W3C/XML Watch - 6月版
あいまいな部分を排除したSOAP 1.2
PNGはISO標準へ
2003/6/28
W3Cでは、5月の中旬までに勧告案、勧告候補、ドラフト、ノートで合計33本の発表がありました。加えて、技術文書ではありませんが「特許方針が最終合意に到達した」との発表もありました。
特許といえば、5月の勧告案で画像ファイルフォーマットであるPNGの改訂版がありますが、この改訂の背景にも特許が絡んでいます。特許問題はWebにかかわる標準団体ではどこでも関心のある問題で、それぞれがロイヤリティフリーへ動いています。しかし、一筋縄ではいかないようです。
ではW3Cから発表されたXML関連の技術文書について見ていきましょう。
■5月の勧告、勧告案、勧告候補
5月の発表は勧告がなし、勧告案が5本、勧告候補が4本です。勧告案はSOAP 1.2が4本とPNGの第2版が1本ありました。SOAP 1.2はXML Protocolワーキンググループによってまとめられ、SOAP 1.1に含まれていた記述のあいまいさをなくし、エラーメッセージの改善も行っています。
SOAP 1.2は、0部:入門、1部:メッセージングフレームワーク、2部:付属資料、アサーションズとテスト集といった一連のドキュメントから成ります。
PNGは画像形式の仕様で、第1版は1996年10月に勧告となっています。W3Cの勧告文書一覧の中で最古の日付です。勧告の発表以来、今回初めて改訂版として再登場しました。改訂によって今後の普及率が上がるようになるでしょうか。
- SOAP Version 1.2 Part 0: Primer(5月7日発表、勧告案レビュー終了6月7日)
- SOAP Version 1.2 Part 1: Messaging Framework(5月7日発表、勧告案レビュー終了6月7日)
- SOAP Version 1.2 Part 2: Adjuncts (5月7日発表、勧告案レビュー終了6月7日)
- SOAP Version 1.2 Specification Assertions and Test Collection(5月7日発表、勧告案レビュー終了6月7日)
- Portable Network Graphics (PNG) Specification (Second Edition) (5月20日発表、勧告案レビュー終了6月23日)
ちなみに、上記のSOAP 1.2関連の仕様は4本すべて6月24日に勧告へ昇格しました。
勧告候補はCSS3が4本です。TVプロファイルと、色、ルビ、テキストのモジュール群です。どれも、勧告候補期間は少なくとも今後半年間は続く見込みです。
- CSS TV Profile 1.0 (5月14日発表)
- CSS3 Color Module (5月14日発表)
- CSS3 Ruby Module (5月14日発表)
- CSS3 Text Module (5月14日発表)
■5月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが3本、それ以外が18本で合計21本あります。ノートは3本です。 ラストコール付きのドラフトは、XMLデータベースの問い合わせ言語として進化しているXQuery 1.0とXPath 2.0の混合仕様が2本と、OWLが1本です。
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model () (5月2日発表、ラストコール6月30日終了)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators (5月2日発表、ラストコール6月30日終了)
- OWL Web Ontology Language Test Cases (5月28日発表、ラストコール6月27日終了)
ラストコールなしのドラフトは18本あります。まず、5月冒頭にはXSLT、XQuery、XPathに関連した仕様が合計8本発表になりました。
- XSLT 2.0 and XQuery 1.0 Serialization (5月2日発表)
- XSL Transformations (XSLT) Version 2.0 (5月2日発表)
- XQuery 1.0: An XML Query Language (5月2日発表)
- XQuery and XPath Full-Text Requirements (5月2日発表)
- XML Query (XQuery) Requirements (5月2日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Formal Semantics (5月2日発表)
- XML Query Use Cases (5月2日発表)
- XML Path Language (XPath) 2.0 (5月2日発表)
次にXHTML 2.0とコア表示特性が1本ずつ、加えてWebサービス関連が3本です。コア表示特性とは装置非依存活動から出ているもので、利用する装置に適したコンテンツ表示の基盤を構築しています。Webサービスは、そのアーキテクチャと使用シナリオ、加えて用語集が発表になりました。
- XHTML 2.0 (5月6日発表)
- Core Presentation Characteristics: Requirements and Use Cases (5月10日発表)
- Web Services Architecture (5月14日発表)
- Web Services Architecture Usage Scenarios (5月14日発表)
- Web Services Glossary (5月14日発表)
最後にCSS3が2本と、TTオーサリングフォーマット1.0利用例と要件、Webサービス国際化使用シナリオ、QAフレームワークがそれぞれ1本ずつあります。TTオーサリングフォーマットは初登場のドラフトです。これはTTワーキンググループから発表されましたが、マルチメディア同期活動の一環です。TTとはTimed Textを意味し、時間を表す数値テキストではなく、時間で調節されるテキストのことです。マルチメディア関連なので、SMILとも関連性が高い分野です
- CSS3 Speech Module (5月14日発表)
- CSS3 Generated and Replaced Content Module (5月14日発表)
- Timed Text (TT) Authoring Format 1.0 Use Cases and Requirements (5月15日発表)
- Web Services Internationalization Usage Scenarios (5月16日発表)
- QA Framework: Test Guidelines (5月16日発表)
ノートは3本です。XKMS 2.0要件、W3Cマルチモーダルインタラクション(MMI:多様な形態間の相互作用)、SMIL 2.0拡張です。XKMSは分野としてはセキュリティで、交換暗号鍵の管理についての仕様。現在XKMS 2.0そのものはドラフト開発中です。W3C MMIフレームワークは装置非依存の一環ですが、MMIはモバイル装置に焦点をあてた独立した活動として組織されています。今回のノートではあらゆる装置におけるユーザーインターフェースや入出力についての仕様をまとめています。MMIからは今まで使用例や要件がノートで発表されています。
- XML Key Management (XKMS 2.0) Requirements (5月5日発表)
- W3C Multimodal Interaction Framework (5月6日発表)
- SMIL 2.0 Extension for Professional Multimedia Authoring - Preliminary Investigation (5月12日発表)
■GIFとPNGの情勢に変化あり?
