W3C/XML Watch - 2月版
XMLマスター資格試験が6月にリニューアル
加山恵美2005/2/16
ここ数年の傾向を見ると、年末年始に勧告が量産されることが多いようです。この年末年始には6本の勧告発表がありました。あらためて2004年を振り返ると、25本が勧告として完成しました。今年はどれだけの勧告が登場し、どんな技術文書が発表されるのでしょうか。
■2004年12月〜2005年1月の勧告、勧告案、勧告候補
それではW3Cの動向から見ていきましょう。2004年12月には勧告が2本、2005年1月には勧告が4本ありました。勧告案、勧告候補はありませんでした。
勧告になったのは、WWW(World Wide Web)のアーキテクチャ、XInclude 1.0、SMIL 2.0(第2版)、SOAPメッセージ伝送最適化メカニズム、リソース表示SOAPヘッダブロック、XMLバイナリ最適化パッケージングです。XInclude 1.0を除き、すべて2004年11月に勧告案に昇格していました(前回記事を参照)。
- 【勧告】Architecture of the World Wide Web, Volume One(2004年12月15日発表)
- 【勧告】XML Inclusions (XInclude) Version 1.0(2004年12月20日発表)
- 【勧告】Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL 2.0) - [Second Edition](2005年1月7日発表)
- 【勧告】SOAP Message Transmission Optimization Mechanism(2005年1月25日発表)
- 【勧告】Resource Representation SOAP Header Block(2005年1月25日発表)
- 【勧告】XML-binary Optimized Packaging(2005年1月25日発表)
■2004年12月〜2005年1月のドラフトとノート
ドラフトはラストコール付きが2004年12月と2005年1月に1本ずつで合わせて2本、ラストコールなしが2004年12月に8本と2005年1月に3本で合わせて11本、トータルで13本発表されました。Webサービス関係やセマンティックWeb関係が目立ちます。
ラストコール付きになったのは、Webサービス振り付け記述言語(WS-CDL)1.0とCCXML 1.0です。前者はXMLをベースにしたピアツーピアの連携を定義するための言語です。後者は音声ブラウザの呼び出し制御です。
- Web Services Choreography Description Language Version 1.0(2004年12月17日発表、ラストコール2005年1月31日)
- Voice Browser Call Control: CCXML Version 1.0(2005年1月11日発表、ラストコール2005年1月31日)
ラストコールなしドラフトは新出が多くありました。2004年12月から見ていくと、まずWebサービスアドレッシングについて新作が3本ありました。コア、SOAPバインディング、それからWSDLバインディングです。次にマルチモーダルのEMMA、CSS3はスピーチモジュール、XSL 1.1が更新されました。それからSPARQL可変バインディング結果XMLフォーマット、WSDL 2.0 パート0:入門です。前者はRDFのクエリ言語SPARQLによってもたらされたバインディング結果のXMLフォーマットについてです。後者はWSDL 2.0の入門編です。WSDLはパート1から3まであり、2003年11月に1.2から2.0になりました。今回は入門編ということでパート0が新規追加されたようです。
- New Web Services Addressing - Core(2004年12月8日発表)
- New Web Services Addressing - SOAP Binding(2004年12月8日発表)
- New Web Services Addressing - WSDL Binding(2004年12月8日発表)
- EMMA: Extensible MultiModal Annotation markup language(2004年12月14日発表)
- CSS3 Speech Module(2004年12月16日発表)
- Extensible Stylesheet Language (XSL) Version 1.1(2004年12月16日発表)
- New SPARQL Variable Binding Results XML Format(2004年12月21日発表)
- New Web Services Description Language (WSDL) Version 2.0 Part 0: Primer(2004年12月21日発表)
今年最初に発表された技術文書となったのが、P3P 1.1 仕様です。新年早々の1月4日に更新されています。次にRDF用のSPARQLプロトコルが新登場です。それからデバイス非依存の用語集が約1年半ぶりに更新されました。
- The Platform for Privacy Preferences 1.1 (P3P1.1) Specification(2005年1月4日発表)
- New SPARQL Protocol for RDF(2005年1月14日発表)
