XML関連仕様の動向を隔月お届け!
W3C/XML Watch - 12月版
年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる
加山恵美2004/12/21
@ITの読者にも人気が高い、XMLマスターの取得者が今年11月末で1万人を突破したそうです。開始3年目で1万人とはすごいですね。ちなみに私も2003年10月にベーシックを取得しました。仲間が1万人に広がったことは、素直に喜ばしいと感じています。W3Cでは10周年イベントを前に多方面で技術文書が更新されました。
■10〜11月の勧告、勧告案、勧告候補
それではW3Cの動向から見ていきましょう。10〜11月の勧告はなし、勧告案が5本、編集済み勧告案が1本、勧告候補が1本でした。勧告案に昇格したものを発表日順に見ると、最初はWWW(World Wide Web)のアーキテクチャがあります。これは前回記事でも8月16日付けでラストコール付きドラフトとして更新と報告しましたが、2003年末にはすでにラストコール付きドラフトとなっていて2004年8月の段階ではかなり最終段階の更新だったようです。こうなると勧告も間近でしょう。次にSOAPに関連して3本、「SOAPメッセージ伝送最適化メカニズム」「リソース表示SOAPヘッダブロック」「XMLバイナリ最適化パッケージング」です。3本まとめて勧告候補から順当に勧告案に昇格しました。それから最後に「WWWのためのキャラクタモデル 1.0:基礎」です。こちらは国際化活動の一環です。
- 【勧告案】Architecture of the World Wide Web, First Edition(11月5日発表、勧告案レビュー終了12月3日)
- 【勧告案】SOAP Message Transmission Optimization Mechanism(11月16日発表、勧告案レビュー終了12月16日)
- 【勧告案】Resource Representation SOAP Header Block (11月16日発表、勧告案レビュー終了12月16日)
- 【勧告案】XML-binary Optimized Packaging(11月16日発表、勧告案レビュー終了12月16日)
- 【勧告案】Character Model for the World Wide Web 1.0: Fundamentals(11月22日発表、勧告案レビュー終了12月20日)
11月には編集済み勧告案もありました。SMIL 2.0です。2001年8月発行の勧告にあったいくつかの表記を訂正するものです。
- 【編集済み勧告案】Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL 2.0)(11月5日発表、勧告案レビュー終了12月5日)
勧告候補は勧告案にあるWWWのキャラクタモデルとセットになるもので、こちら側は識別(URI関連)についてです。もともとは同じ文書でしたが、分割されました。
- 【勧告候補】Character Model for the World Wide Web 1.0: Resource Identifiers(11月22日発表、勧告候補フィードバック締め切り2005年1月15日)
■10〜11月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが10月に1本と11月に6本で合わせて7本、ラストコールなしが10月に11本と11月に11本で合わせて22本、トータルで29本発表されました。
ラストコール付きから見ていくと、まず10月に発表されたのが「SVG 1.2」です。これと11月の「XMLでメディアタイプをバイナリにアサイン」は勧告案になったXMLバイナリ最適化パッケージングと関連しています。ほかにも「音声認識のためのセマンティック翻訳」「xml:id 1.0」「オーサリングツールのアクセシビリティガイドライン 2.0」があります。その次の「ダイナミック・プロパティ・フレームワーク(DPF)」は前の文書では表題が「システムと環境のフレームワーク(System and Environment Framework)」でしたが変更されたようです。これはマルチモーダルの一環です。最後が「QAフレームワーク:仕様ガイドライン」です。
- Scalable Vector Graphics (SVG) 1.2(10月27日発表、ラストコール11月24日)
- Assigning Media Types to Binary Data in XML(11月2日発表、ラストコール11月24日)
- Semantic Interpretation for Speech Recognition(11月8日発表、ラストコール12月5日)
- xml:id Version 1.0(11月9日発表、ラストコール12月13日)
- Authoring Tool Accessibility Guidelines 2.0(11月22日発表、ラストコール2005年1月7日)
- Dynamic Properties Framework (DPF)(11月22日発表、ラストコール2005年1月10日)
- QA Framework: Specification Guidelines(11月22日発表、ラストコール2005年1月28日)
次に10月のラストコールなしドラフトです。初登場は「XMLバイナリキャラクター化プロパティ」と「RDF向けのSPARQLクエリ言語」の2つでした。前者はXMLバイナリワーキンググループから発表されたもので、バイナリのエンコーディングについてのプロパティを示すものです。後者はSPARQLというRDFクエリ言語です。SPARQLはRDQLをベースにした構文で、SQLとTurtleを合体したものに近いようです。ちなみにSPARQLとはSimple Protocol And RDF Query Languageの略で「スパークル」と発音するのが通だそうです。ほかにも数多くドラフトの更新がありました。分野を挙げると、RDF、Webサービス、国際化、音声ブラウザ、それからXQueryとXPath関連があります。
- New XML Binary Characterization Properties(10月5日発表)
- RDF Data Access Use Cases and Requirements(10月12日発表)
- New SPARQL Query Language for RDF(10月12日発表)
- Web Services Choreography Description Language Version 1.0(10月12日発表)
- Authoring Techniques for XHTML & HTML Internationalization: Specifying the language of content 1.0(10月15日発表)
- Pronunciation Lexicon Specification (PLS) Version 1.0 Requirements(10月29日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model(10月29日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators(10月29日発表)
- XML Path Language (XPath) 2.0(10月29日発表)
