W3C/XML Watch - 5月版
Webサービスの実験成功
WS-Iからは互換性テストツールも
2003/5/20
W3Cでは、3月末と5月冒頭に技術文書の公開ラッシュがあったため、4月は公開文書の比較的少ない谷間になってしまいました。5月中旬からはW3C関連のイベントがめじろ押しで、スタッフがその準備に追われていたのかもしれませんね。しかしXML業界では世界各地で新しい動きや発表が相次ぎました。まずはそうしたニュースの概要を簡潔にお伝えします。
■XMLコンソーシアムが観光業向けWebサービスの検証実験に成功
XMLコンソーシアムでは、Webサービス技術を使用した情報の集配信モデルを構築し、その検証実験に成功したと発表しました(日本観光協会の実データを利用し実用に即したWebサービスの検証実験に成功)。今回の実験では日本観光協会の協力を得て約16万件もの実データが使われました。さらに仮想の地方公共団体から旅行代理店などの広範囲にわたる参加者と、携帯電話やPDAといった多様な利用形態を想定したため、実験とはいえかなり現実的で大規模なものとなったようです。採用された技術には情報の集配信にWSDLを定義し、リポジトリにプライベートUDDI、さらに各社のサーバ群が連携し、Webサービスの構築に必要なノウハウ蓄積という大きな成果を得たようです。
振り返れば、2003年の2月にXMLコンソーシアムが日本旅行業協会と協力してTravelXMLを策定するというニュースを、この記事の2003年3月版で紹介したばかりです。こうしたXMLコンソーシアムと旅行業界の密な連携により、旅行業界はWebサービスとXMLでホットな業界になりつつあります。今日の旅行業界は世界情勢的な不幸が度重なっていますが、こうした技術発展が好影響を与えるよい契機になるといいですね。
また、XMLコンソーシアムでは5月最終週に「XMLコンソーシアムWeek」を開催します。活発な報告や意見交換が期待できそうです。
■XMLマスター取得者4000名を突破
2001年10月から始まったXML技術者認定制度「XMLマスター」が、2003年3月末に取得者合計が4000名を突破しました。開始から1年半後という驚くべき速さです。このXMLマスターはITエンジニアには非常に関心の高い資格制度の1つです。@ITが2002年夏に行ったEngineer Lifeフォーラム(現、@IT自分戦略研究所) の第4回読者調査によると、XMLマスターはベンダニュートラル系資格においてUML技術者認定と並び、取得意向が高い資格であることが分かります。
会社を挙げてXMLマスター取得者育成に力を入れているところもあります。日立システムアンドサービスでは3月に取得者が600名を超えました。4000名の15%を占めています。同社ではSI事業の基盤強化のためXMLマスター育成に力を入れており、2003年10月までには1000名の取得を目標に掲げています。また、@ITではXMLマスター:ベーシック試験対策として「XMLマスターへの道」を連載しています。併せてご覧ください。
では、W3Cの動向を紹介していきましょう。
■4月のW3C文書の更新
4月は勧告、勧告案、勧告候補、ノートの発表はありませんでした。ドラフトはラストコール付きが3本、それ以外が4本で合計7本が発表になりました。
ラストコール付きドラフトには、MathML 2.0の第2版と、XKMSがあります。XKMSはXML SignatureとXML Encryptionで使用される公開鍵の管理のための仕様です。今回はXKMSの本体とバインディングの2本が発表になりました。数式などを表現するためのMathML 2.0は2001年2月に勧告になりましたが、2002年12月に最初のMathML 2.0の第2版が登場しました。MathML 2.0の第2版では修正や追加(DOMなど)が加えられています。
- Mathematical Markup Language (MathML) Version 2.0 (2nd Edition) (4月11日発表、ラストコール5月9日終了)
- XML Key Management Specification (XKMS) (4月18日発表、ラストコール5月23日終了)
- XML Key Management Specification (XKMS) Bindings (4月18日発表、ラストコール5月23日終了)
そのほかのドラフトには、音声認識のためのセマンティック解釈と、W3C技術の国際化に関するガイドラインを提供する文書を生成する計画について述べている国際化用フレームワーク文書ガイドライン、SVG 1.2、Webコンテンツアクセシビリティガイドライン 2.0が発表になりました。
- Semantic Interpretation for Speech Recognition (4月1日発表)
- Framework Document for i18n Guidelines 1.0 (4月17日発表)
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.2 (4月29日発表)
- Web Content Accessibility Guidelines 2.0 (4月29日発表)
■OASISの動き
