W3C/XML Watch - 8月版
SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化
加山恵美2004/8/19
2カ月のごぶさたです。前回は梅雨明け後の暑さを気にしていたのですが、実際に訪れた暑さにはもう絶句という感じです。猛暑はさておき、W3CではSSMLが勧告案になりました。ほかにもVoiceXML、SOAPとXMLバイナリ関係、それからXQueryの進展が目覚ましいです。また秋以降は興味深いイベントがいくつか開催される予定です。
■6〜7月の勧告、勧告案、勧告候補
それではW3Cの動向から見ていきましょう。6〜7月は勧告はなし、勧告案は1本、勧告候補はありませんでした。勧告案となったのは人工音声生成のためのSSMLです。SSMLは音声インターフェイス技術の一環で、Webとほかのアプリケーションで人工的に音声を生成するために用いられます。
- 【勧告案】Speech Synthesis Markup Language (SSML) Version 1.0(7月15日発表、勧告案レビュー終了2004年8月27日)
音声技術といえば、9月13日から米国ニューヨークでSpeechTEKというイベントが開催されます。ティム・バーナーズリー(Tim Berners-Lee)氏が基調講演を務めるほか、VoiceXML関連技術の講演も予定されています。
■6〜7月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが6月に3本と7月に1本で合計4本、ラストコールなしが6月に4本と7月に22本で合計26本発表されました。
まずラストコール付きドラフトでは、SOAPが2本、XMLバイナリ最適化パッケージング(XOP)、VoiceXML 2.1です。6月8日に発表されたSOAPの2本とXOPはXMLプロトコルワーキンググループが手掛けていたもので、SOAP 1.2のパフォーマンス向上が見込まれています。また同日付でこれに関連したドラフトが2本、ノートも2本公開されています。
もう1つのラストコール付きドラフトが7月末に発表されたVoiceXML 2.1です。今年3月に完成したVoiceXML 2.0の後継です。
- SOAP Message Transmission Optimization Mechanism(6月8日発表、ラストコール7月29日)
- SOAP Resource Representation Header(6月8日発表、ラストコール7月29日)
- XML-binary Optimized Packaging(6月8日発表、ラストコール7月29日)
- Voice Extensible Markup Language (VoiceXML) 2.1(7月28日発表、ラストコール9月1日)
次にラストコールなしドラフトです。まずは6月に発表された4本では、品質保証の仕様ガイドライン、SOAPとXOP関連で2本、デバイス非依存がありました。
- QA Specification Guidelines(6月2日発表)
- SOAP Optimized Serialization Use Cases and Requirements(6月8日発表)
- New Assigning Media Types to Binary Data in XML(6月8日発表)
- New Content Selection for Device Independence (DISelect) 1.0(6月11日発表)
7月にはなんと22本です。まず7月前半にはWWW(World Wide Web)のアーキテクチャ第1版、XQuery 1.0とXPath 2.0の全文検索に関するものが新登場で2本、XMLスキーマが3本、合計6本発表になりました。XMLスキーマ 1.1の2本は初登場です。
- Architecture of the World Wide Web, First Edition(7月5日発表)
- New XQuery 1.0 and XPath 2.0 Full-Text(7月9日発表)
- New XQuery 1.0 and XPath 2.0 Full-Text Use Cases(7月9日発表)
- XML Schema: Component Designators(7月16日発表)
- New XML Schema 1.1 Part 1: Structures(7月16日発表)
- New XML Schema 1.1 Part 2: Datatypes(7月16日発表)
次に、P3P 1.1、セマンティックWebが新登場で2本、XHTML 2.0、XQuery関連で5本が発表になりました。新登場のセマンティックWebの2本はともにプロパティについてです。1つがプロパティ値として使うクラス、もう1つが複雑な関連性を持つプロパティ値について扱っています。
XQuery関連の5本はXML QueryワーキンググループとXSLワーキンググループが共同で作成しているもので、2003年11月に続き再度更新されました(参考:W3C/XML Watch 2003年12月号)。
- The Platform for Privacy Preferences 1.1 (P3P1.1) Specification(7月20日発表)
- New Representing Classes As Property Values on the Semantic Web(7月21日発表)
- New Defining N-ary Relations on the Semantic Web: Use With Individuals(7月21日発表)