- XQuery 1.0: An XML Query Language(10月29日発表)
続けて11月のラストコールなしドラフトを見ていきます。初登場は3本ありました。1つは「TT AF 1.0 - DFXP」(時間調整テキストのオーサリングフォーマット 1.0 頒布形式の交換プロフィール)です。同じTT AFと名の付くものにはほかにも「使用例と要件」がドラフトで、現在策定中です。次に「XForms 1.1」ですが、2003年10月に勧告となったXForms 1.0の改良版です。主に利用者向けに緊急の要請に応えるものなので、今後の昇格は早く進む可能性があります。初登場3本目は「WCAG 2.0のクライアント側のスクリプト技術」です。WCAG(Webコンテンツのアクセシビリティガイドライン)はほかにも5本更新されており、Webのバリアフリー化活動の活発さがうかがえます。
初登場以外で更新されたドラフトには、XSLT 2.0、XMLバイナリキャラクター化使用例、WCAG関連、sXBLがあります。
- New Timed Text (TT) Authoring Format 1.0 - Distribution Format Exchange Profile (DFXP)(11月1日発表)
- XSL Transformations (XSLT) Version 2.0(11月5日発表)
- XML Binary Characterization Use Cases(11月9日発表)
- New XForms 1.1(11月15日発表)
- Web Content Accessibility Guidelines 2.0(11月19日発表)
- CSS Techniques for WCAG 2.0(11月19日発表)
- General Techniques for WCAG 2.0(11月19日発表)
- HTML Techniques for WCAG 2.0(11月19日発表)
- New Client-side Scripting Techniques for WCAG 2.0(11月19日発表)
- Implementation Techniques for Authoring Tool Accessibility Guidelines 2.0(11月22日発表)
- SVG's XML Binding Language (sXBL)(11月22日発表)
ノートは11月に2本ありました。国際化とQA(品質保証)についてです。
- Requirements for the Internationalization of Web Services(11月16日発表)
- The QA Handbook(11月22日発表)
■日本語版OASISサイト登場
かねてより、OASIS日本代表の岡部惠造氏は日本における日本人による日本語でのOASIS活動を普及させたいと熱意を語っていましたが、それがまた1つ前進しました。ついにOASISサイトの主要な部分が日本語で読めるようになりました。これでよりOASISサイトが身近で分かりやすくなってきました。
さてあらためてOASISの10〜11月の動きですが、UBLとWS-ReliabilityがOASIS標準として批准されることになりました。UBLはXMLベースのビジネス文書のための仕様です。WS-ReliabilityはWebサービスで安全にメッセージ交換するためのメッセージング仕様です。
- Universal Business Language 1.0(UBL 1.0)(11月8日)
- WS-Reliability v1.1(11月15日)
最近では、WSS SAMLトークン・プロファイル(PDF)とRELトークン・プロファイル(PDF)についてのOASIS標準の投票がありました。近いうちに結果が出ることでしょう。また、WS-Context v0.8仕様が12月12日まで公開レビュー中です。
■Webの15年、W3Cの10年を振り返る
W3C 10周年祝賀イベントに当たり、少し歴史を回想してみましょう。Webの発足はいまから15年前までさかのぼります。
1989年、欧州共同原子核研究機関(CERN)に勤務していたティム・バーナーズ・リー氏は、ある研究計画を提出します。これがWebの基礎となるもので、オープン性や標準化を重視したことも後押しし、そこから多くのWebサーバが世界中に拡散していくことになります。1994年10月にバーナーズ・リー氏はマサチューセッツ工科大学計算機科学研究所(MIT LCS)で故マイケル・ダートウゾス氏の支援を受けてW3Cを設立しました。W3Cのトップページには「Leading the Web to Its Full Potential」とあるように、W3Cは発生当初からWebの可能性を最大限に導くことを目的に掲げ、現在でもそれを貫いています。
MITで生まれたW3Cは翌年フランス国立研究所(INRIA)と共同ホストとなります(2003年から欧州ホストは欧州情報処理数学研究コンソーシアム(ERCIM)へ移管)。翌年には慶應義塾大学もホストに加わり、現在の3ホストによる運営体制となります。その直後にW3Cは画像フォーマットのPNGを発表します。W3Cの記念すべき勧告第1号です。この当時はまだWebの表現技術、HTMLやCSSなどの開発が中心でした。ほかにもアクセシビリティやSMILも開発されていました。
1998年2月にはXML 1.0が勧告になります。このころからXMLは時代のキーワードとして注目を浴びるようになります。秋には日本でXML専業のソフトウェアメーカー(インフォテリア)も生まれました。ここからXML技術を支える仕様が次々と登場します。名前空間、XSLT、XPathなどです。2000年にはXHTML 1.0が勧告になりました。2001年にはW3Cメンバーも500人体制になり、規模はますます拡大していきます。
XMLの基礎技術が固まってくるにつれ、多様な方向に応用技術が発展していきました。そのうち次第にWebサービスという発想が広まってきます。2002年7月にはWSDLの初めてのドラフトが登場しました。いまではWebサービスにW3Cだけではなく、多くの団体や企業が参入して取り組んでいるのは周知のとおりです。2003年ごろにはセマンティックWebの技術も具体化が進み、2004年初めにはその基盤となるRDFやOWLの仕様が一気に勧告になりました。
年月 | 活動内容 |
1995年3月 | MITとINRIAがホストに |
1996年9月 | 慶應大がホストに加わる |
1996年10月 | PNG 勧告発表 |
1997年12月 | HTML 4.0勧告発表 |
1998年2月 | XML 1.0勧告発表 |
2000年1月 | XHTML 1.0勧告発表 |
2001年9月 | 慶應大でW3C Day開催 |
2003年6月 | SOAP 1.2勧告発表 |
2004年2月 | RDFやOWL勧告発表 |
2004年12月 | W3C 10周年祝賀イベント |
WebとW3Cの主な活動年表 |
今後はセマンティックWebの実現や、これまでの仕様の改良や発展、また国際化やアクセシビリティといった方向など幅広く技術開発を進めていくことでしょう。
ではまた来年、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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