インターネット標準の上で、ビジネスのための標準仕様を検討するための業界団体OASISでは、今月も新たな委員会の編成がありました。新たに編成された委員会には、アプリケーション脆弱性記述言語(AVDL)を開発する技術委員会、電子購買標準化(EPS)技術委員会、Webサービスビジネスプロセス実行言語(WSBPEL)技術委員会があります。
最後のWSBPELは新設された技術委員会ですが、Webサービスでのビジネスの処理と相互作用を定める言語仕様「Business Process Execution Language for Web Services (BPEL4WS) v1.0」に継続して取り組むことになります。委員会発足と同時に、このBPELを提唱するIBM、マイクロソフト、BEAシステムズ、SAPの各社はこの仕様をロイヤリティフリーにする意向を明らかにしています。一方、W3CではこのBPELとほぼ同様の取り組みがWebサービスコレオグラフィ部会で進められており、WSCIを発表したりしています。このWSCIにはIBMやマイクロソフトが参加していないのが気になります。OASISのBPELとW3CのWSCIが今後どう動いていくのか注目です。余談ですがBPELは「ビーペル」で、WSCIは「ウィスキー」と発音するそうです。
また、OASISのWSIAとWSRP委員会の共同作業によって開発された「Web Services for Remote Portlets Specification 1.0」が委員会仕様として承認され、標準化が目前に近づきました。これはアプリケーション開発者や管理者が、多様な仕様に準拠したリモートコンテンツの選択を、プログラミングすることなしに簡単なクリック操作だけで可能にするための仕様です。
■WS-Iの動き
OASISのほかにもWebサービス関連で動きが注目されるWS-Iがあります。WS-IはWebサービスの普及促進と相互運用性向上のための団体です。ここではセキュリティ仕様を検討する作業部会「Basic Security Profile Working Group(BSPWG)」が発足したと発表がありました。この部会では、Webサービス互換性ガイドラインである「WS-I Basic Profile」を基に、セキュリティを含めたWebサービスの互換性を向上させるためのガイダンスや、セキュアなWebサービスの利用シナリオなどを開発していくとしています。
WS-Iではこのほかに、Webサービス互換性のためのガイドラインを守っているかどうか確認するためのベータ版テストツール「WS-I Testing Tools - Beta Release 2 (v0.93)」もダウンロード可能になりました。C#版とJava版が用意されています。
■そのほかの業界の動き
ほかにも各地でXMLの導入や標準化に向けた動きがありました。
ユーザー認証技術の標準化団体リバティ・アライアンス・プロジェクトがOASISにネットワーク認証のための仕様「Liberty version 1.1」を提出しました。同団体はユーザーのプライバシーと相互運用性の両方を確保し、かつ複数のプロバイダー間の認証を可能にするシングル・サインオン(SSO)仕様策定をはじめとしたネットワーク認証基盤を提供することを目的としています。
米国司法省司法プログラム局のGlobal Justice Information Sharing Initiativeでは、司法XMLデータディクショナリ(JXDD) V3.0プレリリース版を含んだ司法XMLデータモデルを4月に発表しました。2003年6月中ごろまでオープンなレビュー期間としています。
国内では、関西スーパーマーケットが2月から、流通XML-EDI標準のJEDICOS(Japan EDI for Commerce Systems)を用いた国内初の受発注システムを開始しました。
■Amaya 8.0 とW3Cの海外活動
W3Cから提供されているWebブラウザ兼オーサリングツールの最新版となるAmaya 8.0が4月末に公開されました。Amaya 7.0が出たのが2002年12月頭なので、約半年弱ぶりのメジャーバージョンアップになります。その間には細かいマイナーバージョンアップも頻繁にしていました。Amaya 8.0の新機能にはウィンドウ内のメニューアクセスキーと、SVG、SMIL、CSS、MathMLの最新仕様への対応です。W3Cの各技術仕様が更新されるごとにAmayaも更新されるようです。いえむしろ、最新のW3C技術を実装したWebブラウザをW3C自ら提供するために更新する必要があるというべきでしょうか。Amaya 8.0はWindows用、Solaris用、Linux用があり、ソースコードも提供されています。
5月から6月にかけてはW3CやXML関連のイベントが各地で活発に催されています。代表的なものを挙げると、5月6日にはイギリスのロンドンにてXML Europe 2003、5月21〜23日にはハンガリーのブダペストにてWWW2003、6月10〜24日にはW3C Semantic Tourとしてイタリアやドイツなどヨーロッパ各地を巡回します。欧米から遠いのは分かっていますが、アジアの日本にももっと気軽に足を運んでW3Cの技術を伝道してもらいたいですね。
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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