W3C/XML Watch - 3月版
ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?
加山恵美2004/3/19
あれは嵐の前の静けさだったようです。1月のW3C技術文書発表はかつてないほど閑散としていましたが、2月は勧告からノートまで、合計44本が発表になりました。
■2月の勧告
では、いつものようにW3Cの動きから見ていきましょう。本稿2月版で速報したとおり、2月は勧告が16本も発表になりました。大別すると、XML基本仕様が4本、RDFとOWLが12本です。XML基本仕様は、XML 1.0第3版、XML 1.1、XML 1.1の名前空間、XMLインフォメーションセットです。同じXMLでも2つのバージョンが同時発表になると、さすがにどう使い分けたらいいのか困惑しますよね。
結論から先にいうと、XML 1.1を必要とするケースはまれであり、主流はXML 1.0の改訂版であるXML 1.0第3版になると予想できます。具体的なXML 1.1での変更点は、改行文字の追加(IBMメインフレームの#x85とLine Separatorの#x2028)やUnicode文字への対応などがあります。しかし「XML 1.1にある機能が必要とされない限りXML 1.0を生成することが望ましい」とXML 1.1の勧告文書に記載されていることからも、XML 1.1の採用は特殊なケースに限定されるようです。
まだ大方には縁遠いといっても、XML 1.1の勧告に伴い、XML 1.1の名前空間とXMLインフォメーションセット第2版が連動して登場しました。XML 1.0第3版とXML 1.1の違いについては@IT記事「XML 1.1とXML 1.0 Third Editionについて(やさしく読む「XML 1.0勧告」 第19回の補記)」を参考にしてください。
XML 1.0第3版はというと、空白の扱いなどXML 1.0第2版の正誤表に記載された内容を反映したものです。改訂版なので、従来の記述を補完するものと考えていいでしょう。
- 【勧告】Extensible Markup Language (XML) 1.0 (Third Edition)(2月4日発表)
- 【勧告】Extensible Markup Language (XML) 1.1(2月4日発表)
- 【勧告】Namespaces in XML 1.1(2月4日発表)
- 【勧告】XML Information Set (Second Edition)(2月4日発表)
次に、RDFとOWLです。RDF6本とOWL6本は勧告案も2003年末に同時発表で、勧告も同時ゴールとなりました。RDFもOWLも、近年W3Cが今後の流れとして注力しているセマンティックWebにおける主要な要素となります(セマンティックWebのアーキテクチャ図)。RDFとOWLが勧告となったので、次はLogicやProof部分へも目が向けられていくと期待できます。
- 【勧告】Resource Description Framework (RDF): Concepts and Abstract Syntax(2月10日発表)
- 【勧告】RDF Semantics(2月10日発表)
- 【勧告】RDF Primer(2月10日発表)
- 【勧告】RDF Vocabulary Description Language 1.0: RDF Schema(2月10日発表)
- 【勧告】RDF/XML Syntax Specification (Revised)(2月10日発表)
- 【勧告】RDF Test Cases(2月10日発表)
- 【勧告】OWL Web Ontology Language Overview(2月10日発表)
- 【勧告】OWL Web Ontology Language Guide(2月10日発表)
- 【勧告】OWL Web Ontology Language Reference(2月10日発表)
- 【勧告】OWL Web Ontology Language Semantics and Abstract Syntax(2月10日発表)
- 【勧告】OWL Web Ontology Language Test Cases(2月10日発表)
- 【勧告】OWL Web Ontology Language Use Cases and Requirements(2月10日発表)
■2月の勧告案、勧告候補
勧告案は3本、勧告候補も3本ありました。勧告案はVoiceXML 2.0とDOM3が2本です。VoiceXML 2.0はWebベースの音声対話アプリケーションを効率的に開発したり、音声対話コンテンツを提供することを目的としています。例えば、電話による自動応答メッセージ「○○のお問い合わせは1#を…」に対して、プッシュボタンを操作しなくても、音声で問い合わせできるようになります。このほか、音声による入出力に関する仕様は今後も続々発表となりそうです。例えば音声合成記述言語のSSML(勧告候補)、音声認識文法仕様のSRGS(勧告案)、呼び出し制御記述言語のCCXML(ドラフト)などがあります。
DOM3はコア仕様と、ロードとセーブ仕様です。これらにより、Web文書の内容、構造、スタイルを処理できるようになり、またプログラムとスクリプトが文書内容をロードしたりシリアライズしたり、フィルタ処理ができるようになります。
- 【勧告案】Voice Extensible Markup Language (VoiceXML) Version 2.0(2月3日発表、勧告案レビュー終了3月2日)
- 【勧告案】Document Object Model (DOM) Level 3 Core Specification(2月5日発表、勧告案レビュー終了3月5日)
- 【勧告案】Document Object Model (DOM) Level 3 Load and Save Specification(2月5日発表、勧告案レビュー終了3月5日)
勧告候補となったのはCSS2改訂版、CSS印刷プロファイル、CSSページメディアモジュールです。CSS関連が並んでいます。
- 【勧告候補】Cascading Style Sheets, level 2 revision 1 CSS 2.1 Specification(2月25日発表、勧告候補フィードバック期限9月1日)
- 【勧告候補】CSS Print Profile(2月25日発表、勧告候補フィードバック期限8月25日)
