W3C/XML Watch - 12月版
DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場
2002/12/17
■11月はXML関連のイベントが目白押し
2002 XML Japanの基調講演を行ったティム・ブレイ氏 |
Internet World Asia 2002の特別講演を行った北川和裕氏 |
W3CでSMILやXFormに携わってきたテリー・ミッチェル氏 |
11月後半以降には、XML関連の会合やイベントが目白押しでした。今回のW3C/XML Watchは、それらの紹介から始めましょう。
○2002 XML Japan
日本では11月28日から30日まで東京・青山テピアで2002 XML Japanが開催されました。基調講演では、W3CやXMLに長く深くかかわってきたAntarctica Systems社のティム・ブレイ(Tim Bray)氏が、WebやXMLの発展の経緯や特徴、W3Cの技術仕様にかかわる諸問題について講義しました。さらにユーザーインターフェイスについても言及し、より視覚的なインターフェイスが次世代のWebの重要な要素になると述べました。画面を効率よく使うことや、表示される情報の密度を高めるための技術論などが展開されました(関連ニュース「XMLは、Webを変える力、進化させる力」)。
最終日の30日には、XMLにかかわる開発者が集い、日ごろの技術を発表する「第7回 XML開発者の日」が行われました。土曜日なので私服が会場にあふれ、参加者同士の親密な雰囲気も伝わってきました。今回は、IMEの内容をXMLで記述するソフトウェアや、携帯電話上で動作するXMLパーサ、Unicodeの裏側など、技術的に深い内容が相次ぎました。最後の発表ではパネルディスカッション形式でRelaxerユーザーが壇上に上がり、使い勝手などを報告していました。
○Internet World Asia 2002
12月5日には東京ビッグサイトにてInternet World Asia 2002が開催され、特別講演としてW3Cスタッフで慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 プロジェクト助教授の北川和裕氏からセマンティックWebに関する講演がありました。その中で北川氏は、WebサービスとセマンティックWebは競合するものではなく、共に今後の高度なWebに必要なものだと述べました。セマンティックWebに必要なメタデータの重要性を強調すると同時に「今後Webで情報発信するときは、人間にしか分からない情報だけではなく、機械が扱えるデータもWebページに含めるようにすることを考えてもらいたい」と話していました。
ちょうどその会場にはフランスのINRIAからW3Cスタッフのテリー・ミッチェル(Thierry Michel)氏も来ていました。彼はSMILやXFormsの開発に携わってきた人です。これらの仕様の現状を聞いてみました。「去年の夏にSMIL 2.0が勧告になって以降はSMIL自体の開発は一段落して、RealPlayerやQuickTimeといったような他形式のメディアとの連携を進めています。それはSMIL 3というようなバージョンアップとは違い、現状のアドオンという形になるでしょう。一方XFormsは11月に勧告候補となり、技術的な開発はほぼ完成したところです。今後は、実装のための調整、テスト、役員からの承認という段階となります。開発とは別の意味で厳しい段階ですね。XFormsは来年の3月まで勧告候補期間で、さらに約3カ月おいて6月に完成することを目標にしています」とのことでした。
では、今月もW3Cから発表されたドキュメントを見ていきましょう。
■11月の勧告、勧告案、勧告候補:XPointer関連が3本など
11月は勧告がなし、勧告案が6本、勧告候補が1本発表になりました。勧告にもうすぐ手が届くものが一気に増えました。
DOM2関連仕様の相関を示した図(クリックすると、DOMアクティビティページへジャンプします) |
まずは勧告案から日付順に見ていきましょう。上旬にDOM2 HTML Specificationが出ました。これはDOM2に残された最後の勧告待ちの仕様です。これが勧告となればDOM2はついに完成することになります。参考としてですが、DOMアクティビティページにはDOMの各レベルにおける各仕様の相関図が分かりやすくまとめられていますので、目を通しておくことをお勧めします。13日にはXPointer関連のドキュメントが3本発表になりました。
- Document Object Model (DOM) Level 2 HTML Specification(11月8日発表、レビュー期間は12月6日まで)
- XPointer element() Scheme(11月13日発表、レビュー期間は12月13日まで)
- XPointer Framework(11月13日発表、レビュー期間は12月13日まで)
- XPointer xmlns() Scheme(11月13日発表、レビュー期間は12月13日まで)
さらに15日にはSVG関連のドキュメントが2本発表になりました。SVG 1.0 は 2001年9月に勧告になってから翌月末には 1.1 が登場し、着実に開発を進めてきました。1年強という速いペースで勧告案にまで到達しました。勧告まであともう少しです。
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.1 Specification (11月15日発表、レビュー期間は12月20日まで)
- Mobile SVG Profiles: SVG Tiny and SVG Basic (11月15日発表、レビュー期間は12月20日まで)
勧告候補となったのはXForms 1.0です。勧告候補期間が長めに設定されていますが、今後の予定は上記でミッチェル氏が述べたとおりです。
- XForms 1.0(11月12日発表、勧告候補期間は2003年3月5日まで)
■11月のドラフト:発表ラッシュで28本!
