W3C/XML Watch - 8月版
Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に
2003/8/16
8月に突入してようやく梅雨が明け、いよいよ夏本番となりました。いかがお過ごしでしょうか。7月のW3Cの技術文書発表数は少なめでした。関係者の夏期休暇や秋のイベント準備があるため、技術文書の更新はややスローペースのようです。
■夏休みに差をつけたいなら「W3Cチュートリアル」がお勧め
W3CのFinding Your Way at W3C。左上にリンクがあります。More tutorials...にはXML Schema、SOAP 1.2、RDFなどのチュートリアルも用意されています。 |
もし夏休みで時間に余裕ができたなら、少し勉強してみるのはどうでしょう。W3Cのサイトには初心者向けチュートリアルがあります。トップページの上部メニューの「New Visitors」をクリックするとW3Cの道案内ページがあり、その左上には各種チュートリアルへのリンクがあります。HTMLやXMLをこれから学ぼうとする人向けのページです(当然英語ですが)。W3Cはこうしたチュートリアルページにも注力しています。夏休みのまとまった時間に、こうしたページで実力養成してはいかがでしょう。夏がよい充電期間になりますように。
では、7月にW3Cから発表された技術文書を紹介していきましょう。
■7月の勧告、勧告案、勧告候補
7月の発表では勧告候補が1本、勧告と勧告案はありません。
唯一の勧告候補への昇格はDOM3バリデーション仕様です。このバリデーション仕様はアブストラクトスキーマから去年分離したものです。およそ半年ほど改訂を繰り返し、勧告候補へと進みました。このモジュールではバリデーション、つまり妥当性の維持についてまとめられています。文書の妥当性を保ちながら、文書の内容や構成をAPIから直接更新するための指針を示しています。
- Document Object Model (DOM) Level 3 Validation Specification(7月30日発表、勧告候補期間は8月31日まで)
■7月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが2本、それ以外が4本で合計6本です。ノートは2本です。
ラストコール付きはCSS3基本ユーザーインターフェイスモジュールとXHTML-Printです。XHTML-PrintはW3Cでは初登場ですが、開発はPWG(Printer Working Group)で行われました。PWGで標準案として認められ、W3Cにてラストコール付きドラフトとして登場しました。XHTML-PrintはXHTMLのモジュール化の1つです。モバイル端末から1ページ分のバッファを持たない低価格プリンタへも出力できるように設計されています。また、プリンタ特有のドライバ無しでも柔軟に印刷できることも目的として掲げられています。
- CSS3 Basic User Interface Module(7月3日発表、ラストコール7月31日終了)
- XHTML-Print(7月29日発表、ラストコール9月7日終了)
ラストコールなしのドラフトは4本あります。そのうち2本はSVG関係でSVG印刷とSVG 1.2です。カナダのバンクーバーで開催されたSVG Open 2003の開催期間に合わせて発表されたようです。SVGといえば6月末にSALTフォーラムから、モバイルコンテンツのSVG仕様を拡張するSALTプロファイルがW3Cに提出されたと発表がありました。SVGの動きが活発になっています。
残りの2本はSOAPとCC/PPです。SOAPは1.2が6月に勧告になったところですが、SOAPメッセージ伝送最適化のドラフトが新しく発表されました。この文書ではSOAPメッセージの最適化された伝送やフォーマットについての機能と具体的な実装が説明されています。
CC/PPはクライアント側の機器、OS、ブラウザに応じてコンテンツの変換や選択をするための仕組みです。将来ますます多様化するクライアント環境へ、柔軟に対応するうえで必要な技術となるでしょう。前回のラストコール付きドラフトで寄せられた意見を反映し、今回あらためて発表されました。仕様の完成は間近のようです。
- SVG Print(7月15日発表)
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.2(7月15日発表)
- SOAP Message Transmission Optimization Mechanism(7月21日発表)
- Composite Capability/Preference Profiles (CC/PP): Structure and Vocabularies(7月28日発表)
ノートは次の2本です。