- XHTML 2.0(7月22日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model(7月23日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators(7月23日発表)
- XML Path Language (XPath) 2.0(7月23日発表)
- XQuery 1.0: An XML Query Language(7月23日発表)
- XSLT 2.0 and XQuery 1.0 Serialization(7月23日発表)
さらに続きます。CSS3スピーチモジュール、システムと環境フレームワーク、XMLバイナリ文字化使用例、それからアクセシビリティ関係で4本です。CSS3スピーチモジュールはSSMLとも関係があります。システムと環境フレームワークはマルチモーダルの一環です。XMLバイナリ文字化使用例は今年3月に結成されたばかりのXMLバイナリ文字化ワーキンググループの最初の文書です。
アクセシビリティについては、Webコンテンツのガイドライン、CSS技術、WCAG 2.0に沿う技術入門、WCAG 2.0のHTML技術の4本が発表されました。どれもW3Cが公開しているWCAG(Webコンテンツへのアクセスのしやすさの指標)に沿うWebサイトを構築するための技術を解説しています。いい換えると、Webサイトのバリアフリー化を促進するための技術解説です。
- CSS3 Speech Module(7月27日発表)
- New System and Environment Framework(7月28日発表)
- New XML Binary Characterization Use Cases(7月28日発表)
- Web Content Accessibility Guidelines 2.0(7月30日発表)
- New CSS Techniques for WCAG 2.0(7月30日発表)
- New Gateway to Techniques for WCAG 2.0(7月30日発表)
- HTML Techniques for WCAG 2.0(7月30日発表)
ノートは6月に3本と7月に1本で、合計4本ありました。ラストコール付きドラフトで発表になったSOAPとXOP関連で2本、XForm 1.1要件、Webサービス国際化使用例です。
- SOAP 1.2 Attachment Feature(6月8日発表)
- XOP Inclusion Mechanism - Frequently Asked Questions(6月8日発表)
- XForms 1.1 Requirements(6月11日発表)
- Web Services Internationalization Usage Scenarios(7月30日発表)
■W3CとOMAが正式に協調関係に
Webのモバイル技術がますます躍進しそうです。W3CとOMA(Open Mobile Alliance)が7月29日に携帯機器からのWebアクセスに向けた仕様の協同策定を実現する覚書(MoU)を締結したことで、両者間に公的で効力のある協調関係が築かれました。これで両者をはじめ関係者との技術情報の交換や相互技術提供がより効率的になると期待されます。特にW3Cではデバイス非依存やマルチモーダルの取り組みに好影響を与えるでしょう。そのため、いわゆるユビキタス・コンピューティングが加速することになりそうです。
■OASIS新役員に日本企業から2名選出
OASISは8月5日に新役員を発表しました。役員選挙の結果、富士通のMike DeNicola氏が初当選、ほかインテルのEd Cobb氏、ノキアのFrederick Hirsch氏、オラクルのJeff Mischkinsky氏が再選を果たしました。任期は2004年7月30日から2年間です。OASISの役員は2年任期ですが、1年ごとに半分ずつ改選しているようです。日本の参議院みたいですね。加えて、技術諮問委員会(TAB)に富士通のJacques Durand氏、HPのJishnu Mukerji氏、そしてLexis-Nexis社のTimothy Stevens氏が任命されました(プレスリリース)。
本連載5月号の続報になりますが、6月24日にアプリケーション脆弱性技術言語(AVDL)技術委員会のAVDL v1.0が順調にOASIS標準になったと発表がありました。AVDLはアプリケーションの脆弱性に関する技術情報の交換に役立てるためのXMLスキーマです。
また最近では、ビル管理と制御のWebサービス実装のためのoBIX技術委員会と、国際的な健康管理のための国際健康コンティニュウム(IHC)技術委員会が新しく編成されました。既存の委員会も活発に情報発信をしています。Tax XML技術委員会からは方針説明書(PDF)、セキュリティサービス技術委員会からはSAML 2.0の仕様やスキーマなどの一連のドラフト、またWebサービス・セキュリティに関するWSS技術委員会からはREL(Rights Expression Language)とSAMLのトークンプロファイルのドラフトがそれぞれ発表されています。詳しくはそれぞれの技術委員会のページを参照してください。
■XMLに関するイベント
8月末以降に開催されるイベントにはWebサービスとSVG関係のものがあります。8月に入ってSVG関係のドラフトが更新されるなど、イベント開催前に技術進展はますます盛り上がってきそうです。
- Web Services Conference
2004
日時:8月31〜9月1日、場所:東京コンファレンスセンター・品川
- SVG Open 2004
日時:9月7〜10日、場所:慶應義塾大学三田キャンパス
ではまた再来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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