W3C/XML Watch - 2月版
日本人による標準技術発信が進むOASIS
加山恵美2004/2/18
デブサミ2004で講演する日本OASISオフィスの岡部惠造氏 |
現実世界でも仮想世界でもウイルスが猛威をふるっているようです。予防の大原則はいつでも手洗い、うがい、添付に注意ということで、健康維持に努めようと思います。さてW3Cでは1月にはCC/PPとDOM3バリデーション仕様の2本が勧告になりました。
■1月の勧告、勧告案、勧告候補
では、いつものようにW3Cの動きから見ていきましょう。1月の発表は勧告が2本、勧告案がなし、勧告候補が1本でした。
今年の勧告一番乗りはCC/PP、次はDOM3バリデーション仕様です。CC/PPは、クライアント機器の多様化に対応するための技術です。CC/PPはコンテンツ配布を最適化するため、つまりアクセスしている機器の表示機能や環境に適したコンテンツを表示できるようにするため、機器の特性やプリファレンスを表現する仕様を定めています。
機器の多様化にはPDAや携帯電話だけではなく、テレビや家電の双方向サービスなども念頭に置いています。また、CC/PPはRDFを用いているので拡張性に優れており、RDFを用いたアプリケーションで最初に勧告になった仕様でもあります。
もう1つのDOM3バリデーション仕様は12月に勧告案になったものです。1月14日のレビュー期間終了からすぐに勧告へと昇格しました。今回のバリデーション仕様はDOM3での勧告第1号となりました(DOM技術文書の進ちょく状況)。
- 【勧告】Composite Capability/Preference Profiles (CC/PP): Structure and Vocabularies 1.0(1月15日発表)
- 【勧告】Document Object Model (DOM) Level 3 Validation Specification(1月27日発表)
勧告候補になったのはXHTML-Printです。これは2003年3月にIEEE-ISTOのPWG(Printer Working Group)がXHTML-Printを同組織の勧告案にしたのを受け、同年7月にW3Cがラストコール付きドラフトとして発表したものです。約半年後の1月に勧告候補へと昇格しました。
- 【勧告候補】XHTML-Print(1月20日発表、勧告候補フィードバック期限7月20日)
■1月のドラフトとノート
1月に発表されたドラフトは0本、つまり1本もありませんでした。ただしノートは新作が2本発表になりました。OWLとXForm 1.1関連です。
- New OWL Web Ontology Language Parsing OWL in RDF/XML(1月21日発表)
- New XForms 1.1 Requirements(1月26日発表)
OWL-RDFパーサはRDFあるいはXML形式のファイルを受け取り、OWLオントロジーを生成するものです。XFormsは1.0が2003年10月に勧告になっており、早くも1.1の策定に動きだしています。
■2月の技術文書速報
来月版であらためて報告しますが、2月初頭には主要な仕様の進展がありました。XMLの基本的な仕様となる、XML 1.1、名前空間1.1、XMLインフォセット第2版、XML 1.0第3版が勧告になりました。また、VoiceXML 2.0は勧告案になりました。XML誕生6周年を前に、XMLはひとまわり成長を遂げたように見えます。さらに続けてセマンティックWebのRDFとOWLがまとめて12本勧告になりました。
■IE特許侵害問題、その後
新しい動きがあるたびに驚き、考えさせられます。IEが特許を侵害しているとして、Eolas社がMicrosoft社を訴えた件の続報です。
Microsoft社は去年、特許侵害との陪審評決を受け、控訴に踏み切りました。予想では控訴審は数年かかる見込みでしたが、あっという間に判決が出てしまいました。2004年1月14日、シカゴの連邦裁判所は「先の判決を覆す理由は見当たらない」、つまり特許侵害を認めると判決を下したのです。
そうなると、IEは特許を侵害した製品となり、製品に変更を加えない限り配布は差し止めになるのですが、判事は配布差し止め命令を保留したそうです。特許侵害が認定されたのであれば、該当製品が配布差し止め命令を受けるのは順当な流れです。なぜ判事はその命令を保留したのでしょうか。
