W3C/XML Watch - 7月版
Webサービス関連とSOAP 1.2のドラフトが発表
加山恵美
2002/7/10
■ワールドカップも終わって……
XMLコンソーシアム総会の様子 (写真提供:XMLコンソーシアム) |
熱い熱いサッカーの祭典となった6月は終わってしまいました。まだもう少し梅雨の季節が続きますが、それが過ぎれば夏です。皆さんは夏に何を期待していますか。
さて、W3CやXMLの世界は引き続きホットな状態です。6月も国内ではXML関連のイベントが各地で開催され、一方のW3Cでは顧問役員が一新されました。技術文書はWebサービスを中心に更新されています。
■XML関連イベント続々開催
いまではどんなIT系のイベントであってもXMLに触れていますが、特にXMLに重点を置いたイベントで、6〜7月開催の主要なイベントをいくつか紹介しましょう。
6月5日には創立1周年になるXMLコンソーシアムの総会が行われ、さらに「XMLコンソーシアムWeek」と呼ばれる発表会が1週間行われました。現在XMLコンソーシアムには主に国内の企業約240社が参加して、XMLの普及や啓もう活動を行っています。技術部会は、基盤、応用、モデル、VoiceXML、ドキュメント、コンタクトXMLなどに分かれて、基本的に月1回のペースで情報交換を行っています。
XMLコンソーシアムといえば、最近、Webサービスを利用して、ニュース配信用のマークアップ言語NewsMLの接続実験に成功したそうです。この実験には毎日新聞や読売新聞などメディア各社もコンテンツを提供して協力しました。
また、6月18日には大塚商会とマイクロソフトが主催の「Business Innovation Forum 2002」が開催されました。東京での開催は終了しましたが、大阪では8月に開催が予定されています。6月21日にはXMLをテーマとして大々的に掲げた印刷出版研究所主催のセミナーが開かれ、6月末には海外ですが、数学用のMathML専門の「MathML国際フォーラム」がシカゴで開催されました。
そして7月には東京で、IDG主催の「Webサービスカンファレンス」が開催されます。このイベントはW3Cも後援しており、W3Cのメンバーも講演を行うようです。人気の高いセッションは申し込みが締め切られてしまったものもあるようですが、興味があればぜひ足を運んでみてください。
■6月の勧告、勧告案、勧告候補
6月のW3Cからの技術文書は、勧告と勧告案がなく、勧告候補が2つ発表になりました。
月初めに公開されたのが DOM 2 HTML仕様です。ここのところ、DOM関連で発表があるときはDOM 3が多かったので「いまさら DOM 2?」とやや意外に感じた方もいるでしょう。HTMLという重要な要素だけに時間をかけたのかもしれません。このDOM 2 HTMLは、HTMLやXHTML文書の構造と内容を処理するために使われるインターフェイスになります。
ちなみに、DOMの仕様はDOM 1、DOM 2、DOM 3とレベルが上がるに従って仕様の数が増えています。DOM 1では1つの文書のみです。ただし、現在はDOM 1の第2版がドラフトの段階です。
DOM 2となると、コア、ビュー、イベント、スタイル、トラバーサルと範囲指定の5つが勧告として完成されています。あとはDOM 2 HTMLのみが勧告になっていませんが、勧告候補になったことで勧告までもう少しという段階に迫りました。
DOM 3の中では、コア、アブストラクトスキーマやロードとセーブ、イベント、XPathの4つが現在ドラフト策定中で最後のXPathはラストコール付きです。あらためてDOM関連を全体的に見ると、今回のDOM 2 HTMLやいくつかの例外を除けば、DOM 3を中心に開発が進んでいると考えていいでしょう。
また、月末には音声認識のための文法記述言語となるSpeech Recognition Grammar Specification(音声認識文法仕様) Version 1が発表になりました。この言語仕様は、音声インターフェイスを持つアプリケーションにおいて、ユーザーからの音声による問い合わせに対応するための文法などを記述したものです。この技術はVoice Browserワーキンググループにて策定されています。
このワーキンググループでは音声対話のVoiceXML、音声合成のSpeech Synthesis Markup Language、音声認識のSpeech Grammar、Stochastic Language Models、 Semantic Interpretation for Speech Recognition、Natural Language Semantics、それから呼び出し制御のCCXMLの策定をしています。これら全体でW3C Speech Interface Frameworkの実現を目指しています。このフレームワークの中で最初にドラフトから昇格して勧告候補になったのが今回のSpeech Recognition Grammar Specification Version 1 です。このような技術開発が進めば、いつかWebとの音声による対話が日常的になるのも夢ではなくなるかもしれません。
- Document Object Model (DOM) Level 2 HTML Specification(6月5日発表、レビュー終了7月1日)
