W3C/XML Watch - 5月版
P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開
加山恵美
2002/5/16
皆さん、こんにちは。すっかり初夏を思わせる気候になってきました。ゴールデンウイークはどう過ごしましたか? 5月病に負けず今月も頑張りましょう。さて、4月はついにP3Pが勧告になりました。また、ドラフトは発表された数でいえば先月の約3倍にも上ります。
■あの記事、ご覧になりましたか?
4月末にXML eXpert eXchangeフォーラムでは、「XMLと関連仕様に強くなる〜W3Cサイト徹底攻略!〜」という記事を掲載しました。XMLといえばW3Cが情報発信の中心地となります。英語だらけでちょっと敬遠されがちなW3Cですが、慣れればそう難しくはありません。私と一緒にW3CとXMLの達人を目指して頑張りましょう。
■4月の勧告、勧告案、勧告候補
4月は勧告が1つ、勧告候補が2つで、勧告案はありませんでした。
勧告になったのはP3P 1.0です。P3PはWebサイトとユーザーとの間で、個人情報を安全にやりとりするためのXML関連技術です。個人情報を守り、電子商取引などを円滑に進めることができるようにするのが目的とされています。
このP3Pは、技術策定の過程でW3C自身がP3Pのワーキンググループのメンバーから特許侵害で提訴される可能性に直面して、開発作業が一時中断に追い込まれたことがありました。このP3P以外にも特許に関する問題があったため、その後W3Cは技術と特許に関する方針をまとめるべく動き始めました。P3PはW3Cに対して、技術が社会に与える影響を強く再認識させた技術といえるでしょう。そんな経緯で難産ではありましたが、P3P 1.0はようやく勧告となりました。
勧告候補となったのは2つありますが、共にSVG関連でラストコール付きです。SVG 1.1仕様と、モバイルSVGプロファイルです。
SVGとはベクタ画像の表現を可能にするXML関連技術。SVG 1.1仕様とは、SVG 1.0に続くSVGの新たな標準仕様であり、モバイルSVGプロファイルは携帯やPDAといった環境でSVGが使えるようにするための仕様です。
SVGの最初のバージョンである1.0は2001年の9月に勧告になりました。その翌月末には、次期バージョンである1.1のドラフトが発表になり、着実に仕様策定作業が進み、約半年後には勧告候補まで到達しました。すでにラストコールが6月下旬に予定されているので、次の段階に進むのはそう遠くはないかもしれません。
またSVGといえば、7月にはスイスのチューリッヒでSVG Openのデベロッパカンファレンスが開かれます。SVGに関するW3C内外の動きは活発で、それがまた技術策定の動きを加速させているのでしょう。
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.1 Specification(4月30日発表、6月23日ラストコール)
- Mobile SVG Profiles: SVG Tiny and SVG Basic(4月30日発表、6月23日ラストコール)
■ドラフトの動き
4月は大量にドラフトが発表されました。まずはラストコールが設定されたものから見ていきましょう。ラストコールが設定されているのは4つあります。
1つ目は、CSS3 モジュール:カラーです。CSSレベル3にて扱われる色に関するプロパティ(変数)についての仕様です。2つ目はVoiceXML 2.0です。前回発表された最初のドラフトから約半年で順調にラストコールまできました。
3つ目はXML 1.1です。XML Blueberryとも呼ばれた次期版のXML 1.1ですが、ついにドラフトから脱出しようとしています。XML 1.1では主にUnicodeに関する拡張が大きな特徴となっています。XML 1.0が公開された時点でのUnicodeのバージョンは2.0でしたが、現時点では今年3月末に公開された3.2が最新版となっています。2.0以降のUnicodeについては現在のXMLでは一部利用できないこともあり、それを改善するのが大きな目標です。非常に重要な仕様のためか、一般的には発表から1カ月先にラストコールの締め切りが設定されることが多いのですが、この場合はやや幅を持たせて2カ月後にラストコールを設定しています。
最後に、4月末に公開されたのが、WWW用のキャラクターモデルです。前のXML 1.1と似ていますが、WWW(World Wide Web)における文字の取り扱いに関するものです。
- CSS3 module: Color (4月18日発表、5月17日ラストコール)
- Voice Extensible Markup Language (VoiceXML) Version 2.0(4月24日発表、5月24日ラストコール)
- XML 1.1(4月25日発表、6月28日ラストコール)
- Character Model for the World Wide Web(4月30日発表、5月31日ラストコール)
次にラストコールが設定されていないものについて、発表日順に見ていきましょう。
まず、4月のドラフト発表第1弾としてXML名前空間関連が2つ続けてありました。XML名前空間 1.1と、XML名前空間 1.1要件です。もともと、XML名前空間 1.0は1999年1月に勧告となっていますので、2年の後、1.1として再スタートを切ることになります。1.1では現状の1.0の問題点を克服し、接頭辞を宣言しない能力を提供する予定です。
- Namespaces in XML 1.1(4月3日発表)
- Namespaces in XML 1.1 Requirements(4月3日発表)
それに続く4月上旬発表のドラフトは3つあります。音声合成マークアップ言語仕様が1つと、DOM3に関するものが2つ。音声合成マークアップ言語仕様はVoiceXMLと関連性が深く、W3CのVoice Browserアクティビティが現在重点的に策定を進めている仕様です。DOM 3については、コア仕様と、読み込みと保存に関する仕様が公開されました。