Webで使われる代表的な画像フォーマットといえば、GIFとJPEG、それに加えてPNGがあります。今後、GIFとPNGの利用率に変化が起きそうです。
過去の経緯から振り返ると、まずGIFが先に登場し、それに対抗してPNGが開発されました。その原因はロイヤリティです。GIFの圧縮アルゴリズムとしてLZWというものがあり、米ユニシスがこの方式の特許を保有しています。米ユニシスは一時期、GIFの利用に課金しようと試みました。そのためこれに対抗して、フリーな画像フォーマットとして開発されたのがPNGです。
両者を技術的に比較すると、どちらも優位点があります。PNGは透過や色の扱いが優れており、GIFはアニメーションに対応しています。実際の普及率で比較するとGIFの方が優勢です。
ところが、GIFで使用されているLZWが6月20日に米国で特許切れとなります(日本では1年遅れです)。これでPNGはGIFに対して持っていたロイヤリティフリーという決定的な優位性を1つ失い、PNGの存在意義が危ぶまれていました。こうしたことを背景に、今回PNGに改訂版が登場しました。この改訂版で、PNGの仕様が国際標準化機構ISO発行版となることに意義があります。
PNG仕様をISO発行とすることは、特に政府系機関との契約に必要だという理由でPNG支持者から強い要望がありました。これで、PNGは国際標準としての地位がさらに高まるといえます。こうした変化が今後PNGやGIFの普及率に影響を与えるようになるでしょうか。
■特許方針が最終合意に到達
次も特許関連の話題です。ここ数年の懸案事項であったW3Cの特許方針が最終的な合意に至りました。直前の更新は3月19日に発表になった「Royalty-Free Patent Policy」で、その内容としてはW3Cの勧告は基本的にはロイヤリティフリーだが例外もあり得る、というものでした。これが最終的な承認を受けて、ようやく5月20日にW3C方針となりました(日本向けプレスリリース)。これで混迷の特許方針には一応の解決をみたわけですが、これからは案件ごとに基本方針どおりなのか例外扱いなのか、個別に検討することになるでしょう。別の記事にて、特許方針に関するこれまでの経緯をまとめたいと思います。
■OASISの動き
さて、こうしたロイヤリティフリーの動きはOASISにも波及しています。Webサービス関連仕様であるBPELではロイヤリティフリーが提案されています。標準仕様はできるだけロイヤリティフリーにするという動きの方が優勢です。
5月のOASISでの組織の動きをみると、5月5日にはビジネスセントリックメソドロジー(BCM)技術委員会、5月13日にはWebアプリケーションセキュリティ(WAS)技術委員会が編成されました。また、UDDI v2がOASIS標準に承認されました。現在、UDDIはUDDI.orgにてv1、v2、v3の仕様がそれぞれ公開されています。UDDIはXMLを使用したWebサービスの検索のためのシステムです。IBMやマイクロソフトなどが中心となって推進していますが、2002年夏のUDDI v3の発表と同時に活動がUDDI.orgからOASISのプロジェクトへと引き継がれました。
さらに5月頭にロンドンで開催されたXML Europe 2003では、OASISの電子政府(e-Gov)技術委員会によるeビジネスのセキュリティに関する功績が高く評価され、2003 SecurE-Biz Leadership Awardsを受賞したと発表がありました。
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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