W3C/XML Watch - 1月版
この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様
2003/1/24
あけましておめでとうございます。この連載で新年のごあいさつができるのもこれで2度目です。これからもW3CとXML業界動向の定点観測を行っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
今月は通常のW3Cの技術文書の報告に加えて、2002年のW3Cの技術文書の動向をを振り返ってみます。
■12月の勧告、勧告案、勧告候補
まずは12月の技術文書の報告から始めましょう。年末は日本では師走、海外ではクリスマス休暇の季節でどこも忙しく、2002年のW3Cからの発表は12月中旬までに終了したようです。XML関連の勧告は3本、勧告案がなし、勧告候補が4本発表されました。
まずは勧告ですが、暗号関連が2つ、アクセシビリティが1つです。暗号関連は中枢となる「XML Encryption Syntax and Processing (XML構文と処理)」と「Decryption Transform for XML Signature(XML署名の復号変換)」についてです。またもう1つは、ユーザーエージェント(一般にWebブラウザ)のアクセシビリティガイドラインです。
- XML Encryption Syntax and Processing (12月10日発表)
- Decryption Transform for XML Signature (12月10日発表)
- User Agent Accessibility Guidelines 1.0 (12月17日発表)
勧告候補は4本ですが、XML名前空間とSOAPの関連です。XML名前空間はマイナーバージョンアップした1.1 が勧告候補になりました。SOAP 1.2は細かく仕様が分かれていますが、まずは基本的なシリーズがそろって勧告候補になりました。分かれている仕様書の第0部が入門、第1部がメッセージングフレームワーク、第2部が付録です。
- Namespaces in XML 1.1 (12月18日発表、勧告候補期間は2003年2月14日まで)
- SOAP Version 1.2 Part 0: Primer (12月19日発表、勧告候補期間は2003年1月24日まで)
- SOAP Version 1.2 Part 1: Messaging Framework (12月19日発表、勧告候補期間は2003年1月24日まで)
- SOAP Version 1.2 Part 2: Adjuncts (12月19日発表、勧告候補期間は2003年1月24日まで)
■12月のドラフト
12月に発表になったドラフトは9本、うち2本がラストコール付きでした。ラストコールが付いているのは、Speech Synthesis Markup Language Version 1.0(音声合成のマークアップ言語 1.0)と、XMLスキーマにおけるXHTMLのモジュール化です。ラストコール設定期間はともに約1カ月と短めなので、問題がなければ早々に次の段階へ進めるかもしれません。
- Speech Synthesis Markup Language Version 1.0 (12月2日発表、ラストコール1月15日終了)
- Modularization of XHTML in XML Schema (12月9日発表、ラストコール1月31日終了)
残り7本のドラフトを日付順に半分ずつ見ていきましょう。最初のEARL 1.0は初登場で、「評価と修復ツール」ワーキンググループから発信された、テストツールによるテスト結果などを報告するための言語です。2つ目も初登場で、デバイス非依存の送信コンテキスト概要です。3つ目は3回目の更新となるXHTML 2.0です。これは8月に初登場してから12月11日に更新され、1週間後に再度更新されました。製品にかかわるささいなエラーを訂正するためとのことです。
- Evaluation and Report Language (EARL) 1.0 (12月6日発表)
- Delivery Context Overview for Device Independence (12月13日発表)
- XHTML 2.0 (12月18日発表)
次に残りの4本を見ていきましょう。1つ目はMathML 2.0第2版です。もともとMath 2.0は2001年2月21日に勧告化されましたが、今回はその改訂版となるのでMathML 2.0の第2版です。いくつかの訂正を行うためにMathMLはワーキングドラフトから再出発することになりました。
2つ目はXPointerです。これはとても歴史の長い仕様です。もとをたどると、1997年発表のXML Part 2 Linkingまでさかのぼることになります。後の1999年にXML Pointerという表現に変わり、その後2度も勧告候補になりましたが、ドラフトに戻されています。W3Cの数ある仕様の中でも最も紆余曲折を経ている仕様の1つといえるでしょう。今回もまだラストコール付きではないので、勧告までまだ時間がかかりそうです。
