W3C/XML Watch - 6月版
“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス
加山恵美2005/6/23
6月版は盛りだくさんです。5月の連休明けにはWWW2005があり、W3Cでは技術文書が大量に更新されています。またXMLコンソーシアムは「XMLコンソーシアム第5回総会」と「XMLコンソーシアムWeek」にて1年の活動成果を総括しました。その中でも17ものシステムをWebサービスで接続した実証実験には圧倒されました。
■史上最多のWebサービス連携作戦
まずはXMLコンソーシアムの活動から報告しましょう。いまやWebサービスは「つながって当たり前」となりました。しかし目的も構成も多種多様な17ものシステムをWebサービスでつなげてしまったというのですから驚きです。XMLコンソーシアムでは「iPlatプロジェクト」として(恐らく)史上最多のWebサービス連携を行う実証実験に成功しました。システムでは13のWebサービスと4つのサーバが2種類のクライアントから有機的に連携を取るようにできています。
Webサービス | |
1 |
衛星地図サービス |
2 |
マッピングサービス |
3 |
多言語翻訳サービス |
4 |
知識検索サービス |
5 |
旅行先情報サービス |
6 |
座標変換サービス |
7 |
Blog情報集約サービス |
8 |
メール通知サービス |
9 |
道路交通情報サービス |
10 |
気象情報サービス |
11 |
宿泊施設情報サービス |
12 |
観光情報サービス(愛知県) |
13 |
道路交通情報サービス(日本道路交通情報センター) |
サーバ | |
1 |
宿泊施設情報サイト |
2 |
Blog |
3 |
Sky ActiveField |
4 |
RSS視聴 |
今回のシステムでは日本道路交通情報センターの道路交通情報をはじめ、あらゆる情報を有機的に接続して、効率よく「愛・地球博」周辺を旅行できるように作られています。クライアントはリッチクライアントとWebクライアントの2種類あり、どちらからも同じ機能が利用できます。衛星写真上から史跡解説やブログ記事を閲覧したり、行程を計画したり、移動先の天気を確認することなどができます。予定した移動時間になると交通の混雑状況も加味して携帯電話に通知メールを送るようにしたり、子どもにうんちくを語れるように知識検索まで提供しているところが親泣かせで実用的です。
Webサービス実証部会リーダー 松山憲和氏 |
一般的に接続するシステムが増えると開発の複雑さや検証は指数的に増加するといわれますが、今回のシステムは「SOAに基づいた開発を行い、WS-BPELを活用することでビジネスロジック連携が短期間で容易に実装できました」とWebサービス実証部会リーダーの松山憲和氏(PFUアクティブラボ株式会社)は述べています。また開発中のWSDL管理にはUDDIも活用したとか。最新技術の強みを最大限に生かすように使いこなしたお手本のような事例です。後日、実証実験の技術資料などがXMLコンソーシアムのサイトで公開される予定だそうです。
iPlatプロジェクト システム全体図 (出典:XMLコンソーシアム 2005の資料「道路交通情報Webサービスを使った複合Webサービス実証実験」の38ページを転載) |
■目指すは「One Web」
ティム・バーナーズリー氏の講演にはいつも熱意がこもっています。それは彼の意欲の証しでもあり、純粋さも感じられるほどです。日本で開催されたWWW2005でもその熱血ぶりは全開でした。
WWW2005で講演するW3Cのディレクタ、ティム・バーナーズリー氏 |
近年W3Cで熱いトピックといえばセマンティックです。より人間の目的に即したページを的確かつ安全に表示できるようにした標準技術体系で、いま着々と開発が進んでいるところです。このセマンティックとも関係があり、同じく活気があるのがどんなコンテンツでも機種を問わずアクセスできるようにするデバイス非依存(DI)技術です。セマンティックが垂直方向に広がる技術だとしたら、デバイス非依存とは水平方向に広がる技術とイメージしていいかもしれません。このセマンティックとデバイス非依存の技術が融合し完成度を高めると、Webはどんな機種からも同じページを閲覧できて、より確実に目的を達成するようになるかもしれません。その最終的なゴールをバーナーズリー氏は「One Web」と掲げています。
セマンティックの図 (出典:W3C資料「Web for real people」の17ページを転載。Copyright © 2005 W3C ® (MIT, ERCIM, Keio), All Rights Reserved.) |
デバイス非依存の身近な例を挙げると携帯電話からのWebアクセスがあります。日本でもかなり活発な分野ですが、この標準化をより効率的に協調できるようにとモバイル Web イニシアティブ(MWI)が発足することになりました。モバイルからのWebアクセス技術発展に貢献するといいですね。
ほかにもWWW2005にはXMLアクティビティリーダーであるリアム・クイン氏も来日しました。XMLアクティビティについては「よりいっそうの前進には安定性の確保が重要です」と強調していました。新しいバージョンのXMLはまだプロセッサやネゴシエーションがうまく機能せず「破壊的(destructive)」と冷やかされることもあるからだそうです。「しかしXMLはすでに机やいすのように必要不可欠な基盤技術です。だから安定性を高めるためにやることは山ほどあります」とクイン氏は語っていました。
余談ながらXML技術を極めたクイン氏に「XML技術を習得するには?」とアドバイスを求めると「何か仕事で使ってみること」と実践で覚えることを勧められました。ツールを使わずに試してみる経験も重要だそうです。「特にXSLTをお勧めします。これはW3Cが開発した中でも最高傑作のうちに入りますから。自分のWebページで試してみれば効果が明確だし、きっとやる気にもつながるのではないかな」と話していました。
■4〜5月の勧告、勧告案、勧告候補
それではW3Cの動向を見ていきましょう。勧告はなし、勧告案は5月に2本、勧告候補は4月に2本と5月に1本ありました。
PKI使用のためのXKMS 2.0の2本は4月に勧告候補、翌月には勧告案へと足早に進展しました。加えてSMIL 2.1が勧告候補へと昇格しました。
- 【勧告案】XML Key Management Specification (XKMS 2.0)(5月2日発表、レビュー終了6月3日)
- 【勧告案】XML
Key Management Specification (XKMS 2.0) Bindings(5月2日発表、レビュー終了6月3日)
- 【勧告候補】Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL 2.1)(5月13日発表、フィードバック期限6月15日)
■4〜5月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが4月に8本と5月に1本で合わせて9本、ラストコールなしが4月に15本と5月に10本で合わせて25本、トータルで34本ありました。
