無料各種サービスが豊富だが、中小企業が置いてきぼりを食うのがWeb2.0の実態だとするホスティング業者の老舗、GMOの指摘とは?
「Googleアプリ独自ドメイン向け」(Google Apps for Your Domain)を見たときに思った。「ああ、Googleはホスティング事業者にも喧嘩を売ったな」と。
Googleアプリのメニューに組み込まれているGmailの使いやすさは今更特筆する必要はないし、「Google トーク」「Google カレンダー」「Google Page Creator」なんてものがそろっていて、それらが独自ドメインで無料で運用できるとなると、個人ユーザーやスモールビジネスユーザーレベルでは、ほかの有料ホスティングを使う理由は思い当たらない。おまけに、つい最近メール容量が1アカウント当たり2GBのものが、10GBに拡張されてしまったものだから、ますますもって、Googleアプリが光って見える。まあ、そこら中でWeb 1.0な秩序を引っかき回してきた会社だから今更驚くこともないが……。
それに、1ユーザーアカウントあたり年額6300円の「Google Apps Premier Edition(参照記事:1アカウント1年で6300円、グーグル、SaaSでメールやオフィスを国内向けに提供−@IT NewsInsight)」ともなると、ワープロ&表計算、独自のスタートページ、拡張APIなんてものまで用意されていて、リアル世界での商売が中心でネットを業務支援や商品プロモーションのツールとして利用している中小企業ユーザーなら十分使用に耐えるのではなかろうか。それに、最近はドメイン登録企業と提携して、「Google Apps for Your Domain」内からでも独自ドメインの登録と購入が可能になったようだ。
いまはまだ、Webページ作成のGoogle Page Creatorを除いたら、あくまでも組織内での利用を想定したサービスだが、最近のホスティングサービスで必須とされる、ブログ作成ツール、コミュニティサイト作成ツール、ショッピングサイト作成ツール、動画ストリーミングなどの人気のアプリを追加してきた日には、Webビジネスを行う企業に向けたサービスとして十分に成り立ちそうな予感がする。
そういえば、上記のホスティングサービスに求められるアプリ群だが「Blogger」「Google Groups」「Google Checkout」「Google Video&YouTube」と、いつでも出動準備オッケーの状態でスタンバっている。これらに加えて、その気になれば、アクセス解析、地図表示、携帯電話向け各種サービス、検索、翻訳機能など、旬なアプリ群もしっかりとそろっているわけだからGoogleは恐ろしい。
Googleとしては、ゆくゆくは、Google Apps for Your Domain上で、特別な技術的知識なしに、サービス内にユーザーが開設したWebサイト上で、それらアプリを簡単な操作で利用できる仕組みを提供するつもりなのだろう。
企業のサイト運営者が、それらアプリをドラッグ&ドロップ感覚で追加したり、削除したりしながら自社サイトを構築してゆく時代がやって来るのだろうか。Google Page CreatorのAjaxなインターフェイスやGoogle Personalized Homepageのガジェット配置を経験した者ならそんな想像もまったくとっぴではない。
おっと、そういえば、マイクロソフトも「Microsoft Office Live」(有料)でGoogle Appsと同じようなサービスを提供している(Google Apps注目の一方で無料ドメインにメール、「Microsoft Office Live」を忘れていないか−@IT NewsInsight)。ちなみに、こちらはドメイン登録が無料でついてくる。双方とも中小企業をターゲットにしているだけに、やっぱりホスティング事業者に喧嘩を売っているとしか思えない。
そうなると浮上するのが、ホスティング事業者危機説。それはいくらなんでもまずいでしょ、というわけで、大手ホスティング事業者のラピッドサイトに行って話を聞いた。対応してくれたのは、GMOホスティング&セキュリティ・ラピッドサイト事業本部長兼商品企画部長の大澤貴行氏。
ラピッドサイトでは、個人向けの共用サーバから企業向け専用サーバまで、各種サイト規模向けに全方位でホスティングサービスを提供している。今回注目したのは、メニューの中にある「仮想専用サーバ」(VPS:Virtual private server)というサービス。
@ITの読者なら、VPSを今更説明する必要はないと思うが、専用サーバ並みのカスタマイズ性と性能を、煩雑なサーバ管理なしで安価に利用できるサービスとして人気がある。共用と専用のギャップを埋めるメニューとして、サイト規模や提供サービスが拡大した共用からの乗り換えユーザーや、複数ドメインでの運用を望むユーザーが利用している。
ラピッドサイトでは、共用とVPSで、多くの中小規模の企業ユーザーを抱えているだけに、「Googleアプリ独自ドメイン向け」サービスにさぞや危機感を抱いているかと思いきや「まったく問題ではない」(大澤氏)と意に介さない様子。
