W3C/XML Watch - 3月版
旅行業界がXML化へ、MSからは「InfoPath」が登場
2003/3/25
日増しに暖かくなってきました。去年の花粉シーズンにはひどい目にあったので今年は警戒していたのですが、今年の花粉にはまだ悩まされていません。このまま桜を見ることができたらと願っています。
さて、2月のW3Cの技術文書は勧告案2本とドラフト20本で、一気に更新が進みました。なかでもQA(品質保証)、OWL(Webオントロジー)、DOM3の更新が目立ちました。
■日本でのXML動向
2月は日本国内のXML関連の動きが活発でした。まず、XMLコンソーシアムが日本旅行業協会と協力してTravelXMLを策定すると発表がありました。これまで各旅行会社が個別に運用していた電子取引を相互乗り入れ可能にするために、通信の手続きや情報の構造をTravelXMLで定義していくことになります。
また、XMLベースのBtoB標準で有名なものの1つにロゼッタネットが挙げられますが、それを推進するロゼッタネットジャパンがロゼッタネット標準の導入効果の調査報告書を公開しました。報告書によると、すでに日本では電子部品産業の約200社がロゼッタネット標準を導入して運用を始めているそうです。
では、W3Cの2月の動きを紹介していきましょう。
■2月の勧告、勧告案、勧告候補
2月は勧告がなし、勧告案もなし、勧告候補が2本発表になりました。
勧告候補になったのは、XML EventsとVoiceXML Version 2.0です。ここのところ、勧告候補はますます増えていますが、どれもその後の勧告へのステップが厳しいようです。しかし今回発表になった2本の勧告候補は両方とも勧告候補期間が短く設定されているので、問題がなければ次のステップは早いかもしれません。
- XML Events(2月7日発表、勧告候補期間は3月5日まで)
- Voice Extensible Markup Language (VoiceXML) Version 2.0(2月20日発表、勧告候補期間は4月10日まで)
■2月のドラフトとノート
ドラフトは全部で20本発表になりました。いままでなら20本も発表になれば「怒とうの発表ラッシュ」と驚いていましたが、最近はドキュメントの細分化が進んでいるので本数が多くてもあまり珍しくなくなってきました。
ラストコールが付いたのは5本あり、QAフレームワーク関連が3本とCSS3モジュールが2本です。CSSモジュールは両方ともラストコール終了までの期間が2週間以内という異例の短さです。CSS3も着々と完成に向けて準備が進んでいます。
- QA Framework: Introduction (2月10日発表、ラストコール3月14日終了)
- QA Framework: Operational Guidelines (2月10日発表、ラストコール3月14日終了)
- QA Framework: Specification Guidelines (2月10日発表、ラストコール3月14日終了)
- CSS3 module: Color (2月14日発表、ラストコール2月28日終了)
- CSS3 module: text (2月26日発表、ラストコール3月5日終了)
ラストコールなしのドラフトは以下の15本です。Web Ontology LanguageとDOM3が目立ちました。まず以下の6本がOWLです。
- Web Ontology Language (OWL) Abstract Syntax and Semantics (2月3日発表)
- Web Ontology Language (OWL) Use Cases and Requirements (2月3日発表)
- Web Ontology Language (OWL): Overview (2月10日発表)
- Web Ontology Language (OWL) Guide Version 1.0 (2月10日発表)
- Web Ontology Language (OWL) Test Cases (2月17日発表)
- Web Ontology Language (OWL) Reference Version 1.0 (2月21日発表)
次に以下の4本がDOM3です。すでに述べたラストコール付きの2本も加えると、2月に更新されたDOM3は全部で6本になります。
- Document Object Model (DOM) Level 3 Validation Specification(2月5日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Events Specification(2月21日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Core Specification(2月26日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Load and Save Specification(2月26日発表)
そのほかとしては、アクセシビリティ関連となるWCAG、XQueryとXPathが2本、SVGの印刷要件がありました。
- Requirements for WCAG 2.0 Checklists and Techniques(2月7日発表)
- XQuery and XPath Full-Text Requirements(2月14日発表)
- XQuery and XPath Full-Text Use Cases(2月14日発表)
- SVG Printing Requirements(2月18日発表)
2月に発表されたノートは、電子署名についてのものが1本ありました。
ツール類としては、2月3日にAmaya 7.2のリリース、2月6日にRDFバリデータの更新、2月13日にはIsaViz 1.2がリリースされました。IsaVizとは、RDFの閲覧とオーサリングのためのビジュアル環境で、RDFモデルをグラフとして表示するものです。
■OASISの動き
OASISでは特に米国内の事情もあるせいか、セキュリティに関する動きが目立ちます。注目すべきはXACMLがOASIS標準として承認されたことでしょう。XACMLはXMLベースのセキュリティメカニズムで、ポリシー記述言語です。柔軟で拡張性があるアクセス制御を実現するための新しい言語として注目されています。
OASISの承認と同時に、サン・マイクロシステムズからもXACML仕様を製品に実装すると発表がありました。現在、対応コードがSun's XACML Implementationとして公開されています。XACMLについては、@ITのSecurity&Trustフォーラムの記事「PKIとPMIを融合させる次世代言語XACML」も参考にしてください。
このほかにもOASISでは、XML Common Biometric Formatというバイオメトリクスのための仕様が標準化に向けて準備中となっています。
また組織編成の動きをみると、Webサービス関連に力が入っています。Webサービスアプリケーションで信頼性のあるメッセージを実現するための技術委員会OASIS Web Services Reliable Messaging(WS-RM)Technical Committee(TC)が創設されました。また、e-ラーニング標準に対応したOASIS Education XML TCも創設されました。
■XDocsの正式名称はInfoPath
前回、マイクロソフトの次期Office製品となるOffice 2003に含まれるXMLオーサリングツールのコード名が「XDocs」であると伝えましたが、正式名称が「InfoPath」に決まりました。Office 2003評価版のダウンロードも近日中に可能となるそうです。
Office 2003では、XML標準への対応が飛躍的に進み、XMLデータを視覚的に表示したり、XMLスキーマをオフィス文書にバインドすることも可能となります。InfoPathはスキーマの設計を行ったり、XMLデータとそれを表示するためのフォームをマッピングするためのXSLTスタイルシートを生成することができるので、従来のXSLTスタイルシートの作成にかかる労力を軽減することもできます。結果的にOffice 2003によってXMLデータを容易に生成し、管理することができるようになり、XMLデータの普及が進むことが期待できそうです。
最後に速報ですが、懸案だったW3Cの特許の扱いに関する最終ドラフトが3月19日に発表になりま した。どうにかして、決着をつけてもらいたいですね。
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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