W3C/XML Watch - 10月版
XMLの改定仕様はブルーベリー
加山恵美
2001/10/11
■9月の更新は少なめ
9月は米国のみならず、世界中が大惨事を目撃してしまいました。被害者、関係者の方々には深く哀悼の意を捧げたいと思います。事件の影響もあり、9月はW3Cで更新された技術文書の数は普段より少なめでした。株価や技術開発の進ちょくに影響があるのは無理はないとしても、1日も早く事態の解決と経済や産業の復興が進むことを願ってやみません。
■W3Cの9月の動き
9月に勧告となったのは初旬に同時に発表された2文書のみになってしまいました。ともにグラフィックスに関する仕様で、SVGと、SMIL Animationです。新たに勧告案となったものはありませんでした。
一方、勧告候補に昇格したのはXPointerです。また、XMLとは直接は関係ありませんが、User Agent Accessibility Guidelines 1.0も勧告候補にステータスが変化しました。
開発中のドラフトの中でXMLに関係があるものとしては、RDFに関するものが3つ、最終更新日の古い順にRefactoring RDF/XML Syntax、RDF Test Cases、RDF Model Theoryです。DOMではDocument Object Model (DOM) Level 3 Core Specification Version 1.0、XMLスキーマ関連では、XML Schema: Formal Descriptionがあります。
少し気になるものにXML Blueberry Requirementsがあり、9月21日にワーキングドラフトになっています。これはXMLのUnicodeに関する拡張を目的とした仕様案の要件です。この要件には、XML 1.0以後に拡張されたUnicode 3.1などの扱えるキャラクタが広がり、またメインフレームなどの改行文字への対応も含まれているようです。扱えるキャラクタの関係でXMLが進出できなかったところへも、XMLソリューションを導入するチャンスが与えられるかもしれません。
■9月の勧告:SVGとSMIL Animation
9月に勧告となったのはSVGとSMIL Animationですが、特にSVGへの期待は高く、勧告は待望の知らせといったところではないでしょうか。SVGとはXMLで記述されるベクターグラフィック言語です。Webの世界で鮮やかで映えるグラフィックスの標準化、またXMLとの組み合わせでより効果的となることが期待される要因です。しかしこの仕様も勧告までに時間がかかっていました。最初のSVGのドラフトが発表になったのが1999年2月11日付で約2年半前です。
その当時、グラフィックスに関して大きな2つの提案が世界を二分している状況でした。SVGの最初のドラフトが発表になる1年前、1998年4月にアドビ・システムズから「Precision Graphics Markup Language(PGML)」が提案され、IBM、ネットスケープ・コミュニケーションズ、サン・マイクロシステムズが賛同していました。また一方で、その2カ月後の1998年6月には「Vector Markup Language(VML)」を、オートデスク、ヒューレット・パッカード、マクロメディア、マイクロソフト、ビジオらがW3Cに提出していたのです。その中、新たな統一仕様として開発が始まったのがSVGです。SVGにはPGML側とVML側の双方の企業に加え、アップルコンピュータ、コーレル、クォークなども参加して準備が進められてきました。
またSMIL Animationは、8月に勧告となったSMIL2.0と深く関連があります。SMIL AnimationはXMLのアニメーション(動画)に特化した仕様で、SMIL1.0をベースにSMIL2.0の技術のサブセットを採り入れています。
■W3Cの7つのポイント
W3C in 7 pointsのページ |
さて、W3Cのサイトには、W3Cミッションの説明の1つとして「W3C in 7 points」というページがあります。W3CがWeb世界での標準を作成する中で、目標や趣旨となるキーワードを7点、簡潔にまとめています。今回は、この7つのポイントを紹介しましょう。
- ユニバーサル・アクセス(Universal Access)
Webにあらゆる環境、あらゆるユーザーからアクセス可能となることを目標としています。これらに関して、Device Independence Activity、Web Accessibility Initiativeがあります。
- 意味が通じるWeb(Semantic Web)
言葉だけではなく、システムでも相互の意図が伝わるように、意味論的にも通じ合えるWebとなることを目指します。この場でこそXMLやXML Schema、RDFが活躍します。
- 信頼(Trust)
Webは新聞のように、一方的に発信されるのではなく相互作用があるメディアだからこそ、接続時の信頼性が重要になります。これに関係してXML signaturesがあります。
- 相互運用性(Interoperability)
大昔とは違い、いまではOSやソフトウェアの種類は多種多様です。その中で互いに連携が取れるように、ベンダに依存しない標準を策定していきます。
- 柔軟な進化(Evolvability)
どんなに卓越した技術でも、将来発生する問題をすべて解決できるとは限りません。だからこそ、現在稼働中のものに混乱を与えることなく、簡易性、互換性、拡張性などを設計に組み込むようにしています。
- 分散(Decentralization)
分散とはシステムだけではなく現代社会の原則でもあります。中央集結型だとボトルネックが発生する危険があります。柔軟性は分散システムに不可欠で、Webだけではなくインターネットの生命でもあり呼吸でもあります。
- クールなマルチメディア(Cooler Multimedia!)
自由自在な画像、良い音質、ビデオに3D効果などが含まれたインタラクティブで豊かなWebを嫌いな人がいるでしょうか。W3Cはコンテンツ提供側に限界を与えないようにします。エンドユーザーの意見も採り入れW3Cは「よりクールなWeb」にするために、SVGやSMILを開発しています。
■ところで、なぜBlueberry?
ところで、9月のドラフトで紹介したなかでXML Blueberryというのがありましたが、なぜBlueberryという名前なのでしょうか。そういえば、Bluetoothという名称の由来は「バイキングの王様がBlueberry好きで歯が青くなったから」という冗談がありましたが、そういったものではないだろうし。アメリカのモバイル用無線メールシステムだったような、いやあれはBlackberryで色違いだし……。要するに「Unicode拡張したXMLの仕様」のコードネームであることは確かなようですが、はっきりとした由来には到達できませんでした。いつか正しい理由が分かりましたらまた報告いたします。
Blueberryといえば果物のブルーベリーは生でそのまま食べてもおいしいですよ。目にも良いらしいです。パソコンに向かいすぎて目が疲れたときはブルーベリーでもお1つ、いかがですか。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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