XML関連仕様の動向を毎月お届け!
W3C/XML Watch - 12月版

OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近

加山恵美
2003/12/18

 11月は画像フォーマットのPNG(Portable Network Graphics)第2版が勧告になりました。さらにXML技術の根幹をなすXMLや名前空間の改編版となる技術文書が最終段階に近づいています。XMLや名前空間は5年ほど前に勧告になった技術群ですが再度の見直しでより完成度を高めていくことでしょう。同時にまったく新しいDOM3も着々と勧告候補へと進んでいます。今月はドラフトも多く発表され、トータルでは25本の発表になりました。年末のラッシュでしょうか。

11月の勧告、勧告案、勧告候補

 それでは11月のW3Cから見ていきましょう。技術文書発表は11月12日までに集中しています。慶應義塾大学で「W3C Day Japan 2003」が開催されたのが11月14日ですから、W3Cのメンバーたちは、承認処理を終えてすぐに日本へと出発したのではないでしょうか。

 11月の発表は勧告が1本、勧告案が2本、勧告候補が2本でした。

 勧告になったのはPNG第2版です。PNGは画像形式の標準で、1996年に勧告になりました。XMLの勧告よりも前です。ISOの国際標準となるために再度レビューをして第2版が完成しました。

 勧告案となったのは、XML 1.1とXML名前空間 1.1の2本です。XML 1.1は主にUnicodeに対応したXMLの新版で基本的には大きな違いはありません。ただXML1.1が勧告になれば、いつか「xml version="1.1"」と書かれたXML宣言文が登場することになります。影響は大きくないにしても、これまでだれもが「いまのところ宣言文は"1.0"以外にはない」と説明してきたのに、ついにそれが覆されることになり「隠れた大きな変化」と思えてしまいます。ちなみにXML 1.0 第3版は現在編集済み勧告案で承認待機中です。

 勧告候補はDOM3のコア仕様と、読み込みと保存の仕様の2本です。コア仕様ではNodeインターフェイスに新たな属性としてbaseURIを設け、XML Information Setで定義されたプロパティを取得できる機能など、8つのインターフェイスと例外に変更が加わっています。読み込みと保存では、DOM2以降で定義されたドキュメントオブジェクトを対象に、入出力やフィルタリングのためのインターフェイスを用意しています。

11月のドラフトとノート

 今回発表されたドラフトはラストコール付きが7本、それ以外が9本で合計16本でした。ノートは4本でした。今月のドラフトはXQuery 1.0とXPath 2.0に関係するものが多く見受けられます。

 ラストコールが付いたのはXInclude 1.0が1本、XQuery 1.0とXPath 2.0に関連したものが4本、さらにXSLT 2.0関連が2本です。ラストコール期限はXIncludeが2003年中、それ以外はすべて2004年のバレンタインデー翌日となる2月15日です。

 ラストコールなしのドラフトは9本あり、うち3本が初登場です。発表順に見ていくと、まず初登場のInaccessibility of Visually-Oriented Anti-Robot Tests、これはつまりアクセシビリティの一環で、視覚障害者が受ける問題点を割り出しています。次も初登場でデバイス非依存のオーサリング技術です。多様なアクセス機構でのオーサリング技術におけるいくつかの技術要約と慣習的手法がまとめられています。その次はWSDL 2.0のパート1と2が更新されています。パート1がコア言語で、パート2がメッセージパターンです。

 ラストコールなしのドラフトの続きです。最初はSOAP関連では初登場となる文書です。ここではSOAPメッセージのシリアライズと処理の最適化のための要件がまとめられています。それからXQuery関係が3本とSVG 1.2が更新されました。

 ノートは4本ありました。DOM3イベント仕様は更新されました。それ以外では、MathML関連が3本新登場になりました。これらは範囲変数、構造化タイプ、単位に関するものです。

日本OASISから標準技術を発信しよう!

