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一家に1つのレイヤ2ネットワークの時代はやってくるかものになるモノ、ならないモノ(6)(2/2 ページ)

「社内ブログ」「1ギガ」「D-Cubic」「Zigbee」「IPv6ブロードキャスト映像配信」に続き、今回は、2年前、衝撃のデビューを飾った仮想レイヤ2ネットワークにスポットをあてる。企業導入が進むレイヤ2ネットワークの実情を見てみよう。 仮想レイヤ2で“内側”を拡張する家の将来像とはどういうものか。IIJとSoftEtherCAに聞いた(編集部)

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DTP作業用AppleTalkを通す出版社

 仮想レイヤ2ネットワーク製品は、SoftEtherだけではない。IIJでは、L2TPを利用した同様のSMFインターネットVPNソリューションというサービスを販売している。このシステムを、広域イーサネットのバックアップ用として導入したある出版社では、「単純に広域イーサ網を二重化する場合と比較して月額コストを約10分の1に抑える」(IIJのニュースリリースより)ことに成功している。

 ただ、何も広域イーサで二重化しなくても、レイヤ3VPNならもっと安価に済ませられると思うのだが、この例の場合、出版社というだけあり、都内に点在した拠点を結ぶネットワークにDTP作業で利用するAppleTalkを通す必要がある。やはりここでも、先ほどのFNAと同様に非IPプロトコルをネット経由で通すために、仮想レイヤ2で“内側”を拡張していることになる。

図3 「月額コストを約10分の1に抑えた」という出版社の基幹系の冗長化構成
図3 「月額コストを約10分の1に抑えた」という出版社の基幹系の冗長化構成

クライアントソフト不要なIIJのサービスも

 ただし、この例の場合L2TPを利用してメイン回線のバックアップとしているだけあり、SoftEtherとは違った特徴がある。「L2TPを話し、冗長化プロトコルを実装するルータを導入するだけで拠点間を仮想LANで結ぶことができるので、各クライアントには何もインストールする必要がない」(IIJ・SEIL事業部事業推進課・宮崎陽平氏)そうだ。極端な話、ルータを入れ替えるだけでこのような事例を構築することが可能となるわけだ。

トンネリングでも速度は6〜8割程度

IIJ(写真左から)SEIL事業部事業推進課・宮崎陽平氏、営業第2部・高柳淳彦氏、SEIL事業部製品開発部研究開発課・齋藤透氏
IIJ(写真左から)SEIL事業部事業推進課・宮崎陽平氏、営業第2部・高柳淳彦氏、SEIL事業部製品開発部研究開発課・齋藤透氏

 仮想レイヤ2というとパケットを幾重にも包み込むトンネル技術を使っているだけに、速度面を心配する人もいるだろう。だが、IIJの例では、「L2TPはほとんど負荷が掛からないので、速度低下の心配は不要」(IIJ・SEIL事業部製品開発部研究開発課・齋藤透氏)と胸を張る。

 一方、SoftEtherCAの方も、速度低下が少ないのが特徴で「実回線速度の6〜8割程度は出る」(三菱マテリアル・牧氏)という。

 まさに、企業ネットワークでは、それを必要とされるところで大活躍の仮想レイヤ2だが、この技術の真価が試されるのは、実は近未来の一般家庭なのではなかろうか。というのは、デジタル家電などの普及が期待されている中で、それを阻害する大きな不安要因に「ルータ問題」がある。

ADSLモデムで、自動的に機器設定が完了する仕組みへの可能性

 一般ユーザーでは、設定などが難しい家庭内ルータが大きな障壁となって、ネットワーク家電本来の能力をフルに発揮できない可能性があるからだ。筆者は、自宅でネットワークカメラ、VODサービスのSTB、ネットワーク対応HDDレコーダなどを使っているが、それらを設置する際、常にルータという存在を強く意識する必要があった。

 筆者のような仕事をしていれば、取扱説明書に、「ルータ」「DHCP」「IPマスカレード」「DMZ」などという用語が出てきても、一応は読み、理解することができる。しかし、一般ユーザーはそうはいかない。「ADSLの機器はあるけどルータって何?」といった感じの受け取り方をする人も多いだろう。そうなると、デジタル家電のせっかくのネットワーク機能も使われないままになる可能性もある。

ルータ不要で本命の狙いは家庭ネットワーク

 しかし、メーカーやサービスを提供する側で、仮想レイヤ2のネットワーク機能をあらかじめ機器に搭載しそれに対応したサーバ等をネットワーク側に用意しておけば、ユーザーは、機器設置の際、ADSLモデムや光終端装置から伸びたLANケーブルを差し込むだけで、自動的に機器の登録や設定といった作業が完了する仕組みを提供することも可能だろう。

 つまり、サービス提供事業者からすると、ユーザーをすべて“内側”のネットワークに接続させて“身内”にしてしまうことで各種の運用管理を行い、ユーザーにはネットワークというものを意識させないで高度なサービスを提供することだってできると思うのだ。

 現在は企業ネットワークでの利用が主な仮想レイヤ2だが、5年後はもしかしたら“一家に1つのレイヤ2”の時代がやって来ているかもしれない。

著者紹介

著者の山崎潤一郎氏は、テクノロジ系にとどまらず、株式、書評、エッセイなど広範囲なフィールドで活躍。独自の着眼点と取材を中心に構成された文章には定評がある。


INDEX

一家に1つのレイヤ2ネットワークの時代

Page1<レイヤ2は身内を結ぶためのもの>
2年前、衝撃のデビューを飾った仮想レイヤ2ネットワーク/メインフレームを遠隔地に結ぶ/東京農工大学の社会人向け学習の手段として

Page2<DTP作業用AppleTalkを通す出版社>
クライアントソフト不要なIIJのサービスも/トンネリングでも速度は6〜8割程度/ADSLモデムで、自動的に機器設定が完了する仕組みへの可能性/ルータ不要で本命の狙いは家庭ネットワーク


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