W3C/XML Watch - 10月版
具体的な技術論へ移るセマンティックWeb
加山恵美
2002/10/18
■セマンティックWebカンファレンス開催
セマンティックWebカンファレンスの会場の様子。下の写真の左端が、パネルディスカッションのモデレータを行った萩野氏 | ||||||||
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「セマンティックWeb」という用語がよく登場するようになったのは、昨年11月末に慶應義塾大学で開催された「W3C Day」のころからでした。「Webが利用者の求める情報をより的確にくみ取ってくれたらいいのに」という素朴な理想を、いかに実現するのかというのがセマンティックWebへの取り組みともいえます。あれからもうすぐ1年を迎えようとしています。先月の9月18日には同じく慶應義塾大学で「セマンティックWebカンファレンス」が開催されました。今回はこのカンファレンスの様子を中心にお伝えします。
■ セマンティックWebは具体的な技術論へ推移
セマンティックWebカンファレンスはW3Cの日本におけるホストを担う慶應義塾大学SFC研究所と財団法人情報処理相互運用技術協会の共催で開催されました。
カンファレンスでは、その名のとおり、最初から最後までセマンティックWebについての技術セッションで埋め尽くされました。もはや「セマンティックWeb」はその用語の意味と理想を解説するだけの段階は通過したのです。いまはセマンティックWebを実現するための具体的な技術論が、広範囲にわたって着実に進化している段階へと発展してきたといえるでしょう。
冒頭の来賓講演では、「e-Japan計画とIT技術の今後」と題し、経済産業省 商務情報政策局情報プロジェクト室長 牧内勝哉氏からe-Japan計画の現状と今後の話がありました。e-Japan計画は2005年までの5カ年計画ですが、すでに、高速インターネット環境に接続可能な世帯数や、安価な接続料金といった基盤整備については、2002年夏の数値で当初の目標値を達成したことが明らかになりました。
一方、インターネットの実加入数は伸び悩んでいます。1999年末から2001年末までのインターネット普及率は21.4%から44%と倍増したものの、世界順位からすると13位から16位へと落ち込んでいます。途中経過からは「健闘はしているが、世界はもっと早足でインターネット普及が進んでいた」という実態が浮き彫りになりました。
また、今後のIT関連の取り組みのスケジュールと来年度(平成15年度)予算についても話がありました。セマンティックWebも含めた最新技術の研究開発には、電子政府やネットワーク基盤整理などの柱となる要素には含まれていませんが、それに準じる位置付けとして予算が割り当てられています。
■理想と現実との隔たり
カンファレンスの最後は約2時間がパネルディスカッションに時間が割かれました。モデレータとして慶應義塾大学環境情報学部教授 萩野達也氏、パネリストとして日本アイ・ビー・エム 小倉弘敬氏、日立製作所 来間啓伸氏、富士通 川村直道氏、三菱電機 今村誠氏、日本電信電話 佐藤宏之氏が発表を行い、さらに当日の講演を行った方々も参加して「セマンティックWebは本当に使えるか?」という議題で意見交換が行われました。
ディスカッションでは、セマンティックWebは「プログラムでどう使うのか?」「そもそも本当に使えるのか?」「どこから使っていけばいいのか?」といったような漠然とした数々の問いに、一同がそれぞれ異なった視点で提案や回答をしていました。セマンティックWebが理想とする世界と実現可能な範囲にはまだまだ隔たりがあるのは事実です。現状は、まだ遠い理想までの道程を模索しながらも進むことを開始したことと、具体的な解決策を少しずつ明確にしているという段階ではないでしょうか。
■ContactXMLが勧告化
日本企業の間から新しいXMLボキャブラリが誕生しました。主に日本のソフトウェア企業から成るXMLコンソーシアムのContactXML部会において、ContactXML 1.1が勧告として、10月1日に発表になりました。XMLコンソーシアムの部会に参加する企業が協力して仕様を策定し、このたび完成したことになります。
ContactXMLはビジネスにおける個人情報を記述するための標準仕様です。今回勧告として発表されたContactXMLは多くのソリューションベンダの要望を取り入れ、実装時のデータパッケージング方法を統一したことが特徴で、実装を重視することで普及も促進されると期待されています。「日本ならでは」の重要なソフト、つまり、あて名印刷ソフトではすでに著名なソフトがContactXMLへの対応を表明しており、早くもデータの管理にContactXMLが用いられるものが登場するかもしれません。
■9月の勧告、勧告案、勧告候補
では、9月のW3Cの動きについて。まずは勧告関連ですが、9月は勧告と勧告案がなし、勧告候補が1つ発表になりました。
勧告候補として発表になったのは、XInclude 1.0 です。
- XML Inclusions (XInclude) Version 1.0 (9月17日発表、勧告候補フェイズは11月1日まで)
■9月のドラフト
9月に発表になったドラフトは3本です。先月の量の多さからするとやや寂しい気もします。
1つ目は、今年4月に初登場したNamespaces in XML 1.1が更新されてラストコール付きになりました。2つ目のLink recognition for the XHTML Familyは新登場です。XHTMLファミリにおけるハイパーリンクの仕様を定めるものです。
そして最後にSOAP 1.2 Attachment Featureです。これは8月14日に初めて発表されたものですが、すでにラストコールが設定されています。そのほかのSOAP 1.2関連も7月に一斉に発表になり、大半がラストコールが付いた状態で現在に至っています。もう少しで一斉に勧告候補に昇格するのではないかと期待しています。
- Namespaces in XML 1.1 (9月5日発表、ラストコール9月28日)
- HLink: Link recognition for the XHTML Family (9月13日発表)
- SOAP 1.2 Attachment Feature (9月24日発表、ラストコール10月15日)
先月も触れましたが、更新された技術文書には過去の文書からの差分をハイライト表示させるページが用意されている場合があります。今回のNamespaces in XML 1.1のドラフトでは、「過去のバージョン(Previous version:)」のリンクで表示されるページが、すでにハイライト付き表示になっていました。最新版ではなくなったものには最新版で更新された分が明確に分かるように印が付いています。とても親切で良いですね。
■ノート
9月に発表になったノートは以下の3本です。
- XHTML 1.0 in XML Schema (9月3日発表)
- Open Digital Rights Language (ODRL) Version 1.1 (9月19日発表)
- XMCL - the eXtensible Media Commerce Language(9月19日発表)
■ティム・バーナーズリー氏がマルコーニ賞を受賞
またもW3Cスタッフの受賞のニュースです。W3Cのディレクターであるティム・バーナーズリー氏が、情報通信分野の貢献者に贈られる「マルコーニ賞」を受賞しました。この賞は無線通信の研究でノーベル物理学賞を受賞したグリエルモ・マルコーニ氏にちなんで1975年に設けられたものだそうです。マルコーニ賞はマルコーニ国際フェローシップ財団から贈られました。
9月は8月に比べると文書の更新が少なめでしたが、その分、イベントが活発に開催されていました。日本ではセマンティックWebカンファレンス、海外ではXML Days Europeなどのイベントがあり、W3Cスタッフは数々の講演をこなしていたようです。ほかには、ハンガリーオフィスの新設や、Amaya 6.4がリリースされるといったニュースもありました。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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