W3C/XML Watch - 8月版
4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場
加山恵美
2002/8/24
■体もパソコンもお元気ですか
8月は猛暑の日々が続きましたが、夏バテは大丈夫でしたか。ところで先日、弟から普段とは違うアドレスからメールが届いたので何かと思ったら、落雷で自宅のパソコンがモニタもろとも壊れてしまったという報告でした。気を付けなくてはならないのは暑さだけではないようです。暑さ対策、さらに落雷対策も施して夏を乗り切りましょう。
■7月も熱かったWebサービス
XMLだけではなくIT業界全体で、7月も引き続きWebサービス関連イベントやニュースが活発でした。7月11日にはIDG主催の「Webサービスカンファレンス」が開催されました。後援であるW3Cはもちろん、Webサービスにかかわる企業が集まり、来場者も1000人を超え、盛況でした(ニュース「W3C、Webサービスへの取り組みを語る」)。特別講演ではW3CのWebサービス・アクティビティリードであるヒューゴ・ハース氏から、Webサービスの解説が行われました。講演ではWebサービスの定義からその可能性、さらに現在のW3Cでの取り組み状況として、今年発足したWebサービス関連のワーキンググループを中心に、SOAPやWSDLほか、各種仕様の開発進ちょく状況も報告されました。また、Webサービスによる機械と機械の対話において、オントロジーやセマンティックWebの重要性が強調されました。
Amazon.comがWebサービス経由で利用可能になると発表 |
イベント以外にもWebサービス関連のニュースが相次ぎました。Webサービスをめぐる技術的な進展や政治的な動きにかかわるものが多かったのですが、面白いものとして米Amazon.comがWebサービスから利用可能になるというニュースがありました。これはAmazon.comのアフィリエイトプログラムの一環で、開発キットが無料配布されます。これにより任意のサードパーティのWebサイトからXMLやSOAPを介してAmazon.comの機能が利用できるようになります。皆さんご存じのように、Amazon.comはネット上の巨大な本屋です。一度は利用したことがある人が多いのではないでしょうか。このニュースを聞くと、Webサービスがよりいっそう現実味を帯びてきたように感じられます。
もう1つ、Webサービス初心者の方に朗報です。日本のXMLコンソーシアムによって、Webサービスに関する情報がまとめられ、公開されています。知識の整理に役立つと思いますので、目を通しておくとよいでしょう。
○Webサービス委員会技術解説書
○Webサービス開発ガイド
余談ですが、筆者は最近Webサービスの定義として聞いた「Webサービスとは、ほかのWebサイトのソフトウェアにプログラムからアクセスするための仕様であり、決して、宗教論争を意味するものではない」という言葉が強く記憶に残っています。最後の部分は皮肉ですが、実に簡潔で的を射ていると思います。
振り返れば、Webのコンテンツは静的なものから動的なものへと進化してきました。これからはサイト内だけではなく、サイト間の情報や機能を使い、より動的なものへと変化していくのでしょう。いまはこれを実現するための技術として「Webサービス」という表現がもてはやされていますが、これは特殊な機能でも特異な環境でもなく、Web世界の発展そのものなのでしょう。
■UDDIのOASIS移管とUDDI3.0発表
UDDIの左上のロゴがOASISに |
Webサービスに関連する大きなニュースとして、企業間電子商取引向けディレクトリととなるUDDIが、今後は標準化団体OASISに活動を移管すると発表されました。同時に、最新仕様となるUDDI3.0も発表になりました。早速、UDDI..orgのトップページにOASISのロゴが追加されたのが印象的です。
■ 7月のW3C勧告、勧告案、勧告候補
では、W3Cからの発表を見ていきましょう。7月は勧告が1つ、勧告案はなし、勧告候補が3つ発表になりました。
まずは勧告から。7月に勧告になったのは、Exclusive XML Canonicalization Version 1.0です。5月末に勧告案となり、1カ月のレビュー期間を経て、滞りなく勧告に昇格しました。これはXML文書を正規化するXML Canonicalizationを拡張した仕様となります。
次に勧告候補を見ていきましょう。
7月最初に勧告候補に昇格したMedia Queriesは、スタイルシートがどんな種類のデバイスに適用されるのかを記述するメディアタイプのレジストリと、スタイルシートの適用範囲を制限するための表現をまとめたものです。このモジュールは将来、CSS3にも含まれることになっています。このドラフトのレビュー期間は「少なくとも半年」ということで長めに設定されています。その期間中に相互運用性と実装について重点的にレビューをしていく予定となっています。
また、月末にはこれに関連のある仕様として、CSS Mobile Profile 1.0 が勧告候補として発表になりました。もともとは昨年10月末に勧告候補として発表されたのですが、レビューや実装した人からの意見を採り入れ、改訂を加え、今月再び勧告候補として発表になりました。Media Queriesと同様に、レビュー期間は最短でも半年と長い期間が設定されています。
一方、少し分野は変わりますが、XML-Signature XPath Filter 2.0も勧告候補になりました。この仕様ではXPathを使用して文書サブセットにデジタルで署名する方法を示しています。こちらはレビュー募集期間は短めです。仕様としてかなり固まっているのでしょう。今後の早い動きが期待できそうです。
- Media Queries (7月8日発表)
