3C Day」 (@IT News)


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