W3C/XML Watch - 4月版
XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!
加山恵美
2002/4/12
今年の桜は早咲きで、新人歓迎会や入学式の景色を飾ってくれなくて本当に残念でしたね。さて、4月から新年度が始まったということで、「初めまして」と申し上げなければならない新しい読者の方もいらっしゃることでしょう。この記事では毎月、XMLなどの標準化を行っているW3C(World Wide Web Consortium)の、XML関連動向を取り上げています。
■W3Cの技術文書
W3CではXMLをはじめとして、XHTMLやCSSといったような、Web関連の技術に関する仕様を策定していますが、新しい技術の開拓だけではなく、既存の技術の改良版を発表することもあります。新しくこの連載を読む方のために、こうした発表に使われるW3Cの技術文書の、基本的な知識をご紹介しましょう。
W3Cが技術の発表・公開時に利用する技術文書には、4種類のステータスがあります。
○ドラフト、ワーキングドラフト ○勧告候補 ○勧告案 ○勧告 |
ある技術が「勧告」として発表されれば、W3Cはその技術仕様を確定させたことを意味します。この勧告に近い順に、勧告案、勧告候補、ドラフト/ワーキングドラフトとなっています。
W3C内のメンバー(主にIT業界の主要な企業から参加しているエンジニアたち)は、技術ごとにアクティビティやワーキンググループを構成して、技術仕様を評価しながら勧告に向かって仕様の策定作業を行っています。それぞれのステータスにおいて「締め切り」の意味を持つのが「ラストコール」です。仕様案についてラストコールまでメンバーからのフィードバックを収集して、それから次の段階へと進みます
上記の技術文書のステータスには含まれていませんが、「ノート」というのもあります。これは、技術文書ではあるけれど仕様として確定するためのものではなく、参考資料として提供されるものに付けられます。
それでは、3月の技術仕様の進ちょく状況を見ていきましょう。
■3月の勧告、勧告案、勧告候補
3月は勧告、勧告案、勧告候補へ新たに昇格したものはありませんでした。
■ドラフトの動き
まずはラストコール設定のあるドラフトから見ていきましょう。3月18日に発表になったのが、ドラフト初登場でラストコール付きのXML Key Management (2.0) Requirements(XMLキー管理2.0 要件)です。XMLキー管理はXMLセキュリティ問題の1要素と言えます。これが発表になった3月18日には、ほかにも2つのXMLキー管理関係のドラフトが公開されました。これらもすべて初登場でしたが、最初に挙げたXML Key Management (2.0) Requirementsにだけラストコールが設定されています。XMLキー管理の技術仕様の中で「要件」に当たる当文書は仕様確定の優先順位が高いのでしょう。
また、3月末にはDocument Object Model (DOM) Level 3 XPath Specification(DOM3 XPath仕様)が更新されました。2月頭以来の更新でついにラストコールまできました。
- XML Key Management (2.0) Requirements(3月18日発表、4月15日ラストコール)
- Document Object Model (DOM) Level 3 XPath Specification(3月28日発表、5月1日ラストコール)
そのほかの、更新されたドラフトも見ていきましょう。
3月7日にはRequirements for a Web Ontology Language(Webオントロジー言語要件)が発表になりました。初登場のドラフトです。オントロジーとは、哲学では「存在論」、Webでは「用語間の関係」となり、そしてXMLではXML技術をベースにスキーマを規定する用語の一覧のことをいいます。昨年、W3Cから「セマンティックWeb」という新しいWorld Wide Webのコンセプトが発表され、さらにWebオントロジーワーキンググループが発足しました。このWebオントロジー言語はセマンティックWebを実現する具体的な技術仕様の1つといえるでしょう。
そして3月18日にはさらに、XMLキー管理に関するドラフトが2つ発表になりました。共に初登場です。XML Key Management Specification(XKMS 2.0)と、XML Key Management Specification Bulk Operation (X-BULK)です。XKMSの初登場は2001年3月で、これはノートとなっています。今回発表されたXKMS2.0は、XML SignatureとXML Encryptionとを同時に使用するための公開鍵の配信と登録用のプロトコルを規定しています。一方のX-BULKは、ICカード管理などで大量に暗号鍵の登録が行われるときに使われることを想定しています。
- XML Key Management Specification (XKMS 2.0)(3月18日)
- XML Key Management Specification Bulk Operation (X-BULK) (3月18日)
それから下旬にはRDFにかかわるものが2つ公開されました。RDFとはResource Description Frameworkであり、データに関するデータ(メタデータ)を表現するための仕組みです。RDFの基本となるRDF Model and Syntax Specificationは、1999年2月に勧告になっています。3月21日に公開されたRDF PrimerはRDFの入門編といった位置付けで、WebアプリケーションでRDFを使うために必要な項目が解説されています。技術仕様というよりは、実践向けの初級資料となりそうです。
また、3月25日にはRDF/XML Syntax Specificationの改訂版ドラフトが発表になりました。今回の改訂の背景として、XML Baseが昨年6月に勧告となったのを受け、RDF Model and Syntaxの仕様を更新するもようです。また、RDFもセマンティックWebと関連性があるため、セマンティックWebを意識して今回の更新が行われたようです。
- RDF Primer (3月21日)
- RDF/XML Syntax Specification (Revised)(3月25日)
そして最後に、3月26日にはXQuery 1.0 Formal Semanticsが更新されました。XQueryは「クエリー」という名前が付いているので想像がつくかもしれませんが、XMLをベースにした問い合わせ言語です。XQuery 1.0そのものも、完成度が高まったとはいえ現時点ではまだドラフトであり、ほかのXQuery関係の技術文書もほとんどがまだドラフトのままで、標準化がやや遅れ気味な仕様です。
タイトルを見て分かるように、今回更新されたXQuery 1.0 Formal Semanticsには、またしても「セマンティック」という言葉が用いられています。この技術文書が発表されたときはXML Query Algebraという名前でしたが、2001年6月から現在の名前に変わっています。ここにもまたW3CのセマンティックWebへの動きが見られる、ということでしょうか。
- XQuery 1.0 Formal Semantics (3月26日)
■ノート
今月発表になったノートは以下の2つです。
ノートは仕様を検討し始める最初の段階のアイデアレベルともいえるものですから、まだ標準化は先の話ですが、Web Services Conversation Languageは気になります。 ノートを読んでみると、どうやらWebサービスでやりとりするビジネスメッセージの最小限の枠組みを決めようということのようです。
■XMLワーキンググループの殿堂入り
米INFO WORLDが選ぶ、今日のeビジネスを支えるインターネット機構に貢献した人物に与えられるHall of fame 2002(栄誉の殿堂2002)に、XMLの仕様策定で活躍したティム・ブレイ(Tim Bray)氏とXMLワーキンググループが選ばれました。
ブレイ氏のほかにもHall of fameの受賞者として、Javaのジェイムス・ゴスリング(James Gosling)氏、C#のアンダース・ヒルスバーグ(Anders Hejlsberg)氏、Linuxのリーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏など、そうそうたる顔ぶれが選ばれました。ブレイ氏は、XML開発当初の目的としてWebパブリッシングを主に考えていたそうです。しかしいまではご存じのようにWebパブリッシングだけではなく、Webサービスや各種業界で標準基盤として使われようとしています。「こんなに影響を与えるとは思いませんでした」とブレイ氏は述べています。ブレイ氏の受賞は、XMLがJavaやLinuxと同じように、現在も今後もIT業界に大きな影響を与え続ける技術であることのあかしだといえるでしょう。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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