ラストコール付きではまずXQuery、XPath、XSLT 2.0に関連する7本が一挙に4月4日に更新されました。ただし一部はさらに6月冒頭に再度更新されています。先のクイン氏もこれらの完成が近いことを話していました。ほかはSVG 1.2とDISelect 1.0です。
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Data Model(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Functions and Operators(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- XML Path Language (XPath) 2.0(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- XQuery 1.0: An XML Query Language(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- XML Syntax for XQuery 1.0 (XQueryX)(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- XSLT 2.0 and XQuery 1.0 Serialization(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- XSL Transformations (XSLT) Version 2.0(4月4日発表、ラストコール5月13日)
- Scalable Vector Graphics (SVG) Tiny 1.2 Specification(4月13日発表、ラストコール5月20日)
- Content Selection for Device Independence (DISelect) 1.0(5月2日発表、ラストコール6月3日)
ラストコールなしでは、25本のうち初登場が8本ありました。分野問わず、幅広く更新されています。
- New Building a Tokenizer for XPath or XQuery(4月4日発表)
- Compound Document by Reference Use Cases and Requirements Version 1.0(4月4日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Full-Text Use Cases(4月4日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Full-Text(4月4日発表)
- XQuery 1.0 and XPath 2.0 Formal Semantics(4月4日発表)
- XML Query Use Cases(4月4日発表)
- SVG's XML Binding Language (sXBL)(4月5日発表)
- Scalable Vector Graphics (SVG) Full 1.2 Specification(4月13日発表)
- Web Services Addressing 1.0 - WSDL Binding(4月13日発表)
- SPARQL Query Language for RDF(4月19日発表)
- New Multimodal Architecture and Interfaces(4月22日発表)
- New XML Schema Datatypes in RDF and OWL(4月27日発表)
- New XML Linking Language (XLink) Version 1.1(4月28日発表)
- QA Framework: Specification Guidelines(4月28日発表)
- Variability in Specifications(4月28日発表)
- New SKOS Core Guide(5月10日発表)
- New SKOS Core Vocabulary Specification(5月10日発表)
- New Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 SOAP 1.1 Binding(5月10日発表)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 0: Primer(5月10日発表)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 1: Core Language(5月10日発表)
- Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 2: Adjuncts(5月10日発表)
- New Quick Guide to Publishing a Thesaurus on the Semantic Web(5月17日発表)
- XHTML 2.0(5月27日発表)
- SPARQL Query Results XML Format(5月27日発表)
- SPARQL Protocol for RDF(5月27日発表)
ノートは4月に1本、5月に3本ありました。
- Representing Classes As Property Values on the Semantic Web(4月5日発表)
- Describing Media Content of Binary Data in XML(5月4日発表)
- New Processing XML 1.1 documents with XML Schema 1.0 processors(5月11日発表)
- Representing
Specified Values in OWL: "value partitions" and "value
sets"(5月17日発表)
■OpenDocument、DITAがOASIS標準に
OASISでも標準が次々と生まれています。オフィス・アプリケーション用のファイル形式の仕様を提供するOpenDocument、可読性のある情報を個別のタイプ別テーマとして著作、制作、配信するためのアーキテクチャとなるDITA、この2つが標準となりました。
- OpenDocument(5月1日)
- DITA(6月1日)
また5月24日にアムステルダムで開催された「OASIS Open Standards Day」で使われたプレゼンテーションが公開されました。イベントに出席してもしなくても、こうして後から講演内容が確認できるのはとても便利です。
WWW2005で来日したリアム氏に日本のIT名所アキバは訪問したかと聞くと「ええ」と笑っていました。ではまた再来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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