W3C/XML Watch - 2月版
Webサービスの「振り付けグループ」が発足
2003/2/18
そろそろ春が近づいてきました。1月はW3Cの勧告が3本も発表になり、活発な2003年を予感させる好スタートを切りました。下旬にはドラフトやノートも多く更新されています。
■グラフィックビジネスのPAGE2003でもXMLが盛況
印刷やDTP業界のカンファレンス「PAGE2003」が2月5日から7日まで東京・池袋で開催されました。この業界では最終成果物が紙媒体となりますが、制作過程を効率化するために、電子化された文書、特にXMLの活用への関心も非常に高いところです。基調講演では、今後社会でメディア環境が大きく転換することで発生するインパクトについてさまざまな予見や考察がなされていました。
PAGE2003の展示会場。XML Publishing ZONEが設けられていた |
セッションではXMLコンテンツを使ったeラーニングやNewsMLなど、XMLをベースにした技術を解説するものが見受けられました。セッションも展示会場も大入りでした。
■W3C:1月の勧告、勧告案、勧告候補
では、今月もW3Cの動きを報告していきましょう。1月は勧告が3本、勧告案がなし、勧告候補が1本発表になりました。
勧告になったのはDOM2が1本とSVG関連が2本です。DOM2はDOM 2 HTML Specification Version 1.0で、これで晴れてすべてのDOM2が勧告になりました。現在DOM関連で開発中の仕様はDOM3関連と、それからDOM1の第2版となります。一方SVG関連では、SVG 1.1とモバイルSVGプロファイルの勧告が発表になりました。SVG 1.1は、SVGの機能を再利用可能なモジュールに分割し、モバイルSVGプロファイルはそれらのモジュールを携帯電話やPDAといったモバイル機器で最適な状態で統合して利用できるようにしたものです。
- Document Object Model (DOM) Level 2 HTML Specification Version 1.0 (1月9日発表)
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.1 Specification (1月14日発表)
- Mobile SVG Profiles: SVG Tiny and SVG Basic (1月14日発表)
勧告候補になったのはVoiceXML 2.0です。VoiceXMLを扱う「音声ブラウザワーキンググループ」はW3Cの中でも最大規模で、活動も活発です。その中でVoiceXML 2.0の勧告化を待つ声はとても多いのですが、勧告化には特許問題が大きな障壁になるといわれています。特許問題はW3C内の特許諮問委員会にて解決していくことになります。
- Voice Extensible Markup Language (VoiceXML) Version 2.0 (1月28日発表、勧告候補期間は4月10日まで)
■1月のドラフトとノート
ドラフトは全部で12本発表になりました。ラストコールが付いたのは以下の6本で、すべてRDF関連です。ラストコールもすべて同じ1カ月先が指定されていて、順調にいけば1カ月後には勧告候補ラッシュを迎えるかもしれません。とはいっても、1月末時点でラストコール付きドラフトは全部で23本あり、そのうちラストコールの期限が切れたものは13本もあります。期限切れでも勧告候補に上がらないのはそれぞれ理由がありますが、特許関連が影響したものが多いようです。先月も書いたのですが、特許問題が解決したら本当に勧告候補ラッシュが起きることでしょう。
- Resource Description Framework (RDF): Concepts and Abstract Syntax (1月23日発表、ラストコール2月21日終了)
- RDF Semantics (1月23日発表、ラストコール2月21日終了)
- RDF Primer (1月23日発表、ラストコール2月21日終了)
- RDF Vocabulary Description Language 1.0: RDF Schema (1月23日発表、ラストコール2月21日終了)
- RDF/XML Syntax Specification (Revised) (1月23日発表、ラストコール2月21日終了)
- RDF Test Cases (1月23日発表、ラストコール2月21日終了)
そのほかの6本のドラフトは、XMLスキーマが2本、WSDLが2本、それから CSS2レビジョンとXHTML 2.0 です。
- XML Schema: Component Designators (1月9日発表)
- Requirements for XML Schema 1.1 (1月21日発表)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 1.2 (1月24日発表)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 1.2: Bindings (1月24日発表)