- Glossary of Terms for Device Independence(2005年1月18日発表)
ノートは2005年1月に2本ありました。デバイス非依存とXLink 1.0についてです。
- Delivery Context Overview for Device Independence(2005年1月18日発表)
- Extending XLink 1.0(2005年1月27日発表)
■2004年の技術文書公表数
あらためて2004年に発表された技術文書を振り返ってみます。昨年は延べ186もの技術文書の発表がありました。特に活発だったのが2月、7月、11月ごろです。2月はXML 1.0 第3版はじめ基本仕様の改訂に加え、RDFとOWLで大量に勧告発表がありました。また7月ごろはSOAPやXQuery関係のドラフトが多く発表されました。これらが再び更新されたこともあり、11月近辺も更新が多くありました。
勧告 | 勧告案 | 勧告候補 | ドラフト | ノート | 月合計 | |
1月 | 2 | 0 | 1 | 0 | 2 | 5 |
2月 | 16 | 3 | 3 | 13 | 9 | 44 |
3月 | 2 | 3 | 0 | 9 | 0 | 14 |
4月 | 2 | 0 | 3 | 5 | 2 | 12 |
5月 | 0 | 0 | 1 | 6 | 1 | 8 |
6月 | 0 | 0 | 0 | 7 | 3 | 10 |
7月 | 0 | 1 | 0 | 23 | 1 | 25 |
8月 | 0 | 0 | 3 | 10 | 1 | 14 |
9月 | 1 | 1 | 0 | 3 | 0 | 5 |
10月 | 0 | 0 | 0 | 12 | 0 | 12 |
11月 | 0 | 6 | 1 | 17 | 2 | 26 |
12月 | 2 | 0 | 0 | 9 | 0 | 11 |
合計 | 25 | 14 | 12 | 114 | 21 | 186 |
表 2004年のW3C文書更新数 (注:勧告案には編集済み勧告案を含める) |
ここ数年で比較すると2004年は更新された文書数は減りましたが、RDFとOWLで稼いだこともあり勧告の数は例年にないほど多くありました。ただ2004年1月号で2004年は「少なくとも2003年の倍はいく」と予想したにもかかわらず、倍増には少し足りなかったのは予想が甘かったと反省しています。
図 W3C勧告の発表数推移 |
それでも果敢に今年の予想を試みてみます。現在勧告に近いものを数えると、勧告案が1本、勧告候補が17本、ラストコール付きドラフトが19本です。すべて今年中に勧告になるとは限りませんので、今年の勧告は昨年並かそれをやや下回る可能性もあるのではないかと予想できます。もしCSS3関連が一気に進展すれば勧告の数に影響を与えそうです。今年活発に動きそうな分野は、WebサービスやセマンティックWebを中心に、音声ブラウザ、デバイス非依存、国際化などが期待できます。
■XMLコンソーシアムDAY
1月13日から2日間、「XMLコンソーシアム Day」が開催され、2004年度のXMLコンソーシアム活動や最新ニュースなどが報告されました。
ビジネスイノベーション(BI)部会・SOA部会
BI部会はビジネスを経営的モデルで考え、SOA部会は技術的手法で実現を考えています。両部会はアプローチが対称的で、焦点にやや差がありますが、共同でビジネス全体を考察しようとしています。ベンダとユーザーの企業が一堂に会し、ビジネスプロセスを分析したりベストプラクティスを編み出しています。
TravelXML
XMLコンソーシアムが制定したXML標準であるTravelXMLは、現在1.2を最終調整しているところです。いまやTravelXMLはコンソーシアムを巣立ち、2004年末から宿泊予約サイト「じゃらんnet」で実稼働しているシステムで利用されるようになっています。
セキュリティ部会
OASISのWS-Securityの翻訳などを通じてセキュリティ技術の動向や調査を行っています。
Webサービス実証部会
昨年はTravelXMLの実証デモなどを実施しました。現在は愛知万博に向けて、道路交通情報を活用したWebサービスを実証する準備をしています。
写真 Webサービス実証部会で講演する東京エレクトロン株式会社 松永豊氏 |
メタデータ活用部会
ブログを中心にメタデータの活用を徹底的に研究しています。携帯機器も活用し、ネットを介したコミュニケーションを考えています。
ユビキタス・組み込み系部会
携帯電話を中心として、ユビキタスの法律や技術実装を考察しています。例えば個人情報にしても、位置情報の活用からコンプライアンスまで守備範囲は広範にわたります。
なんといっても、XMLコンソーシアムのだいご味は参加することです。実証実験が特にそうですが、社外との交流で人脈を広げたり、また共同開発で苦戦しながらも達成した喜びを分かち合う会員はとてもいい表情をしています。後から公表された成果物をただ閲覧するよりは、一緒に参加して業務とは違ったメンバーと一緒に悩み考えて理解を深めた方が得るものは大きいでしょう。昨年からは個人事業主や学生にも会員枠を広げ、今後の活動規模は拡大し多彩なものになりそうです。
■XMLマスターV2 2005年6月開始
