Sencha Touchの日本国内における代理店Ext Japanの代表、直鳥裕樹さんはSencha Touch2の紹介とライブコーディングを行いました。Sencha Touchは、jQuery MobileのようにHTML5をベースにしたフレームワークです。サンプルとして用意されたアプリは挙動やUIのデザインが非常に洗練されており、人気のフレームワークです。
ライブコーディングを見ると、記述はJavaScriptのためプログラミングを知らないデザイナーには少し難しそうです。しかし、ビジュアル豊かな開発環境が整ってきています。
以下、直鳥さんの発言の要約です。
実は、HTML5とか勉強会で、2年ほど前にお話させていただきました。当時はSenchaの人間が「End of Native」というプラカードをWWDCの会場で掲げて「ネイティブの時代は終わるぞ」と言っていたわけですが、2年経って終わったかというとまったく終わってないわけですね(笑)。終わりの始まりが来ているのかどうか分かりませんが、Sencha Touchは世に出て2年となります。
Sencha Touch 2が今年出ました。ほぼ完全にスクラッチから作り直したもので、パフォーマンスが大幅に改善されています。特にAndroidでの改善が顕著です。Sencha Architectという開発環境により、開発の効率がかなり向上しました。ネイティブAPIの提供やネイティブアプリとしてパッケージングも可能です。
jQuery Mobileと違い、WebKitに特化したHTML5フレームワークとなっており、FirefoxやOpera、Windows Phoneなどでは現在は動きません。現在サポートしているのはAndroid2.2/2.3/4.xとiOSです。ライセンスは無償の商用ライセンスとGPLです。無償で提供しているので、皆さん使ってください。
Sencha Touch App Galleryでは、Sencha Touchで作られたWebアプリケーションや、iOSアプリやAndroidアプリとしてラッピングされたものが、約200ほど紹介されています。
最近、MVCでアプリケーションを作るJavaScriptフレームワークが話題です。Sencha Touch2もSencha Architect2というビジュアル開発環境があり、一通りのことができます。有償版で30日間の試用期間があります。また、ベータ版ですが、Sencha SDK Toolsというコマンドラインツールを無料で提供しています。プロジェクトをビルドしてくれたり、ネイティブアプリにパッケージングしてくれたりします。
Sencha Touchの用途は、主にお堅い業務アプリですね。Sencha Touch App Galleryを見るとやわらかいものも見られますが。パソコン上で使っていたアプリを外に持ち出すために、iPadやiPhone、Androidの端末上で見られるようにしたいという用途です。そしてチームでそれを開発するために、使い古されたMVCというアーキテクチャで開発したい、そういった要求にSencha Touchは応え、Sencha Architect2という開発環境が作られました。このようにjQuery Mobileとは違った進化をしてきました。よく比較されますが、競合はせず、ユーザーの住み分けもできていると思います。
HTML5とか勉強会スタッフでミクシィの井原雄太郎さんはDojo mobileというフレームワークの紹介をしました。Dojo mobileは大規模なJavaScriptフレームワークとライブラリ群を持つDojo Toolkitの拡張版でコンポーネントを提供します。Dojo mobileで作られたボタンやスイッチなどのUIは、ネイティブアプリと見間違えるほど似ていて、よくできています。対応OSはiOS、Android、BlackBerryです。
「ライブコーディングは緊張するからできない」という井原さんは、コードのキャプチャ画像や既存のコードを見せながら、コーディングの仕方を解説しました。ときおり「実はこのフレームワークあまり好きじゃないです……」などと本音を漏らし、井原さんのプレゼンに会場は終始笑いで包まれていました。Dojo mobileのUIは以下のサイトで直接見られます。iOSのUIにそっくりなルック&フィールを実現しています。
html5j.orgの管理人で、シーエー・モバイルのWeb先端技術フェローの白石俊平さんはKendo UI Mobile、jqUi、app-UIの3つのフレームワークを紹介しました。Kendo UI Mobileの売りはワンソースで各プラットフォーム固有のUIを実現してくれます。jqUiはサイズが小さく、UIが特徴的で独自色が強いです。Kendo UI MobileとjqUiのコーディングの仕方は「jQuery Mobileが分かっていれば一瞬で理解可能」とのことです。app-UIは横にスライディングすることに特化したマイクロフレームワークです。
今後のUIフレームワークは、jQuery Mobileのような「フルスタック型」とapp-UIのような「用途特化型のライブラリ」に分かれていくのではないか、と白石さんは推測しています。納期重視ならフルスタック型を選択するのが最適です。クリエイティブ重視ならオリジナルUIとライブラリを組み合わせて制作するというように今後なっていくのかもしれません。
最後は、セッションを行った4名とモデレータの小松健作さんによる座談会が行われました。セッションでは語れなかった現場の生の声や「ぶっちゃけ、クリエイティブなサイトを作る時にjQuery Mobile使う?」「実際、動き遅いでしょ?」などフレームワークに対する本音が多く聞けました。
フレームワークのユーザー層の変化について、Sencha Touchの直鳥さんは「特に今年に入ってからキャリアさんから問い合わせをいただくことがあります。Androidの呪縛というか、フラグメンテーション問題でキャリアも開発者も疲弊している現状があるようです。そこでHTML5が起死回生のソリューションになるのではと、熱心にリサーチをされているようです」と述べました。
吉川さんは「HTML5に非常に期待をしている人が多いです。HTML5を使いWebアプリケーションを作りたい、しかしHTML5のスキルがある人はまだ少ないし、スクラッチでは厳しい。そこでフレームワークのjQuery MobileやSencha Touchが注目されているという現状があります」と語りました。
総合開発環境(IDE)について、直鳥さんはSencha Architect2の説明をしました。吉川さんは、「AdobeがjQuery Mobileを支援していることもあって、IDEとしてAdobe Dreamweaver CS6を使いjQuery Mobileのサイトが構築できます。PhoneGapもサポートしているのでネイティブアプリとしてそのまま書き出すこともできます」と述べました。
白石さんは、「フレームワークはデザインにフレームを着せてしまう」ことに言及し、フレームワークがクリエイティビティを抑え込んでしまい、業務アプリのようにしか見えなくなってしまう現状についてどう思うかを、座談会のメンバーに問い掛けました。吉川さんは「jQuery Mobileはデザインにこだわらないサイトはコストをかけず簡単に作れます。現状はデフォルトのUIを押し付けられているような状況ですが、今後はユーザーがデザインをカスタマイズできるようになっていくと思う」と述べました。
他には、パフォーマンスの問題やデバイス固有のUIへの対応、レスポンシブWebデザインの実現についてなどの話を聞くことができました。
勉強会の後には懇親会が開かれました。30回記念ということもあり、豪華な食事が振る舞われ、一瞬で参加者は「Googleさん大好き!」(筆者だけ?)となったのではないでしょうか。特に参加者が感動し、写真撮影の的になったのがHTML5寿司でした。セッションを行ったスピーカーと参加者が、垣根なく気軽に交流している様子が印象的でした。
HTML5とか勉強会は定期的に開催されています。勉強会の告知はGoogleグループのメーリングリストで行われます。勉強会に興味があれば「html5j.org - Google グループ」からグループに参加してみてください。
ねこポッポ代表猫締役
佐藤翔
猫の絵のTシャツやWebサイトを作っています。cocos2dという2Dゲームエンジンでスパイ猫ゲーム『タマクルーズ』を制作中ですが、完成の着地点が見えなくなって途方に暮れています。
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