W3C/XML Watch - 9月版
MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL
加山恵美
2001/9/12
■MITが熱すぎて停電?
日本の夏は猛暑でTOO HOTでしたが、W3Cも相変わらずドキュメントが頻繁に更新されてVERY HOTな状態でした。
そういえば8月の頭には、W3Cのサイトを運営しているMITのビルディングが電源障害のため停電してしまうということがありました(主電源が焼け落ちたそうです)。翌日には無事に復旧しましたが、当然、Webサイトも影響を受けてしまい、少しの間参照できない状態になりました。後日に謝罪文がサイトに掲示されていましたが、電源が焼け落ちるくらいW3Cは活発で熱かったのかもしれませんね。
■W3Cの8月の動き
8月に晴れて勧告へと昇進したのはSMIL 2.0です。SMIL1.0が勧告になったのは1998年6月ですから、約3年を経て新たなバージョンのSMIL2.0が勧告として登場したことになります。SMILについてはこの後であらためて紹介しましょう。
勧告案は3つ出ました。XML Information Set、XML-Signature Syntax and Processing、XSL 1.0です。XSL1.0の知名度は高かったため、まだ勧告になっていなかったのが意外に感じられました。この3つの勧告案はすべて9月中にラストコールが設定されているため、勧告まであと本当に「もう少し」の状態です。早ければ来月には勧告として紹介できるものがあるかもしれませんね。期待していてください。
ドラフトの動きもかなり活発です。約10のドキュメントが新たに発行されたり、更新されています。その中からいくつか紹介しましょう。DOM3に関するものが2つあります。DOM3 イベント仕様とDOM3 XPath仕様です。また、技術の組み合わせとして、XHTML+SMIL プロファイル、XQuery 1.0とXPath 2.0の機能に関するものもありました。まだまだXML技術は発展を続けています。
■勧告化されたSMIL 2.0
今月勧告になったSMIL2.0について少し紹介していきましょう。ちなみにSMILは「スマイル」と発音し、正式名称はSynchronized Multimedia Integration Languageです。このSMILは画像や動画などのマルチメディアを統合したり同期を取るための、XMLをベースとした記述言語です。SMILを使えば、マルチメディア満載のエキサイティングなWebページを作ることが可能になります。文字が映画のタイトルロールのようにスクロールしたり、写真や動画をプレゼンテーションソフトのようにワイプさせたり、これらの要素を1つのウィンドウ内にレイアウトしたり、画面効果が発生するタイミングを制御することもできます。ウィンドウはさながらテレビを編集した画面のようになり、ストリーミングを使えばダウンロード待ちでユーザーがイライラすることもありません。また、アプレットなどの部品を組み合わせるのではなく、全体を統合的に管理できるので、制作側のメリットも見逃せません。
SMILコンテンツのプレーヤ、つまりSMIL1.0が再生可能なソフトには、QuickTime 4.1やRealPlayer 8があります。また、SMIL2.0勧告案段階の機能を盛り込んだものとしてはOratrix社のGRiNSがあります。IE 5.5もまたSMIL 2.0ドラフトにある多くの機能に対応しています。IE 6.0になるとXHTML+SMIL Profileのドラフトを実装しています。
RealSlideshowの画面。SMILコンテンツが作成できる |
SMILを使ったコンテンツを作成するツールは、Real社のRealSlideshowが有名です。ただしこれは英語版で提供されています。日本語に対応したSMILコンテンツ作成ツールは、ドコモシステムズ社のSMILEditor 2.0があります。このSMILEditor 2.0は今年の3月にバージョンアップして、RealSystem 8 CODECやDVフォーマットの追加など利用可能な画像の範囲を広げたり、レイアウト機能を強化しています。
ところで今回勧告されたSMIL2.0ですが、勧告前のコードネームは「SMIL Boston」と呼ばれていました。SMIL1.0が勧告になった翌年の1999年にはワーキンググループが結成され、最初のパブリックドラフトが公開されています。約2年半の活動を経て勧告として完成しました。SMIL1.0と比較してSMIL2.0は、アニメーション、インタラクティブ性、テレビ放送との統合機能が強化されています。
すでにプレーヤではSMIL2.0に対応したものがいくつか登場していますが、晴れて勧告となったので今後は正式に対応する製品が増えてくることでしょう。また、オーサリングツールも早くSMIL2.0に対応したものが登場するといいですね。
■HumanML
今月の興味深いニュースとして、OASISからHuman Markup Languageという技術が紹介されました。現時点ではまだ開発段階だそうです。このHumanMLとは、XMLを通じて人間同士のコミュニケーションに役立つための技術だそうです。「人対人のボキャブラリに柔軟に対応する技術……?」。 なんだかエイプリルフールの冗談みたいですが、れっきとした技術として開発されいるもようです。
思えば、メールや掲示板では、たまに「顔文字」のように文字で表情を表現することがありますね。英文用の顔文字と日本で普及している顔文字は違うので、海外の人が相手の場合は使い分けなくてはなりません。日本人同士でも文字だけのコミュニケーションでは、微妙なニュアンスを伝えたり相手をリラックスさせることはなかなか容易なことではありません。そんな私たちの日々のもどかしい思いを解決してくれるなら大歓迎なのですが……。さてどんな技術になるのでしょうか。
それではまた来月。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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