11月に発表になったドラフトは驚くなかれ、28本もあります。11月は前半が発表ラッシュでした。
まず、ラストコール付きの2本から見ていきましょう。1つはCC/PPです。CC/PPはクライアントのデバイスに応じたコンテンツ選択や変換を行うための仕組みで、P3Pと協調して使われることもあります。これもセマンティックWebの重要な技術の1つです。
もう1つは特許にかかわる仕様です。W3Cの発表する仕様をロイヤリティフリーにすべきかどうか、去年夏に突発的に発表され大論争を巻き起こしました(関連記事「特許問題に揺れるW3C」)。今年の2月の更新でロイヤリティフリーを明確にしてからはしばらく静寂を保っていましたが、ついに最終ドラフトが発表になりました。このままロイヤリティフリーの方向でいくことになりそうです。
- Composite Capability/Preference Profiles (CC/PP): Structure and Vocabularies(11月8日発表、ラストコール11月27日)
- Patent Policy Working Group Royalty-Free Patent Policy(11月14日発表、ラストコール12月31日)
それからラストコールなしのものを見ていきましょう。今回は量が多いので分野ごとにまとめます。発表時期が前後するので気を付けてください。まずWebオントロジー関連が3本公開されました。ガイドは初登場です。絶対構文にはセマンティックが付与されて「絶対構文とセマンティック」となりました。
- Web Ontology Language (OWL) Guide Version 1.0(11月4日発表)
- Web Ontology Language (OWL) Abstract Syntax and Semantics (11月8日発表)
- Web Ontology Language (OWL) Reference Version 1.0(11月12日発表)
CSS3関連は2本です。ボーダーが新規で、リストが更新されました。
- CSS3 module: Border(11月7日発表)
- CSS3 module: Lists (11月7日発表)
また、RDF関連は6本公開されました。RDF/XML構文仕様(改訂版)、RDFのコンセプトと絶対構文、RDF入門、RDFセマンティック、RDFスキーマ、RDFテストケースです。RDFはセマンティックWebで重要な役割を担うためか、仕様充実に力が入っています。
- RDF/XML Syntax Specification (Revised)(11月8日発表)
- Resource Description Framework (RDF): Concepts and Abstract Syntax (11月8日発表)
- RDF Primer(11月11日発表)
- RDF Semantics(11月12日発表)
- RDF Vocabulary Description Language 1.0: RDF Schema(11月12日発表)
- RDF Test Cases(11月12日発表)
QA(品質保証)フレームワークは3本発表になりました。概要、運用ガイドライン、仕様ガイドラインの3本立てです。
- QA Framework: Introduction(11月8日発表)
- QA Framework: Operational Guidelines(11月8日発表)
- QA Framework: Specification Guidelines(11月8日発表)
Webサービスも3本更新されました。Webサービスのアーキテクチャ、アーキテクチャ要件、用語集です。アーキテクチャと用語集は初登場です。
- Web Services Architecture(11月14日発表)
- Web Services Architecture Requirements(11月14日発表)
- Web Services Glossary(11月14日発表)
XQueryとXPath関係もまとめて見ていきましょう。まず、XQuery 1.0とXPath 2.0がそれぞれ単体で更新されています。それから、XQuery 1.0とXPath 2.0を組み合わせた仕様が3本更新されました。それらはデータモデル、フォーマルセマンティック、関数と演算子です。加えて、XML Query使用例も更新されました。
- XQuery 1.0: An XML Query Language(11月15日発表)
- XML Path Language (XPath) 2.0(11月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model(11月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Formal Semantics(11月15日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators(11月15日発表)
- XML Query Use Cases(11月15日発表)
最後に分野としては別々ですが、同日発表になった3本を紹介します。それぞれとても重要な仕様ばかりです。まず、World Wide Webのアーキテクチャです。識別、表現、相互作用に関連する技術的な仕様についてと、社会的な課題にも言及しています。この文書はとても中身の濃いものになりそうです。それから、XSLT 2.0が更新され、SVG 1.2 が初登場となりました。SVGといえば、SVG 1.1が今月勧告候補となったばかりなのにもかかわらず、SVG 1.2が登場しました。このSVG 1.2ではXMLフォーマットとの統合、ラッピング、プリンティング、ストリーミング、レンダリングモデル、DOM拡張など、多岐にわたって仕様の範囲が広がることになります。
- Architecture of the World Wide Web(11月15日発表)
- XSL Transformations (XSLT) Version 2.0(11月15日発表)
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.2(11月15日発表)
■ノート
11月はノートの発表はありませんでした。
■W3Cサイトとバリデータがリニューアル
W3Cから提供されているバリデータが改善されました。バリデータとは、作成したWebページが、W3Cから発表されたHTML関連仕様に適合しているかを調べるためのものです。今回のリニューアルでは外観だけではなく、パフォーマンス向上のためにバックエンドを増強したり、XHTML、MathML、SVGなど対応する仕様の範囲の拡充をしたり、バグの対処も施されたそうです。
また、12月初めにはW3Cのサイトのデザインが変わりました。3段組なのはいままでどおりですが、色使いやフォントなどが少し変わりました。華美さを抑え、シンプルかつ洗練されたデザインとなっています。
ではまた来年、お会いしましょう。良いお年を。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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