 11月20日から2日間、日本で初めてOASISが主催するイベント「OASIS Open Standards Day Tokyo 2003」が開催されました。当日はOASISの役割や組織構成、またebXMLの技術解説やWebサービスについて広範な説明がありました。

 このイベントは技術の解説や披露の機会だけではなく、日本やアジアにおける標準技術に関する交流や連携の場にしようという意義が強くありました。それまでにも各種の団体や有志によるコラボレーションはありましたが、このイベントを機にOASISは日本におけるビジネス中心の標準技術を囲む場として、新たな一歩を踏み出すことになりました。

 日本OASISオフィスの岡部惠造氏は今後の意気込みとして

  1. OASISの日本会員を増やし組織内での日本の発言力を強化
  2. 日本で日本語による標準化を推進
  3. 日本語の情報発信ポータル作成
  4. アジアのeビジネスで日本の主導と連帯を強化

を挙げ、日本人による日本から世界へ向けての技術発展を強く語っていました。

 またOASISのUBL(Universal Business Language)技術委員会で開発を進めているUBLは1.0ベータ(委員会ドラフト)が公開になりました。順調にいけば来年4月ごろにはOASIS技術仕様になる予定です。同時に、UBL 2.0への着手も始まりました。

XMLマスターもグローバルな資格に

開会の挨拶に立ったXML技術者育成推進委員会会長、斎藤信男氏

 XMLマスター試験制度2周年と合格者6000名突破を記念して、「XMLマスターDay 2003」が11月25日に開催されました。当日は講演やパネルディスカッションで、参加者がそれぞれ熱くXML技術やWebサービスについて語りました。またイベントでは、XMLマスター合格者が1000名を超えた日立システムアンドサービスや、XMLマスター:プロフェッショナルの合格第1号となったNECシステムテクノロジーの吉田享之氏などが表彰されました。イベント当日現在での合格者はそろそろ7000名に近づく勢いだそうです。

 XMLマスターは日本で生まれた資格制度ですが、もう日本国内だけの資格ではなくなります。近年では中国や東南アジアなど、日本からの受託開発を行う海外企業からの受験志願が増えてきました。これらの要望にこたえるため、2004年1月中旬より海外のプロメトリック公認テストセンターで「XMLマスター:ベーシック」の英語版試験が実施されることになります。試験内容はほぼ日本語版試験と同一で、受験料は125USドル、合格者には認定証および名刺用ロゴシールが送付されます。追って上位試験「XMLマスター:プロフェッショナル」も海外展開される予定です。また、中国大連市のトレーニング試験センター(DHEE)では2004年1月から日本語版「XMLマスター」試験も受験可能となります。これでXMLマスターを取得すれば海外IT企業にもアピールできるようになりました。海外のエンジニアに先を越されないうちに早く取得しないといけませんね(?)。

MS OfficeのXMLスキーマ公開

 米Microsoft社はOffice 2003用のXMLスキーマ集「Microsoft Office 2003 XML Reference Schemas」と参考資料のロイヤルティーフリーでの提供を開始しました。このスキーマ集を用いれば、Officeで作成した文書や表計算シートのデータ交換がXMLベースで行えるようになります。

 提供されるスキーマはそれぞれ、Excel用にはSpreadsheetML、InfoPath用にはFormTemplateスキーマ、Word用にはWordprocessingMLとなります。順次、同社のMicrosoft Software Developer Network(MSDN)で技術文書が公開されます。

@ITもW3Cデビュー

 W3Cのトップページに新しいメニュー「W3C in Press」が追加されました。これは、メディアに掲載されたW3C関連記事へのリンクがまとめられています。ページには膨大なリンクがありますが、よく見てみると@ITXML&Web ServicesのトップページやXML/W3C Watchへもリンクが張られています。

 ではまた来年、お会いしましょう。


バックナンバー

2001年
 ・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
 ・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
 ・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
 ・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
 ・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
 ・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
 ・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
 ・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
 ・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
 ・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
 ・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
 ・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
 ・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
 ・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
 ・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
 ・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
 ・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
 ・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
 ・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
 ・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
 ・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
 ・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
 ・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
 ・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
 ・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
 ・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
 ・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
 ・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
 ・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
 ・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
 ・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
 ・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
 ・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
 ・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
 ・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
 ・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
 ・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
 ・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
 ・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
 ・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
 ・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
 ・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
 ・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
 ・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」


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