ちょっと拍子抜けしてしまったのだが、その理由をよくよく聞いてみるとなるほどと感じる。実は、ラピッドサイトの場合、解約の多くは、ほかのサービスへの乗り換えというよりも、サイトそのものを閉鎖してしまうのだという。そして、そうした事業者がこのところ急増しているそうだ。「恐ろしい勢いで中小企業がネットビジネスから脱落している」(大澤氏)と顔を曇らせる。
その理由を、「中小企業にとっていまのネットは難し過ぎてついていけない」(大澤氏)と落胆したように語る。Web 1.0時代であれば、サイトを開いて、メルマガを発行して、時々バナー広告を出して、といった典型的なネットプロモーションを展開していれば、なんとかビジネスとして形は整っていた。
だが、最近は、SEO、RSS、ブログ、クチコミマーケティング、キーワード広告など、年を追うたびにやらなければならないことが増えてきた。だからといって、リアル世界での活動に重きを置く中小企業にとって、それだけのコストアップに見合うだけの収益増がネットから得られるのかというと、それも怪しい。
特に大変なのは、担当者への負担増。中小企業の場合、ネットに専従できる人員を割ける例はまれで、大抵はリアル業務と掛け持ちになる。ネット業務が増えると当然担当への負荷が増加する。SEO、RSSといった新しいネットプロモーション対応を始めたからといって、メルマガなど従来型のプロモーション活動を停止するわけにはいかない。
Web 2.0時代になって、個人ユーザーは確かに元気が出た。1000万人がブログを書き、キーワード広告やアフィリエイトで、結構な額のお小遣い稼ぎをしている人もいる。また、大企業は資金力や人員力にモノをいわせWeb 2.0にぐいぐいと対応してくる。Web 2.0時代は、「中小企業が置いてきぼりを食う中抜きの時代」(大澤氏)だと憤る。
そんな時代であればこそ、中小企業ユーザーをたくさん抱えるラピッドサイトの使命は「歌舞伎町を一緒に歩いてあげること」(大澤氏)と力説する。「歌舞伎町」というのはいまのネットを比喩した大澤氏一流の言い回し。外の人間が歌舞伎町に抱くイメージは、「ちょっとコワイところ」といったものがあるが、中小企業にとっていまのネットはまさにそれなのだ。
ラピッドサイトとしては、「きめの細かい対応でそんな企業の不安を取り除くこと」であり、「システムの提供だけを行うGoogleにそれができるとは思わない」(大澤氏)と胸を張る。それが、最初の「まったく問題ではない」発言につながるわけだが、まあ、確かに、すべてをテクノロジーで解決するGoogleくらい「キメの細かなサポート」という言葉が似つかわしくない企業もほかにはない。
筆者自身もときどき反省するのだが、このようなIT系のライターをしていると、ビジネスでネットを活用しようという考えがあるなら、Googleの各種サービスは使えて当たり前でしょ、くらいに思っている自分がいる。そんな筆者の考えは、一般のオジサンたちからすると、傲慢な単なるネットかぶれ野郎のそれにすぎないのだろう。
実は、筆者自身ライター業のほかに音楽制作業という本職(?)を持っているのだが、零細企業のこちらはビジネスのネット対応なんて夢のまた夢。リアルな世界でのコンテンツ作りと営業に奔走するのが精いっぱいで、ネットなどにウツツを抜かしているヒマはない。
最近は、リアルなパッケージ型ビジネスだけでなく、iTunes Storeにも楽曲を提供しているので、そろそろ、ネット側での何らかのアクションの必要性をヒシヒシと感じるのだが、零細規模ゆえにそんな時間とお金はない。なんのことはない。原稿でWeb 2.0だ、ロングテールだと書いている自分が本職の延長線上にあるべきネットの世界ではしっかりと中抜きされている。
まあ、筆者自身、こんな原稿を書いている手前、その辺のオジサンたちよりネットの知識はあるのだから、努力すればなんとかなるのだろうが、逆に考えると、その辺のオジサンたちがネットを歌舞伎町と感じるその理由がよく分かる。
Googleはこれからも既存業界やWeb 1.0ビジネスの脅威となり得るサービスを提供してくるだろうし、ネットでのその存在感が増してくるのは間違いない。先日、NHKで放送された「“グーグル革命”の衝撃〜あなたの人生を“検索”が変える」をご覧になった人は、ラストシーンで登場したGoogle社内の巨大ホワイトボードを覚えているだろうか。
そこには、「Google政府実現」みたいな社員による落書きがあって正直驚いた。いろいろと漏れ伝え聞いてはいたが、こいつらホントにそんなこと考えてるんだ、と。いやいや、識者の中には「神になる」とまでいう人もいるくらいだから、「政府」ぐらいで驚いていてはいけないのだろう。
まあ、どんなにネットが発達してGoogleが神に近づいても、リアル世界では、人々の営みは連綿と続いているわけだし、それとネットの橋渡しをする部分でGoogleが歌舞伎町を一緒に歩いてくれるわけはないもんなあ、という結論に至った今回のコラムなのです。
著者の山崎潤一郎氏は、テクノロジ系にとどまらず、株式、書評、エッセイなど広範囲なフィールドで活躍。独自の着眼点と取材を中心に構成された文章には定評がある。
近著に「株は、この格言で買え!-株のプロが必ず使う成功への格言50」(中経出版刊)がある。
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