W3C/XML Watch - 3月版
XMLが4歳の誕生日を迎えました
加山恵美
2002/3/13
W3Cの2月の最大のトピックといえば、やはり、Patent Policyのドラフト公開でしょう。一時期の大混乱から約半年、大多数が希望するロイヤリティフリーへと方向を確実に定めました。
4年前に勧告されたXML 1.0のページ |
それはそうと、XMLが最初に勧告されたのが1998年2月10日でした(その後 XML 1.0 Second Editionに置き換わりました)から、XMLは4歳になりました。人間で4歳といえば、幼稚園か保育園にやっと入るような、まだ小さくてかわいい盛りですが、XMLは4年という短い間に飛躍的に知名度を高め、着実に基盤を整えてきました。これからも、より実績を重ねて活躍することに期待しましょう。
■2月の勧告、勧告案、勧告候補
2月は勧告が1つありました。W3Cとしては昨年のWebCGM 1.0 Second Release以来勧告がありませんでしたので、XML-Signature Syntax and Processingが今年初の勧告となりました。XMLをベースにした電子署名の仕様です。これに関しては、W3CとIETFが共同でワーキンググループを結成して、いくつかの仕様の開発作業を進めています。XMLのセキュリティ機能を担う重要な仕様の1つが勧告化されたことになります。
勧告案に昇格したものはありませんでしたが、勧告候補となったものは2つあります。Exclusive XML Canonicalization Version 1.0とXML Inclusions (XInclude) Version 1.0です。
2月12日に勧告候補となったExclusive XML Canonicalizationは、すでに勧告となったXML-Signature Syntax and Processing と同じXML Signatureワーキンググループによる仕様です。ここは2月の最もホットなワーキンググループだったといえるでしょう。もう1つのXML Inclusions (XInclude)は、XMLコアワーキンググループが策定している仕様です。要素、属性、URI参照を使用してXML文書をマージします。
上記2つの勧告候補は、ともに4月いっぱいまで評価予定となっています。
■ドラフトの動き
まずはラストコール設定のあるドラフトから見ていきましょう。下記の2つは同日に発表されたSVG関連の仕様です。去年9月にSVG 1.0が勧告になって、すぐにSVG 1.1のドラフトが公開され、2月にはラストコール付きドラフトが発表しています。動きが早いですね。
- Scalable Vector Graphics (SVG) Version 1.1 (2月15日発表、3月15日ラストコール)
- Mobile SVG Profiles: SVG Tiny and SVG Basic (2月15日発表、3月15日ラストコール)
そのほかに発表されたドラフトを見ていきましょう。まず、2月1日にQA関連のドラフトが2つあります。QAとは品質保証(Quality Assurance)の意味です。W3Cの標準やその実装をより高い品質にするためにテストスイートなどを提供します。
W3CにおけるQAの活動は2001年初頭に始まりましたが、正式にアクティビティが発足したのは同年8月なので、割と新しいアクティビティです。W3Cに限らず、新製品や新技術を発表するだけではなく、より確かな品質で提供していくことは大切なことです。QAガイドライン関連も整備が進み、周知徹底されていくといいですね。
次に2月前半にかけて、DOM3関連とRDFが合わせて3つ発表になりました。先月も触れましたがDOM3は毎月細かく更新されていますね。常にホットな分野です。
- Document Object Model (DOM) Level 3 XPath Specification (2月8日)
- Document Object Model (DOM) Level 3 Events Specification Version 1.0 (2月8日)
- RDF Model Theory (2月14日)
CSSを中心としたWebでの表現技術に関してのドラフトが5つありました。CSS3について、背景、色、カスケードと継承、リスト、さらにキャラクタモデルというように、それぞれモジュールに分けて整備されています。
- CSS3 module: Backgrounds (2月19日)
- CSS3 module: Color (2月19日)
- CSS3 module: Cascading and inheritance (2月19日)
- CSS3 module: Lists (2月20日)
- Character Model for the World Wide Web (2月20日)
そして2月後半にはCCXMLと例の特許方針の新しいドラフトが公開になりました。CCXMLはVoice Browserアクティビティの中で新しく発表された仕様で、VoiceXMLやほかのIVR(自動音声応答)システムでコール制御を提供する仕様です。一方、特許方針はタイトルが変更されたことから分かるように、方針の転換を明確に打ち出しています。
- Voice Browser Call Control: CCXML Version 1.0 (2月21日)
- Patent Policy Working Group Royalty-Free Patent Policy (2月26日)
■ノート
2月に発表されたノートです。P3P、XML中のUnicodeとほかのマークアップ言語、XMLパイプライン定義言語がありました。
- The Platform for Privacy Preferences 1.0 Deployment Guide (2月11日)
- Unicode in XML and other Markup Languages (2月18日)
- XML Pipeline Definition Language Version 1.0 (2月28日)
■特許方針はロイヤリティフリーへ
さて、今月はW3Cの特許方針について大きな方針変更が明確に打ち出されました。2001年8月に、特許方針に関する最初のドラフト「W3C Patent Policy Framework」が発表されましたが、これはロイヤリティフリーとRAND(妥当かつ非差別的な特許料徴収)方針という2つの選択肢の混合であり、「企業はW3C標準の利用者から特許料を徴収することができる」というRAND方針に衝撃と猛烈な非難の声が上がりました。その後、関係者はじめ有識者が集い、熱い議論が展開され、約半年後の2002年2月末に当初の予定から大幅に遅れて次のドラフトである「Patent Policy Working Group Royalty-Free Patent Policy 」が発表になりました。今後は継続して方針策定の作業が進められ、今年中には再度ドラフトを更新する予定となっています。
新しいドラフトでは、ロイヤリティフリーの方針を明言しています。W3Cのワーキンググループ参加者は今後、W3C標準に対してロイヤリティフリーでライセンスを提供しなくてはなりません(ただし特許保有者が特許侵害で訴えられた場合には、特許の使用が許可されています)。
この方針変更は技術を利用する側からすれば喜ばしいことですが、RANDという選択肢がなくなったことに対して、特許を保有するW3C参加企業は今後どう動くでしょうか。また、現在策定中の仕様でRANDを訴えている企業もいます。それにインターネットには、GIFやフラッシュのようなW3Cの標準以外のデファクトスタンダードが数多くあることは周知の事実です。インターネット技術におけるRAND技術やW3Cの役割は、今後どうなっていくのでしょうか。
すでに数多くの議論を重ねているとは思いますが、新たな方針を掲げ、W3Cの特許方針はあらためて出発点に立ったといえるでしょう。そして新しく打ち出した方針が、今後のW3Cと企業の関係、ひいてはインターネット技術の動向を左右する可能性があります。この問題は引き続き、注意して見守っていきたいと思います。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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