それは、問題となる特許そのものが現在再審査中だからではないかと考えます。この連載で再三報告しているとおり、裁判とは別進行で米国特許庁が問題の特許の妥当性を再審査しています。この結論次第(特許自体が取り消される可能性もある)では先の判決は意義を失います。
裁判では問題となる特許の存在を前提としていました。しかし、その前提は現在疑われています。そうした背景を勘案し、なぜ米国特許庁の再審査結果が出るまで控訴審自体を保留できなかったのかと、疑問に感じてしまいます。とはいっても、裁判所と特許庁の連携を期待するのは無理なのかもしれません。
一方、IE配布差し止め命令の保留に関連しますが、Microsoft社は最初の陪審評決以来、特許侵害を回避した修正版IEを発表する予定でしたが、それを保留しました。いつまで保留かは定かではありませんが、おそらく米国特許庁での再審査結果が出るまで方針変更はないでしょう。
何にせよ、特許庁の再審査結果に今後の行方がゆだねられています。この経緯の詳細は、「W3Cの特許方針ついに決着へ 後編」を参照してください。
■日本でのOASISや標準技術策定の動き
1月29日から2日間、開発者向けイベントDevelopers Summit 2004(デブサミ2004)が開催され、日本OASISオフィスの岡部惠造氏がOASISからWebサービスに至る、最新の動向を解説しました。
本稿2003年12月号の記事でも触れたように、いま日本OASISでは日本人の日本語による標準発信に力を入れています。現時点での活動は、日本で日本語によるOASIS技術委員会として、PPS技術委員会とUBL技術委員会傘下の日本語化小委員会があります。ほかにも日本の団体が加わった例として、自動車修理情報技術委員会があります。
- PPS(Production
Planing and Scheduling)技術委員会
PSLXにおいて、生産計画とスケジューリングの自動化のためのXMLをベースにしたアプリケーション連携メッセージを開発 - UBL技術委員会傘下の日本語化小委員会(JPLSC)
東アジア電子商取引委員会(EA-ECA)を中心にUBL(Universal Business Language)の日本語化と東アジアでの利用を追求 - 自動車修理情報技術(Automotive
Repair Information)委員会
日本自動車工業会や日本の自動車メーカーが参加
ほかにも日本主導で進められている技術委員会として注目したいのが、WS-Reliability標準化技術委員会です。現在、国内・海外の6社が各社のサイトでドラフトを公開しています。近く、ロイヤルティーフリーで標準化団体へ提出することになっています。この活動に加わっている企業とそれぞれの標準を公開しているサイトは次のとおりです。
今後も日本における、または日本人が加わる活動がより活発化していくといいですね。
■Webサービスとグリッド
また岡部氏はWebサービスとグリッドは徐々にWSRF(WS-Resource Framework)へと収れんしていくと予見しています。もともとWebサービスとグリットは別の背景や目的で発生したのですが、進化の過程で性質や目的が接近してきたというのです。
この発想はGlobus AllianceのOGSA(Open Grid Services Architecture)を見るといいでしょう。2002年6月に発行されたドラフト「The Physiology of the Grid」にはグリッドの(生理学的な)機能が記されています。その基本概念はリソースのダイナミックな結合や連携です。コンピュータ間のプラットフォームの違いを超え、ネットワークを介してWebサービスを利用してコンピュータ同士をつなげます。その結合は従来の密結合ではなく疎結合で、それが疎結合グリッドへと発展していくというものです。
具体的な技術となるWSRFは、GGF(Global Grid Forum)が中心となり標準化作業が進められています。Webサービスを含んだ標準化ということになりますから当然のことながら、W3C、IETF、OASISとの協業が重要になります。すでにOASISはGGFと共同でOGSIをレビューすることに合意(GGFニュース)したと発表しています。
リソースはグリッドへ、という流れはWebサービスにも波及してくるということです。
ではまた来月お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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