XML関連仕様の動向を隔月お届け!
W3C/XML Watch - 10月版
W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催
加山恵美2004/10/22
W3Cは今年で10周年の節目を迎え、12月には記念祝賀イベントをMITに近い米国ボストンで開催するようです。W3Cには祝賀メッセージが次々と届いています。この10年でWebは飛躍的に進化を遂げましたが、この先10年も実りの多いものでありますように。
■8〜9月の勧告、勧告案、勧告候補
それではW3Cの動向から見ていきましょう。8〜9月は勧告が1本、勧告案が1本、勧告候補が3本でした。勧告となったのは前回勧告案として紹介した合成言語のためのSSMLです。順調に勧告へと到達しました。
勧告案はXInclude 1.0です。XIncludeにおけるInclusionとは、複数のXMLインフォメーションセットを1つの合成されたインフォセットに含めること、つまり一体化させることです。XIncludeにはその仕様や経過の制御がまとめられています。
- 【勧告案】XML Inclusions (XInclude) Version 1.0(9月30日発表、勧告案レビュー終了10月29日)
勧告候補はXMLプロトコルワーキンググループが手掛けていたSOAP関連2本とXMLバイナリ最適化パッケージング(XOP)の3本です。3本とも6月にラストコール付きドラフトとなり、そのまま順調にまとめて勧告候補へと昇格しました。
- 【勧告候補】SOAP Message Transmission Optimization Mechanism(8月26日発表、勧告候補フェイズ終了9月15日)
- 【勧告候補】Resource Representation SOAP Header Block(8月26日発表、勧告候補フェイズ終了9月15日)
- 【勧告候補】XML-binary Optimized Packaging(8月26日発表、勧告候補フェイズ終了9月15日)
■8〜9月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが8月に5本、ラストコールなしが8月に5本と9月に3本で合わせて8本、トータルで13本発表されました。ラストコール付きは、WSDL 2.0が3本と、モバイルSVGプロファイルとWWWのアーキテクチャ第1版です。
W3CではWSDLの仕様策定が着々と進んでいますが、実際のWebサービスの普及速度に追い付けず混とんとしているような気もします。それからモバイル向けのSVG 1.2は携帯電話向けで8月に2度更新されています。携帯電話の普及という後押しもあるせいか、頻繁に更新されています。最後のWWWのアーキテクチャ第1版はついにラストコールが付きました。10周年の節目なので、大局をまとめ今後を展望するにはよい時期かもしれません。
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 1: Core Language(8月3日発表、ラストコール10月4日)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 2: Predefined Extensions(8月3日発表、ラストコール10月4日)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 3: Bindings(8月3日発表、ラストコール10月4日)
- Mobile SVG Profile: SVG Tiny, Version 1.2(8月13日発表、ラストコール9月17日)
- Architecture of the World Wide Web, First Edition(8月16日発表、ラストコール9月17日)
次にラストコールなしドラフトです。まずは8月発表の5本から。最初はOWLにおける指定された値の表記についてです。この文書ではオントロジーで使われる多様な値について、クラス分けやそれぞれの列挙という2通りの方法で説明しています。残りはQA(品質保証)です。QAフレームワーク:テストガイドライン、QAハンドブック、QAフレームワーク:仕様ガイドライン、仕様の多様性です。最後のものにはタイトルに「QA」と入っていませんが、同日発表になったQAフレームワーク:仕様ガイドラインをより深く詳細に解説したものです。
- New Representing Specified Values in OWL: "value partitions" and "value sets"(8月3日発表)
- QA Framework: Test Guidelines(8月20日発表)
- The QA Handbook(8月30日発表)