- Cascading Style Sheets, Level 2 revision (1月28日発表)
- XHTML 2.0 (1月31日発表)
1月に発表されたノートは6本です。ここのところ、ノートとして発表される技術文書類が増えているようです。
- Multimodal Interaction Requirements (1月8日発表)
- Requirements for EMMA (1月13日発表)
- Requirements for the Ink Markup Language (1月22日発表)
- LBase: Semantics for Languages of the Semantic Web (1月23日発表)
- Common HTTP Implementation Problems (1月28日発表)
- Common User Agent Problems (1月28日発表)
■Webサービス振り付けの作業グループが発足
W3CではWebサービスのコレオグラフィ(振り付け)の実現を目的とした作業部会「Webサービスコレオグラフィ ワーキンググループ」を設置しました。コレオグラフィとは、ワークフローのように複数のWebサービスが連携する様子を表現するものですが、コレオグラフィを実現するためには、それを定義するの共通言語の策定が重要だとW3Cは考えているようです。しかし実際には、ここにも知的財産権をめぐる政治的な膠着(こうちゃく)状態が障壁として存在しており、ワーキンググループの大きな悩みのタネとなりそうです。
■OASISでXRIの作業を開始
XML関連といえばOASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards)の動きは組織的にも技術的にも見逃せません。W3CではおもにHTMLやXMLなどの基本的な技術についての仕様を策定していますが、OASISではその標準の上で、ビジネスにおける情報交換用技術標準を作成している国際的な団体です。XMLのビジネス利用が進むにつれ、OASISでもさまざまな標準が策定されつつあります。そこで今月から、OASISの情報もこの記事で紹介していくことにしました。
1月のOASISの動きとしては、まず分散ディレクトリのための「リソース特定技術」の改良作業(Extensible Resource Identifier:XRI)に取り組むことが発表になりました。Web技術の大きな柱の1つである「Uniform Resource Identifier(URI)」関連仕様は、Web上でのリソース特定のためのものですが、これはXML以前に策定されたもので、これを現状に対応できるように改良の必要性が高まってきたことが背景にあります。
また、ビジネスに利用するためのボキャブラリなどを策定しているUBL(Universal Business Language)では、請求書や発注書といったビジネス文書の標準フォーマットが提案されたり、UBLのためのXML Schemaの最初のドラフトがリリースされたりしました。
OASISはさまざまな組織を設置して、XMLの動きに影響を与えています。これ以外にも新たに設置された委員会には、WebサービスにおけるPKI利用促進を図る技術委員会、業界別にビジネス文書のXMLガイドラインを策定する委員会などがあります。またOASISメンバーにより、テロや犯罪の情報を迅速に検索したり共有する世界共通のフレームワークを開発する技術委員会も発足させました。
■セキュリティ対策にXML
OASISにテロ対策の技術委員会ができたと述べましたが、ほかにも米国内では安全対策に注目が集まっています。テロや戦争の危機が一段と高まっている社会情勢を考えたら当然の流れでしょう。例えば、国際臨時警報プロトコル技術ワーキンググループを通じてCAP(Common Alerting Protocol)という公共安全報告用のプロトコルが提供されることになりました。このCAPはまだドラフト0.6版ですが、情報管理や警報発令のためのオープンなデータ交換用フォーマットです。ほかにも、米連邦取引委員会(FTC)では電話で受信を拒否するシステムにXMLフォーマットを用いることになりました。こういった場面でXMLが採用されるのは、XML関連仕様のセキュリティ能力が評価されている証でしょう。
■XML5歳のお誕生日、おめでとう
2月10日でXML誕生5周年になりました。2月10日以降の数日間は記念週間として、5本のろうそくが立てられたかわいらしいケーキがW3Cのトップページを飾っています。ご覧になりましたか? (編集注:2月17日現在もまだ表示されています)
W3Cのトップページでは、XMLの誕生日を祝って5本のロウソクが並んだケーキの画像が表示されています |
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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