W3C/XML Watch - 2月版
Webサービスアクティビティが発足
加山恵美
2002/2/15
いまとなってはずいぶん前のことのように感じられますが、去年のクリスマスのころはW3Cから怒とうの勢いで大量の技術文書が発行されていました。年が明けて1月7日には、今年最初の新しいニュースが発表され、そこからW3Cは本格的に活動を再開したもようです。今年のW3Cではどんな展開があるのでしょうか。
■1月の勧告、勧告案、勧告候補
1月にW3Cから新たに発表された勧告、勧告候補はありませんでした。唯一、勧告案に昇格したのがP3P 1.0です。この技術はプライバシーを扱うために、これまで難航を極めてきたプロジェクトであり、いまでもW3Cは非常に慎重に開発を進めています。まだ最終的な勧告にはたどり着いていませんが、勧告案にまでくればあともう少しのはずです。正式に勧告にたどり着いた暁にはあらためてP3Pについて紹介しましょう。
■ドラフトの動き
12月に比べるとおとなしめでしたが、1月もドラフトは活発でした。順に見ていきましょう。
まず、ラストコールが設定されているものでは、XForms 1.0とMedia queriesがあります。XForms1.0は12月もドラフトが発表され「次に発表されるドラフトはラストコール付き」と予告されたとおり、ラストコール付きドラフトが発表になりました。もう1つのMedia queriesは表現方法にかかわる仕様です。
- XForms 1.0 (1月18日発表、2月22日ラストコール)
- Media queries (1月23日発表、2月20日ラストコール)
そのほかに発表されたドラフトも見ていきましょう。年が明けてから間もなくの1月8日にはSVG関連が2つ更新されました。SVGの新バージョンであるSVG 1.1と、SVGのモバイル仕様となるMobile SVG Profilesです。また、1月14日にはDOM3関連が2つまとめて発表になりました。コア仕様となるDOM3 Core Specification V1.0 と、DOM3 ASLSとも略されるDOM3 Abstract Schemas and Load and Save Specification V1.0です。DOM3関連の仕様は毎月必ずといっていいほど何かが更新されています。DOM3も徐々に開発されてきているようです。
- Scalable Vector Graphics (SVG) Version 1.1 (1月8日)
- Mobile SVG Profiles: SVG Tiny and SVG Basic (1月8日)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Core Specification Version 1.0 (1月14日)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Abstract Schemas and Load and Save Specification Version 1.0 (1月14日)
■特許関連のノートが公開
1月に発表されたノートです。1月勧告案となったP3P関連のものもあります。
- Current Patent Practice (1月24日)
- An RDF Schema for P3P (1月25日)
- XHTML+SMIL Profile (1月31日)
P3Pも重要ですが、特許関連のノートも出ています。W3Cの特許については特集「特許問題に揺れるW3C」で、問題提起から議論までの経過を報告しましたが、これはその続報に当たるアウトプットといえるでしょう。
このノートでは現状の特許問題について記述されています。去年問題となった「W3C Patent Policy Framework」については、8月のドラフトから現時点まで活発な議論が続けられていますが、正式な更新はされていません。しかし1月の活動を見る限りでは、ほぼロイヤリティフリーの方向でいくことが確認されたようです。これももう少ししたら正式な発表にこぎつけそうです。その暁にはまた報告したいと思います。
■W3Cの活動グループ
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1月末にはW3Cの新しいアクティビティ「Webサービス」が発足しました。W3Cによれば、Webサイトへのプログラム的なインターフェイスを持つアプリケーションコンポーネントが、「Webサービス」と呼ばれます。
Webサービスアクティビティの目的は一連の技術が潜在的な能力を最大限に引き出せるようにすることです。Webサービスアクティビティには、「Webサービス・アーキテクチャ・ワーキンググループ」「XMLプロトコル・ワーキンググループ(1月の時点では未結成のようです)」「Webサービス・デスクリプション・ワーキンググループ」の3つのグループと、それぞれを調整するコーディネーショングループが含まれています。今後、Webサービス標準化の推進役となってくれるでしょう。
この新規アクティビティを紹介したついでに、W3Cの活動グループについて紹介しましょう。
W3Cは多くの技術策定を手掛けていますが、それぞれが完全に独立しているわけではありません。W3C内の活動単位を大きく分けると5つの「ドメイン」に分かれます。このドメインはさらに関連する技術ごとに活動単位が分かれていて、それが「アクティビティ」や「ワーキンググループ」と呼ばれています。企業でいえば事業部や部署・課といったような感覚でしょうか。各グループはドメイン内で相互に情報交換しています。
W3Cには以下のような5つのドメインがあり、それぞれに下記に示すようなアクティビティもしくはワーキンググループが存在しています。
- アーキテクチャードメイン
−DOM
−Jigsaw
−URI
−Webサービス
−XML
- ドキュメントフォーマットドメイン
−Amaya
−画像
−HTML
−国際化
−数学
−スタイル
- インタラクションドメイン
−デバイスインディペンデンス
−マルチメディア同期
−ボイスブラウザ
- 技術と社会 ドメイン
−プライバシー
−セマンティックWeb
−XML暗号化
−XMLキー管理
−XML署名
- Webアクセシビリティイニシアティブ(WAI) ドメイン
−WAI国際化プログラムオフィス
−WAI技術活動
アーキテクチャドメインでは、XMLのDOMといったシステムの基盤となる技術、ドキュメントフォーマットドメインでは画像やHTMLなどの表現に関する技術、インタラクションドメインではデバイス・インディペンデンス(機器非依存性)やマルチメディアに関する技術、技術と社会ドメインでは技術が社会に与える影響について研究・考察し、WAIドメインではアクセシビリティに関する技術と国際化を進めていくようにしています。これらのドメインを軸としてW3Cの活動は協力して運営されています。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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