3つ目は初登場の QA(品質保証)フレームワークのテストガイドライン。最後はWebサービスの国際的使用のシナリオです。Webサービスを単一の国だけではなく、複数の国で利用する場合に想定されるシナリオがまとめられています。
- Mathematical Markup Language (MathML) Version 2.0 (2nd Edition) (12月19日発表)
- XPointer xpointer() Scheme (12月19日発表)
- QA Framework: Test Guidelines (12月20日発表)
- Web Services Internationalization Usage Scenarios (12月20日発表)
■ノート
12月は6本のノートが発表されました。更新されたノートもあれば、ドラフトからノートへ移行したものもあります。
- QA Framework: Operational Examples & Techniques (12月2日発表)
- W3C Multimodal Interaction Framework (12月2日発表)
- Multimodal Interaction Use Cases (12月4日発表)
- Techniques for User Agent Accessibility Guidelines 1.0 (12月17日発表)
- SRML - Simulation Reference Markup Language (12月18日発表)
- Embedding Glyph Identifiers in XML Documents (12月20日発表)
■2002年のW3C技術文書更新状況を総括
さて、2002年を振り返り、どのくらいの技術文書がW3Cによって発表されたか総括してみましょう。以下の表のようになります。
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2002年にW3Cから発行された技術文書の数 ※ドラフトの( )内はラストコールが付いたドラフト |
こうした技術文書の中から、2002年に勧告となったのは以下の7本です。署名や暗号/復号に関係する分野が大半を占めています。勧告へ到達するまでの期間は、P3Pのように1998年から始まったものもあれば、上から3、5、6番目の文書(排他的正規化、暗号、復号関連)のように2001年から約1年で勧告になったものまでさまざまです。
- XML-Signature Syntax and Processing (2月12日発表)
- The Platform for Privacy Preferences 1.0 (P3P1.0) Specification (4月16日発表)
- Exclusive XML Canonicalization Version 1.0 (7月18日発表)
- XHTML 1.0 The Extensible HyperText Markup Language (Second Edition) (8月1日発表)
- XML Encryption Syntax and Processing (12月10日発表)
- Decryption Transform for XML Signature (12月10日発表)
- User Agent Accessibility Guidelines 1.0 (12月17日発表)
2003年1月の時点では、合計で51本の文書がW3Cの勧告として登録されています。また勧告待ちのものとしては、勧告案が6本、勧告候補が13本、ラストコール付きのドラフトが20本控えています。
勧告に最も近い勧告案では、現在SVGやXPointer関連があります。勧告候補ではSOAP 1.2のシリーズや、XML 1.1や名前空間 1.1といった基本技術のマイナーバージョンアップや、XForm 1.0やXInclude 1.0といったまだ勧告に至らない基本技術などがあります。
これらの勧告化に影響を与えるのが、いまW3Cを取り巻く懸案事項の1つとなっている特許問題です。もしこの決着がつけば、堰(せき)を切ったように勧告が生まれる可能性があります。今年はどこまでが勧告に到達するでしょうか。
■Amaya 7.1とWebページコンテスト
普及率はそれほどではないものの、W3Cが開発を勧めているWebブラウザ/オーサリングルールにAmayaがあります。Amayaは目立たないながらも着実にバージョンアップを重ねています。そして遂に12月にはAmaya 7.1がリリースされました。
同時に、Amayaを起動したときにデフォルトで表示される、ウェルカムページのデザインを競うウェルカムページコンテストが開かれることになりました。コンテストは2002年12月10日から2003年2月3日までです。多くの人が参加してAmayaが盛り上がるとよいですね。想像力や技術力に自信があるなら、挑戦してみてはいかがでしょうか。
ではまた来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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