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W3C/XML Watch - 1月版

セマンティックWebに向けた動きが活発に

加山恵美
2004/1/21

 2003年末にはRDFやOWLを中心に勧告案へと昇格した文書が14本もありました。現在はゴール手前に大量の走者が押し寄せているような状態です。今月は2003年の文書更新を振り返り、2004年を展望してみることにしましょう。

12月の勧告、勧告案、勧告候補

 それではW3Cの動きから見ていきましょう。12月の発表は勧告がなし、勧告案が14本、編集済み勧告案が1本、勧告候補が1本でした。勧告案は通常なら数本程度なのに、12月は一気に14本も昇格したので目を見張りました。最後の音声統合マークアップ言語を除き、いずれもレビュー期間は2004年1月中に終了するので、2004年早々には一斉に勧告に昇格する可能性が高そうです。

 勧告案に昇格したのは、OWL(Web Ontology Language)が6本、RDF(Resource Description Framework)が6本、それ以外にはDOM3バリデーション仕様と音声認識文法仕様です。

 OWLの6本は、概要、ガイド、リファレンス、セマンティックと絶対構文、テストケース、利用例と要件です。OWLはセマンティックWebを構成する重要な要素で、Webコンテンツを単に人間に見せるだけでなく、アプリケーションによる処理を可能にするための言語を規定します。

 同じくRDFの6本は、コンセプトと絶対構文、セマンティック、入門、スキーマ、RDF/XML構文仕様(改訂版)、テストケースです。RDFとはXMLをベースにしたメタデータ記述言語で、ニュース速報やWebサイト更新情報の配信などに利用されています。

 残りの勧告案2本は、DOM3バリデーション仕様と音声認識文法仕様です。

 編集済み勧告案はXMLインフォメーションセット第2版です。もともと2001年10月に勧告になったものですが、XML 1.1と名前空間1.1に対応して改訂版を出すことになりました。

 勧告候補は音声統合マークアップ言語です。ドラフトから初めて勧告候補へと昇格しました。

12月のドラフトとノート

 今回発表されたドラフトはラストコール付きが3本、それ以外が8本で合計11本でした。ノートはありません。

 ラストコール付きドラフトはWorld Wide Webのアーキテクチャ第1版、CSS印刷プロファイル、CSS3ページメディアモジュールの3本です。World Wide Webのアーキテクチャの内容は主に識別のURI、相互作用、データ形式で構成されています。今回はタイトルに「第1版」と追加し、遂にラストコールまで進みました。タイトルから分かるようにWorld Wide Web技術の根幹を解説する内容なので、今後長らくWorld Wide Web技術の進化とともに版を重ねる文書になりそうです。

 ラストコールなしの文書は8本です。初登場が6本も見受けられますが、多くはSVGやXSLなど基本的な仕様がバージョンアップしたものです。まず前半の4本から見ていきましょう。

 SVGでは、モバイルSVGプロファイルとSVG Tiny要件の2本があります。前者は携帯電話向けのSVG TinyとPDA向けのSVG Basicの2つがまとめられていて、後者はSVG Tinyの要件です。3本目のWCAG 2.0のHTML技術はアクセシビリティの一環です。Webコンテンツを中心としたアクセシビリティで使用する技術が解説されています。4本目はWebサービスの国際化のための要件です。多国間でWebサービスを用いるときの要件がまとめられています。

 次に後半の4本です。まずXSL関係の2本、XSL 1.1とXSL 1.1要件です。XSLは2001年10月に1.0が勧告となりましたが、今回初めて1.1が公開されました。XSL 1.1は1.0をベースに画像スケール、表、参照などの機能改善が加えられています。最後の2本はEMMAとXQuery 1.0のXML構文で更新が加えられました。

2003年は14本の勧告が登場

 2003年の技術文書更新を振り返ってみましょう。2003年に生まれた勧告を大まかにいうと、DOM2 HTML仕様、SVGが2本(SVG 1.1とモバイルSVGプロファイル)、XPointerが3本、SOAP 1.2が4本、XForms 1.0、XMLイベント、MathML2.0第2版、PNG第2版の全部で14本です。2002年には7本でしたから数で単純比較すると2倍になります。しかし細分化されたものや改訂版もあり、かつ年間の総更新本数は前年とほぼ同じなので、実質的な技術文書発表ペースはほぼ定常と見ていいでしょう。