- Speech Synthesis Markup Language Specification for the Speech Interface Framework(4月5日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Core Specification Version 1.0(4月9日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Abstract Schemas and Load and Save Specification Version 1.0(4月9日発表)
次も3つまとめていきましょう。まずは4月に勧告となったP3Pの関連仕様である、P3Pプリファレンス交換言語(APPEL 1.0)があります。P3Pが勧告になるのとほぼ同時(正確には1日前)に発表になりました。今後はP3Pの勧告を受け、周辺技術も充実してくるでしょう。次に、SVG 1.1/1.2/2.0要件です。これもまた今月勧告となったSVG関連ですが、複数のバージョンにわたる仕様について述べています。SVG1.1すらまだ勧告候補の段階なので、1.2と2.0について言及する公式な技術文書としては最初のものです。これを見れば、今後のSVGのバージョンアップの展望がつかめることでしょう。最後はXMLシグネチャXPathフィルタです。これはW3CとIETFが共同で発表したもので、XPathを用いて文書のサブセットにデジタルで署名する方法を定義しています。
- A P3P Preference Exchange Language 1.0 (APPEL1.0)(4月15日発表)
- SVG 1.1/1.2/2.0 Requirements(4月22日発表)
- XML-Signature XPath Filter 2.0(4月25日発表)
次に月末に発表されたものからRDF関連のものをまとめて見ていきましょう。まず4月26日に発表されたRDF Primerです。これは3月に初登場して、先月のこのコラムにて紹介したばかりですが、1カ月後に再び更新されています。それから4月29日にはRDFテストケースとRDFモデル理論が発表になりました。4月30日にはRDFスキーマが発表されました。
- RDF Primer(4月26日発表)
- RDF Model Theory(4月29日発表)
- RDF Test Cases(4月29日発表)
- RDF Vocabulary Description Language 1.0: RDF Schema(4月30日発表)
同じく月末ですが、4月26日から29日までに区切り、RDF以外のものを見てみましょう。1つはアクセシビリティで、残る2つはWebサービスです。アクセシビリティの方はWCAG 2.0要件で、1999年に勧告になったWCAG 1.0のバージョンアップです。それからWebサービスの方は、Webサービスアーキテクチャ要件とWebサービス記述要件が発表になりました。
- Requirements for WCAG 2.0 (4月26日発表)
- Web Services Architecture Requirements(4月29日発表)
- Web Service Description Requirements(4月29日発表)
次に4月30日に発表された中で、クエリ関係を4つ見てみましょう。まずは、XMLクエリ使用例があります。ここではXMLクエリのデータモデルや代数やクエリ言語の使用事例についてまとめてあります。また次にXQuery 1.0関連が3つあります。XQuery 1.0のXMLクエリー言語、XQuery 1.0とXPath 2.0データモデル、XQuery 1.0とXPath 2.0関数と演算子です。
- XML Query Use Cases (4月30日発表)
- XQuery 1.0: An XML Query Language (4月30日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model (4月30日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators Version 1.0 (4月30日発表)
残りの3つも見ていきましょう。それぞれ同時期に発表になった仕様と関連があります。まずは、XHTML + MathML + SVG プロファイルです。これもSVG関連です。今月はSVG関連の仕様が急激に充実しました。それから、前の段落のXMLクエリ関連でXPathに触れているものがありましたが、XPathそのものの2.0の技術文書が更新されました。最後に、XSL T2.0の最新版ドラフトが発表になりました。ここにきて、応用的な仕様を固める動きと並行して、基本的な仕様の次世代版の構築も活発になっているようです。
- An XHTML + MathML + SVG Profile (4月30日発表)
- XML Path Language (XPath) 2.0(4月30日発表)
- XSL Transformations (XSLT) Version 2.0(4月30日発表)
■ノート
今月発表になったノートは以下の2つです。
- Describing and retrieving photos using RDF and HTTP (4月19日発表)
- XHTML Media Types(4月30日発表)
■怒とうの文書公開
今月はまさに技術文書の発表ラッシュとなりました。特に、特許に関係するP3P やSVGに関する仕様が次々と固まってきているのが今月の傾向といえるでしょう。少し前に発表された特許方針(ドラフト)でロイヤリティフリーの方向性が固まっ たとありましたが、これにより、特許が絡んで保留中となっていた案件の懸念事項が払拭され、技術文書の更新と発表にこぎつけたのかもしれませんね。
技術文書の更新も活発ですが、XMLに関係したイベントも世界各地で続々と案内されています。XMLのすそ野が広がり、ますます活発化している様子が強く感じ取れますね。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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