- XML-Signature XPath Filter 2.0 (7月18日発表、レビュー期間8月8日まで)
- CSS Mobile Profile 1.0 (7月25日発表)
8月1日にはXHTML 1.0の改訂版が勧告になり、翌日の8月2日にもいくつか勧告候補やラストコール付きのドラフトが発表になりました。詳しくは来月お伝えします。
■ドラフトの動き:XPointer関連がまとめて発表
まずはラストコール付きが大半を占める、XPointer関連のドラフトをまとめて見ていきましょう。すべて同日発表です。もともと、去年9月に勧告候補として発表されたXML Pointer Language (XPointer) Version 1.0から、内容が4分割され、ドラフトに戻ることになりました。分割により、フレームワーク、xmlns()スキーム、element()スキーム、xpointer()スキーム、と4つに再編成されました。最後のxpointer()スキームを以外はラストコールが設定されています。勧告候補として返り咲くのも間近でしょう。
- XPointer xmlns() Scheme (7月10日発表、7月31日ラストコール)
- XPointer Framework (7月10日発表、7月31日ラストコール)
- XPointer element() Scheme (7月10日発表、7月31日ラストコール)
- XPointer xpointer() Scheme (7月10日発表)
次にラストコールの設定のないものを見ていきましょう。最初の2つは初登場のWSDL 1.2です。冒頭に紹介したWebサービスカンファレンスでも、最近のW3Cの取り組みとして紹介されていました。これらは他者が構築したWebサービスを利用するために使うものです。同じくWebサービスの重要な要素として注目されているオントロジー言語の要件についても同じ日に更新されました。
- Web Services Description Language (WSDL) Version 1.2 (7月9日発表)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 1.2: Bindings (7月9日発表)
- Requirements for a Web Ontology Language (7月9日発表)
次にDOM3関連が2つあります。とはいっても、元は同じで2分割されたものです。もともとはDocument Object Model (DOM) Level 3 Abstract Schemas and Load and Save Specificationで、そこから今回のValidationとLoad and Saveに派生しました。Abstract Schemas部分はノートになりました。
- Document Object Model (DOM) Level 3 Load and Save Specification (7月25日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Validation Specification (7月25日発表)
最後に月末に発表された4つのドラフトを紹介しましょう。これらはすべてWebサービス関連で、初登場です。最初のものが、Webサービスアーキテクチャ使用例で、残り3つのOWLはオントロジー関連です。OWLとはセマンティックなマークアップ言語であり、オントロジーを共有するものです。今回のOWL Ontology Language 1.0 はReferenceとAbstract Syntax、それから、Feature Synopsis for OWL Lite and OWLです。
- Web Services Architecture Usage Scenarios (7月30日発表)
- OWL Web Ontology Language 1.0 Reference (7月31日発表)
- OWL Web Ontology Language 1.0 Abstract Syntax (7月31日発表)
- Feature Synopsis for OWL Lite and OWL (7月31日発表)
■ノート
7月に発表になったノートは以下のとおりです。
- SOAP Version 1.2 Email Binding (7月3日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Abstract Schemas Specification (7月25日発表)
■Amaya 6.2発表、サイトに新メニュー追加
技術文書の進ちょく状況のほかにも、エディタかつWebブラウザの役割を果たすAmayaの最新版が発表になりました。最新版はAmaya 6.2になります。
またW3Cの動きとして、デバイス非依存アクティビティがリニューアルされ、W3CのWAI(Web Accessibility Initiative)が障害者向けの活動として、スイスのRoland Wagner賞を受賞したというニュースもありました。
最後に小さなニュースを1つ。W3Cサイトのロゴのすぐ下にある青帯のメニューに新しい項目が追加されました。「Site Index」と「About W3C」の間にできた「New Visitors」というメニューです。これは、初めてW3Cのサイトに来た人向けのサイト案内のコーナーです。このページには初心者向けのチュートリアルも案内されています。少しW3Cが親しみやすくなったような気がしますね。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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