勧告
勧告案
編集済み勧告案
勧告候補
ドラフト
ノート
合計
1月
3
0
0
1
12
6
22
2月
0
0
0
2
19
1
22
3月
3
0
0
1
13
1
18
4月
0
0
0
0
7
0
7
5月
0
5
0
4
21
3
33
6月
4
0
0
0
9
2
15
7月
0
0
0
1
6
2
9
8月
0
2
1
6
16
0
25
9月
0
0
0
1
10
5
16
10月
3
1
1
1
9
2
17
11月
1
2
0
2
16
4
25
12月
0
14
1
1
11
0
27

 今年はどれだけ勧告が出るでしょうか。少なくとも2003年の倍はいくと予想できます。なぜなら2004年1月時点で勧告まであと一歩の勧告案が17本、編集済み勧告候補が2本もあるからです。これらは近いうちに確実に勧告へと進むでしょう。ちなみに勧告候補は現時点で16本です。勧告候補は勧告案ほど確実性はありませんが、大半は勧告へ進む可能性を秘めています。

 具体的な分野でいうと、まずRDFやOWLがあります。これらはセマンティックWebを構成する技術の下から数えて3〜4層目を担うものです。

図 セマンティックWebアーキテクチャ(ティム・バーナーズリー氏の資料より転載)

 この領域が勧告になると2000年から始まったセマンティックWebの構想がより実現に近づきます。今年はRDFとOWLの確定と、より上層の技術開発が期待できそうです。

 一方、根幹をなすXML技術の改訂版も多く出ることでしょう。現在、XML 1.0第3版XML 1.1XML名前空間1.1が勧告案にあります。これと並行して改訂される技術文書、例えばXMLインフォメーションセットなどもあるでしょう。また、XSLT 2.0XPath 2.0はラストコール付きドラフトなのでほぼ最終段階にあります。

 ほかにも、今年飛躍が期待できる技術としてはDOMレベル3(DOM3)も挙げられます。DOM3は多くがまだ開発途上ですが、今年は徐々に確定していくことでしょう。

 期待は膨らみますが、そうはいっても、勧告ではまだ机上の完成にしかすぎません。技術は実装されて初めて価値が発揮されるのではないでしょうか。今年もまた技術文書の確定以上に実運用への進展を期待したいと思います。

WS-I、サンプルアプリケーション提供

 WS-I(Web Services Interoperability)は2003年12月10日、Webサービスサンプルアプリケーション1.0の最終版を公開しました。WS-Iのサイトでは2003年8月に公開されたBasic Profile 1.0a(日本語訳版)のテストツールやベンダ10社によるサプライチェーン向けサンプルアプリケーションが並んでいます。

デブサミ2004開催

 1月の注目イベントにはDevelopers Summit 2004(通称、デブサミ2004)があります。XML/Webサービスはもとより、.NET、J2EE、開発プロセスからシステム管理など、各分野で名を馳せるリーダーたちが企画したカンファレンスなので、現実的な技術を学べることでしょう。

ティム・バーナーズリー氏にナイトの爵位

 W3C関係者がまた功労をたたえられました。2003年12月31日に英国で新年の叙勲者リストが発表され、W3Cディレクターであるティム・バーナーズリー(Tim Berners-Lee)氏は英国女王からナイトの爵位を授与されることになりました。現在バーナーズリー氏は米国在住ですが、出身はロンドンでオックスフォード大学を卒業しており、英国市民なのです。今回の叙勲では長年にわたるWorld Wide Web技術への貢献がたたえられています。同氏は「この名誉はWebの実現に導いたWeb開発のコミュニティ、およびインターネットの発明者や開発者全体に与えられるものです」とコメントしています。ちなみに爵位は多少差がありますが、今年の叙勲者リストにはロック歌手のミック・ジャガー氏、ラグビーイングランド代表のウッドワード監督らも名を連ねています。

 さらに、2003年12月10日には米国フィラデルフィア州で開催されたXML 2003でW3Cのマイケル・スパーバーグ・マックィーン(Michael Sperberg-McQueen)氏がBEAシステムズのアダム・ボースワース(Adam Bosworth)氏とともにXML標準への貢献を理由にXML Cup 2003を受賞しました。

 ではまた来月、お会いしましょう。


バックナンバー

2001年
 ・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
 ・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
 ・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
 ・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
 ・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
 ・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
 ・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
 ・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
 ・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
 ・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
 ・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
 ・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
 ・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
 ・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
 ・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
 ・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
 ・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
 ・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
 ・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
 ・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
 ・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
 ・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
 ・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
 ・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
 ・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
 ・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
 ・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
 ・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
 ・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
 ・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
 ・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
 ・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
 ・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
 ・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
 ・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
 ・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
 ・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
 ・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
 ・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
 ・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
 ・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
 ・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
 ・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
 ・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」


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