XMLマスターがバージョンアップすることになりました。今年6月から新試験に切り替わります。バージョンアップといっても、これまでの資格が失効するとか再試験を要することはありません。また認定証やロゴのフォーマットも特に変更はありません。試験開始から3年が過ぎ、陳腐化しないように見直しが加えられたと考えていいでしょう。
変更はベーシック、プロフェッショナルともに出題数や試験範囲にあります。とはいってもベーシックの試験範囲は従来と大差なく、プロフェッショナルにやや違いがあるようです。試験時間や合格基準は変更なしです。プロフェッショナル試験準備中なら切り替わる前に取った方がいいかもしれません。XMLマスターのWebサイトにはサンプル問題もありますので、興味があればちょっと腕試しをして、手応えを探るのもいいでしょう。
なおXMLマスター資格取得者1万人突破と試験のバージョンアップを記念し、XMLマスターDAY 2005が2月18日に開催されます。
ではまた再来月、お会いしましょう。
■バックナンバー
2001年
・ 7月版 「XMLBase、XML Linkが勧告に」
・ 8月版 「リファレンスブラウザAmaya 5.1が登場したけれど」
・ 9月版 「MITが停電! そしてマルチメディア言語SMIL」
・ 10月版 「XMLの改定仕様はブルーベリー」
・ 11月版 「W3C Dayが待ち遠しい」
・ 12月版 「慶應大学で次世代Webに触れる」
2002年
・ 1月版 「XML 1.1、XSLT 2.0のドラフトついに登場!」
・ 2月版 「Webサービスアクティビティが発足」
・ 3月版 「XMLが4歳の誕生日を迎えました」
・ 4月版 「XMLを作った人たちが殿堂入りの栄誉!」
・ 5月版 「P3Pが勧告、そして怒とうの文書公開」
・ 6月版 「XML文書の正規化新仕様と、W3Cインタロップツアー」
・ 7月版 「SOAP 1.2のドラフトが発表」
・ 8月版 「4つのXPointerのドラフト、WSDL 1.2も登場」
・ 9月版 「ロゼッタネットとUCCが合併、XMLマスターに上級資格」
・ 10月版 「具体的な技術論へ移るセマンティックWeb」
・ 11月版 「XML 1.1が勧告候補、特許問題はついに決着か」
・ 12月版 「DOM2関連がもうすぐ完結、Webアーキテクチャも登場」
2003年
・ 1月版 「この1年でW3C勧告になったのは7つの仕様」
・ 2月版 「Webサービスの『振り付けグループ』が発足」
・ 3月版 「旅行業界がXML化へ、MSからは『InfoPath』が登場」
・ 4月版 「混迷の続くXPointerはついに落着?」
・ 5月版 「Webサービスの実験成功。WS-Iからは互換性ツール」
・ 6月版 「あいまいな部分を排除したSOAP 1.2、PNGはISO標準へ」
・ 7月版 「MITのW3Cオフィスはもうすぐ引っ越し、国連がebXMLを承認」
・ 8月版 「Webサービスが日本のAmazonからも利用可能に」
・ 9月版 「IEの特許侵害判決でW3Cが緊急会合」
・ 10月版 「IEの特許侵害判決がWebに与える影響は?」
・ 11月版 「IE特許問題で、W3Cが米国特許庁へ再審査を請求」
・ 12月版 「OfficeのXMLスキーマ公開、XML 1.1は勧告間近」
2004年
・ 1月版 「セマンティックWebに向けた動きが活発に」
・ 2月版 「日本人による標準技術発信が進むOASIS」
・ 3月版 「ついにXML 1.1が勧告へ、影響を受けるのは?」
・ 4月版 「XML Schema、3年ぶりの改訂が迫る」
・ 5月版 「Webサービス・セキュリティ v1.0、待望のOASIS標準に」
・ 6月版 「TravelXMLのWebサービス実証実験デモが成功」
・ 8月版 「SOAPメッセージ最適化をめぐる仕様が活発化」
・ 10月版 「W3Cの設立10周年を祝う記念祝賀イベント開催」
・ 12月版 「年の瀬に、WebとW3Cの功績に思いを馳せる」
2005年
・ 2月版 「XMLマスター資格試験が6月にリニューアル」
・ 4月版 「WS-Security 2004の日本語訳をXMLコンソーシアムが公開」
・ 6月版 「“愛・地球博”でビュンビュンWebサービス」
・ 8月版 「XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格」
・ 10月版 「QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格」
- QAフレームワーク:仕様ガイドラインが勧告に昇格 (2005/10/21)
データベースの急速なXML対応に後押しされてか、9月に入って「XQuery」や「XPath」に関係したドラフトが一気に11本も更新された - XML勧告を記述するXMLspecとは何か (2005/10/12)
「XML 1.0勧告」はXMLspec DTDで記述され、XSLTによって生成されている。これはXMLが本当に役立っている具体的な証である - 文字符号化方式にまつわるジレンマ (2005/9/13)
文字符号化方式(UTF-8、シフトJISなど)を自動検出するには、ニワトリと卵の関係にあるジレンマを解消する仕組みが必要となる - XMLキー管理仕様(XKMS 2.0)が勧告に昇格 (2005/8/16)
セキュリティ関連のXML仕様に進展あり。また、日本発の新しいXMLソフトウェアアーキテクチャ「xfy technology」の詳細も紹介する
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