- QA Framework: Specification Guidelines(8月30日発表)
- Variability in Specifications(8月30日発表)
次に9月発表の3本です。EMMAは多様な入力形式におけるアノテーション(注釈)についてです。sXBLはXBLのSVG版ともいえます。将来XBLが拡張したらこのsXBLはそれに組み込まれる可能性もありそうです。最後はInkマークアップ言語で、これはEMMAに近いマルチモーダル関係の仕様で、ペンやスタイラスといった手書き入力を想定しています。
- EMMA: Extensible MultiModal Annotation markup language(9月1日発表)
- New SVG's XML Binding Language (sXBL)(9月1日発表)
- Ink Markup Language(9月28日発表)
ノートは8月のXForms 1.1要件が1本のみでした。
- XForms 1.1 Requirements(8月31日発表)
■今年のSVGOpenは日本の慶應義塾大学で開催
W3CのトップページではW3C関係者がイベントで話したプレゼン資料を開示しています。それを見るだけでもW3C関係者が世界中を駆けめぐって啓もう活動に尽力していることがよく分かります。例えば9月なら第26回 国際化とユニコードカンファレンス、SpeechTEK 2004、そしてエマージング(新興)技術カンファレンスではティム・バーナーズリー氏が基調講演でセマンティックWebを語りました。
日本では9月7〜10日にSVGOpen 2004が慶應義塾大学で開催されました。初日が残念なことに台風の直後で、交通機関の乱れに影響を受けてしまった参加者もいたようです。基調講演は村田真氏が務め、その後はいくつかのグループに分かれてSVGについての技術講習会が開催されました。SVGはグラフィックを扱うので、見た目にも鮮やかなプレゼンが多く見られました。
写真 SVGOpen 2004での講演 |
開催地が日本であることを配慮してか、SVGで扱う図柄に日本の家紋を出す外国人スピーカーもいました。家紋ではなく木の葉でも、同じモチーフをSVGで重ねて並べてみると日本画っぽく見えてきます。ふと考えると、日本の古い屏風の絵などにはフラット(立体感のない)図にバリエーションを持たせて連続して並べるようなものもあります。「意外とSVGと日本画って相性がいいのかも」と思えてしまいました。
■OASISの動き
これまで独自に活動していたDCML(Data Center Markup Language)の活動がOASIS会員セクションに移ることになり、OASISには新たに4つのDCML技術委員会が設置されました。これらの技術委員会では、データセンターを中心として、自動化や情報交換の効率化を促進する技術について開発や検討を進めていきます。
最近OASIS技術委員会で委員会ドラフトとして承認されて、一般公開レビューになっているのが、XACML技術委員会のXACML 2.0、セキュリティサービス技術委員会のSAML v2.0です。また一般レビューが終了して10月31日に投票が締め切られるものが、UBL技術委員会のUBL v1.0と、WSRM技術委員会のWS-Reliability v1.1です。
W3C同様に、OASISでも関連するイベントが海外各地で開催される予定です。例えば、10月20〜22日にはオーストラリアでOASIS Open Standards Days、10月26〜28日にはベルギーでEurope BuilConn-Network Building Systems Forum 2004、11月15〜19日にはアメリカでXML Conference & Exposition 2004などが予定されています。
■今度は道路交通情報の実証実験に成功
XMLコンソーシアムが新たなWebサービスの実証実験に成功してみせました。以前は旅行情報でしたが、今回は道路交通情報です。
XMLコンソーシアムでは財団法人日本道路交通情報センター(JARTIC)から試験的に提供される道路交通情報を配信し、またはほかのコンテンツと組み合わせることをWebサービスで実現したと発表しました。実験の結果は「ITS(高度道路交通システム)世界会議 愛知・名古屋2004」でも展示されました。
今年は台風の直撃が多く、交通規制もたびたび発生しています。車で移動する際にはこうした交通規制をはじめ、渋滞や事故などの道路交通情報が円滑に配信されればより安全性が増すことになるでしょう。
冒頭でも述べましたが、今年はW3Cの10周年だそうです。私も振り返ってみれば今年は大学を卒業してから10年目なので、10年の重みを考えると感慨深いです。ではまた再来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
|
|