- XML Protocol (XMLP) Requirements(7月28日発表)
- SOAP Version 1.2 Usage Scenarios(7月30日発表)
■OASISにWebサービス関連の提案が相次ぐ
まずはセキュリティ勧告に関する情報伝達の効率化が期待できそうなニュースです。現状ではWebアプリケーションのセキュリティ脆弱性を警告する各種セキュリティ勧告は、発信元である企業や団体ごとに独自形式で発表されており、受理する側に発生する非効率さが問題視されています。そこでセキュリティ勧告をXML文書にして効率的な情報伝達と理解を促進させようという試みが生まれました。ここで活躍するのが脆弱性を記述する言語VulnXMLです。VulnXMLはオープンWebアプリケーションセキュリティプロジェクト(OWASP)を中心に、OASISのWebアプリケーションセキュリティ(WAS)技術委員会も加わっています。VulnXMLの開発作業用にはSourceForge.netに専用のプロジェクトが作成されており、そこではVulnXMLデータベースが公開されていたり、作成中のDTDをダウンロードすることもできます。
もう1つはヒューレット・パッカード(HP)のWebサービスの取り組みです。7月21日にはHPからWebサービス管理フレームワーク仕様をOASISに提出すると発表がありました。この標準仕様案はAscential Software、BEA Systems、Oracle、Sun Microsystems、Tibco Softwareと協力して策定したものです。最近ではWebサービス関係の動きはW3CやOASISだけではなく、複数の企業が連携することも増えてきています。
■書籍販売のXML化――日本アマゾンでもWebサービス利用可能に
ちょうど去年の8月号にて、米国オンライン書店のAmazonがWebサービスから利用可能というニュースをお伝えしましたが、日本のAmazonでも7月から利用可能となりました。詳しくは同サイトのアソシエイト・プログラムやデベロッパ向けWebサービスの項目を参照してください。
書籍販売といえば、オーストラリアでもXML導入の動きがありました。オーストラリア出版協会(APA)がスポンサーと共同でONIXという書籍用XML Schemaを採用しようとしています。ONIXはEDItEURという書籍や放送業界の電子商取引や標準化を進めている国際団体が開発していて、現在最新版のバージョン2.1が公開されています。これは数カ国における実運用でのフィードバックを反映した初のバージョンアップで、より完成度を高めました。
■RSS 2.0の所有権が移動し、Creative Commonsライセンスで提供
最近各種WebサイトでRSSのバナーを見かけるようになりました。RSSはサイトにある情報をXML形式で提供するためにあります。実は@ITでも新着記事をRSSフィードで提供しています。そのRSSの話題です。
UserLand SoftwareがRSS 2.0の所有権をBerkman Centerへ移動すると発表がありました。移動に伴い、各自が自由に複製や利用ができるCreative Commonsライセンスで提供するとのことです。
ちなみにRSSは現時点では0.9x系、1.0、2.0が乱立している状態です。RSSは大きく分けると2通りあります。まずRSS 0.9と1.0。これらはRDF(Resource Description Framework)をベースとしたRDF Site Summaryという意味だといわれています。もう片方はRSS 0.9xと2.0。これらはRDFを使用せず、Rich Site SummaryまたはReally Simple Syndicationという意味になるそうです。現時点ではRSS 0.91が広く採用されているといわれています。今後は0.91の採用または2.0への移行が進むのか、1.0が巻き返すのか、勢力分布がどう変わるか興味あるところです。
■「Web Services Conference 2003」開催
最後にイベント案内です。8月末には東京・渋谷で株式会社IDGジャパン主催の「Web Services Conference 2003」が開催されます。Webサービスの最新技術や動向に関する発表や講演があります。W3C WebサービスアクティビティリードのHugo Haas氏やW3C慶應のデバイス非依存アクティビティリードの北川和裕氏らの講演もあります。
- Web Services Conference 2003(8月28〜29日、渋谷ルネッサンスセンター)
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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