- Speech Recognition Grammar Specification Version 1.0(6月26日発表、レビュー終了8月30日)
■ドラフトはWebサービス関連が目白押し
続いて、6月にW3Cから発表になったドラフトを見ていきましょう。総数としては8文書ですが、そのうち6文書が同日発表となったSOAP関連です。また、全体で半分以上となる5文書にラストコールが付いています。こうなると、近いうちに勧告候補ラッシュになるかもしれません。
まずはSOAP以外の2文書から見ていきましょう。1つは、いまIT業界で最も盛り上がっているトレンドのWebサービスで、初登場です。少し詳しくタイトルを訳してみると「Webサービス記述利用シナリオ」となります。内容は、Webサービスの現実的な使用方法の概略をまとめたものになります。W3CでWebサービスアクティビティが発足したのは今年初めからです。今回のドラフトはその組織内でまだ3作目ですが、周囲からの高い期待もあり、活発に活動をしているようです。
もう1つはXML署名XPathフィルタ2.0で、こちらはラストコールが設定されています。5月勧告案になったものとして、IETFとW3Cの共同開発で進められているExclusive XML Canonicalization(排他的XML正規化) Version 1.0がありましたが、これと同じワーキンググループから出ています。今回の仕様は今年2月に勧告となったXML-Signature Syntax and Processing(XML署名構文と処理)で、既存のXML文書に対しても署名できるようにと要望が出てきたため、先の勧告についてのXPath変換の代替手段とも定義されています。
○Web
Service Description Usage Scenarios (6月4日発表)
○XML-Signature
XPath Filter 2.0 (6月20日発表、7月11日ラストコール)
残りの6文書はすべてSOAP 1.2関連です。このうち、4文書がラストコール付きとなっています。SOAP関連は1.2になってから内容を広げ、Part0、Part2というように分化してきましたが、ラストコールが付いたことでほぼ内容が固まったことでしょう。またXMLP(XMLプロトコル)もありますが、SOAPとXMLPは同じXMLプロトコルワーキンググループが発信しています。さらに、このワーキンググループはWebサービスとも深いかかわりがあります。なぜなら、Webサービスにおいて、XMLプロトコルやSOAPは重要な役割を担うと期待されているからです。そのため、6月のW3Cの技術文書はWebサービス関連が大半を占めていると考えていいでしょう。
○SOAP Version
1.2 Part 0: Primer (6月26日発表、7月19日ラストコール)
○SOAP Version
1.2 Part 1: Messaging Framework (6月26日発表、7月19日ラストコール)
○SOAP Version
1.2 Part 2: Adjuncts (6月26日発表、7月19日ラストコール)
○SOAP
Version 1.2 Specification Assertions and Test Collection (6月26日発表、7月19日ラストコール)
○SOAP Version
1.2 Usage Scenarios (6月26日発表)
○XML Protocol
(XMLP) Requirements (6月26日発表)
■ノート
6月に発表になったノートは以下の1つです。
○SOAP Version 1.2 Email Binding (6月26日)
■W3Cの顧問役員が一新
いままで、W3Cの顧問役員は1998年の制度開始から6名が就任していました。これが7月1日から9名に変わりました。顧問は、あくまでも戦略や法的な相談役として役割が限定されており、W3Cでの意思決定には関われず、権限はないとされています。メンバーを見ると、Web関連技術に深いかかわりのあるIT系企業の面々も並んでいます。新しい顧問には以下のメンバーが就任しました(アルファベット順)。
アン・バセッティ(Ann Bassetti ) : ボーイング |
ジム・ベル(Jim Bell) : ヒューレットパッカード |
カール・カーギル(Carl Cargill ) : サン・マイクロシステムズ |
ドン・デュチュ(Don Deutsch) : オラクル |
スティーブ・ホルブルック(Steve Holbrook) : IBM |
レナト・イアネラ(Renato Iannella) : IPRシステムズ |
ケン・ラスキー(Ken Laskey) : SAIC |
オラ・ラシーラ(Ora Lassila) : ノキア |
ローレン・ウッド(Lauren Wood) : 無所属 |
6月の技術文書の動きを振り返ると、SOAPも含めてWebサービス関連に力が入っていたようです。日本で開催されるWebサービスカンファレンスに向けた準備の一環だったのかもしれません。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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