- 【勧告候補】CSS3 Paged Media Module(2月25日発表、勧告候補フィードバック期限8月25日)
■2月のドラフトとノート
2月発表されたドラフトはラストコール付きが2本、ラストコールなしが11本で合計13本ありました。ノートは9本でした。
ラストコール付きはXQuery 1.0とXPath 2.0フォーマルセマンティック、WWWのキャラクタモデル基礎です。XQueryとXPathに関する仕様は2003年11月にまとめて5本ほどラストコール付きで発表になりました(W3C/XML Watch 2003年12月版)が、それに一歩遅れて追い付いたようです。もう1つはキャラクタモデルです。技術仕様の根幹ではありませんが、国際化の動きもあり、今後も整備していく必要があるのでしょう。
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Formal Semantics(2月20日発表、ラストコール終了4月15日)
- Character Model for the World Wide Web 1.0: Fundamentals(2月25日発表、ラストコール終了3月19日)
ラストコールなしのドラフトは11本ありました。SOAP、XML-バイナリ最適化パッケージング(XOP)、P3P 1.1、XHTML 1.0第2版、Inkマークアップ言語、オーサリングツールアクセシビリティガイドライン、CSS3が2本、WWWのキャラクタモデル正規化、QAフレームワーク、SVG 1.2と実に広範囲から発表がありました。
- SOAP Message Transmission Optimization Mechanism(2月9日発表)
- New XML-binary Optimized Packaging(2月9日発表)
- The Platform for Privacy Preferences 1.1 (P3P1.1) Specification(2月10日発表)
- Modularization of XHTML(TM) 1.0 - Second Edition(2月18日発表)
- Ink Markup Language(2月23日発表)
- Authoring Tool Accessibility Guidelines 2.0(2月24日発表)
- New CSS3 Hyperlink Presentation Module(2月24日発表)
- New The CSS 'Reader' Media Type(2月24日発表)
- Character Model for the World Wide Web 1.0: Normalization(2月25日発表)
- QA Framework: Test Guidelines(2月25日発表)
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.2(2月26日発表)
ノートは9本ありました。Webサービス関連が5本に、デバイス非依存、DOM3が3本でした。ドラフトや勧告候補にあったものが多く見られます。
- Web Services Architecture(2月11日発表)
- Web Services Architecture Usage Scenarios(2月11日発表)
- Web Services Glossary(2月11日発表)
- Web Services Architecture Requirements(2月11日発表)
- New Web Service Management: Service Life Cycle(2月11日発表)
- Authoring Techniques for Device Independence(2月18日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Views and Formatting Specification(2月26日発表)
- Document Object Model (DOM) Level 3 XPath Specification(2月26日発表)
- Document Object Model (DOM) Requirements(2月26日発表)
■IE特許問題、その後
IEが自社の特許を侵害しているとして、Eolas社がMicrosoft社を訴えた件の続報です。2月版までにお伝えしたとおり、Microsoft社は控訴審でも敗訴してしまったのですが、IE配布差し止めは保留となり、Microsoft社も修正版IEの配布を延期しています。現状は米国特許庁による、問題となる特許の再審査の行方に注目が集まっています。
ロイターによると、3月初めに米国特許庁は問題の特許について「無効」であると予備判断を下したそうです。この先、特許保有者による補足や手続きを経て最終判断へと進む予定です。順調にいけば数カ月以内には結論が出るでしょう。
その最終的な結論がどうなるか現段階で予見するのは無理ですが、特許保有者にとって金銭的な問題が大きな関心事であるのは間違いないはずです。そうなると露骨ではありますが、将来の見込みも含めて収入(特許侵害の賠償金)と支出(弁護士を雇う費用など)のバランスも考慮して今後の行動を考えるでしょう。その結果、どう出るか。引き続き見守ることにします。
特許に関連して、2月5日付けでW3C特許方針が更新されました。ただし本質的な変更はなく、ささいな更新にとどまっています。
■OASISの動き
OASISでは、2月4日にデータをリンクや同期するための標準仕様を検討する技術委員会(XDI TC)を発足させました。これは「Dataweb」と呼ぶネットワークで、XDI(ホワイトペーパードラフト)を用いてデータを共有し、リンクし、同期するための仕様です。もう1つ、ebSOA技術委員会(ebSOA TC)が発足しました。こちらはebXML v1.04を、後発のebXML関連仕様やWebサービス、サービス指向のアーキテクチャなどを反映したアーキテクチャに改善するための委員会です。
それから、日本語版OASISニュースがメールで配信されるようになりました。購読するにはoasisnewsjp-subscribe@lists.oasis-open.orgに空メールを送ってください。過去記事はこちらから参照できます。
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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