数回にわたり、国内のWeb2.0企業にフォーカスし、その姿を見ていく。まずはAPI公開を先立って行ったビッダーズに効果を聞いた (編集部)
ちょっとネットの動向に興味のある人なら「今日から僕は2.0になりました」なんていうジョークを、「新しい自分に進化した」とすぐさま意識の中で連文節変換してくれるくらい「Web2.0」という言葉は一般化してきた。
これまでのネットとは趣の異なる、新しいムーブメントを総称してWeb2.0ということは大いに理解できるし、「オープンソース」「マッシュアップ」「Webサービス」「フォークソノミー」「CGM(Consumer Generated Media)」「マイクロフォーマット」などWeb2.0を語る際に欠かせないキーワードの数々が存在して、それぞれの意味をひもとくと、「ああなるほどそういえば最近流行の新サービスは、そのどれかに当てはまるね」と大いに納得する。
だが、どこか引っ掛かるものがある。そもそも、それぞれの言葉が本来持っている特質は、インターネットの創成期からインターネットの美点としてネット信奉者が心の中に常に持ち続けていたものではないのか。なぜいまさらWeb2.0なのだろうか。
そんな筆者の思いを代弁するかのように、ビッダーズの南場智子社長も「なんでいまごろそれを声高にいうのか理解できない。それは昔からいわれるネットの本質であって、それをいうならビッダーズは設立当初からWeb2.0だった」とキッパリという。ちなみに設立は1999年3月である。
ただ、筆者は思うのだ。確かに昔からネットの理想型のようなものは、大いに語られてきた。しかし、ネットが一般に開放されてから十数年を経たこれまで、そこで浮き上がってきたビジネスの成功例の数々は、やはり「ブランド」や「囲い込み」といったリアル世界のビジネス方程式の上に根差したものが中心で(特に日本において)、ネットの理想を具現化して成功した例は少なかった。世間ではそのような例をWeb1.0などといっているようだが、それら成功例を前にすると、筆者に至っては、置いてきぼり感を痛切に感じたりもするくらいだ。
最近のWeb2.0ムーブメントを肌で感じているネット好きの人々の中に、第2のネットバブルが芽生えているのではないか。「Web1.0には出遅れたけど、今度は何とかなるかも」という思いだ。それは企業の担当者から個人まで、大から小まで、いろいろな規模やレベルで同時多発的に起きている。「ネットバブル2.0」でもあるのだ。
ネットバブルといういい方に反発を覚える人もいるだろうが、ここはまあ、ネットビジネスへの参加意識が大きく盛り上がっていることへの親しみを込めた呼び方、程度に考えていただくといい。90年代後半から2000年にかけて起きたネットバブルが一獲千金を夢見た、ある意味“がめつい”有象無象のうごめきだったのに対し、Web2.0の周辺に集うネット・ピープルはどこかスマートでがめつくない。やることをしっかりとやってそれが認められ、そこから分相応の収入が得られればそれで良しとした、割り切りがあると感じるのだ。
そんなWeb2.0的なムーブメントを表す代表的なキーワードに「Webサービス」と「マッシュアップ」がある。いまさら説明は不要だろう。大手有名サイトが自社のデータベースやプラットフォームを公開することで、外部の第三者がそれを使うことができる仕組みがWebサービスであり、公開された複数のWebサービスを上手に組み合わせて独自のサイトを作り上げることをマッシュアップと呼んでいる。他人のふんどしで相撲が取れる時代(良い意味でね)になったということか。
Webサービス公開サイトとしては、アマゾンやeBayが有名だが、ここ日本でもWebサービスに積極的に取り組む企業も増えている。そんな中、オークションサイトのビッダーズは、2004年の10月から「ビッダーズWebサービス」という名称でビッダーズオークションで取り扱う商品のデータベースを外部に公開してきた。
このような公開の背景としては「ビッダーズの取扱高を上げていくための手段として」(ディー・エヌ・エー・Webコマース事業部事業部長・渡辺智志氏)導入したという。まさに王道を行く考え方であろう。そして、この公開によりいくつかのサイトが誕生している。「Biddest」などはその最たるもので、ビッダーズの商品をサクサクと検索できて、アフィリエイトリンクを作ることができる。
ただ、「ビッダーズWebサービス」は、ビッダーズ商品の流通を促進させて取扱高を上げることはできても、それ自体がお金を生むわけではない。そこで、2006年1月に登場したのが、「アフィリエイト2.0Webサービス」だ。
これは、いうなればWebサービスを利用したアフィリエイトの仲介業。商品の広告掲載を希望する広告主と、公開されたAPIを利用して、コンテンツを生成するサイト主宰者の間に入って、XMLで商品データベースを提供するというもの。
一見すると、A8.netやバリューコマースのようなASPモデルに似ているが、この仕組みを利用するサイト主宰者やプログラマーは、このプログラムに参加する、ファミマ・ドット・コム、ビーケーワン、ベクターなど10社が提供する商品情報を利用して、サイト主宰者独自の切り口で登録商品を扱える点が大きな特徴だ。また、広告主の商品だけでなく、従来どおりビッダーズの商品情報も取り扱えることから、アイデア次第でかなりユニークなサイトを構築できるはずだ。
「ビッダーズWebサービス」では、ビッダーズの取扱高を上げるという目的だったが、今回「アフィリエイト2.0Webサービス」に進化したことで、「仲介料でも収益が上がるようにしたい。ビッダーズには約30%程度の手数料が入る」(ディー・エヌ・エー・サービス統括部・西村哲成氏)と期待を寄せている。
ただ、2006年の1月からの開始ということで、まだ目立った利用例が現れていないのが残念だが、前述の「Biddest」の作者が「adTools」というコンテンツ連動型広告のサイトを作っているので紹介しておこう。これを利用すると、サイトやブログの内容に関連性の高いビーケーワンの商品を自動的に表示してくれる。また、「adTools」では、好みのキーワードに関連性の高い商品を自動表示するキーワードリスティング広告機能も提供されている。
ビッダーズだけでなく、Yahoo! JAPANもWebサービスの提供に積極的な姿勢だ。このように大手サイトがこの分野に注力することで、日本でもマッシュアップ文化が花開くとうれしいのだが、やはり、この分野で先行する米国の事情と比較するとまだまだなのかなという印象は否めない。
例えば、大手オークションサイトのeBayなどは、出品システムやオークションのプラットフォームそのものを外部サイトから利用できるようにしたり、決済サービスのPayPal(eBayが買収)の決済システムをやはり外部から利用できたりする仕組みを提供している。実際、筆者もある米国の音楽サービスを利用した際、そのサイト内からシームレスにPayPalでの支払いが済んだので非常に感心した覚えがある。
「ゆくゆくはアマゾンやeBay並みのWebサービス公開を目指したい」(ビッダーズの南場智子社長)というビッダーズだが、当初からネットオークションというC to Cの場を提供し、出品者・落札者評価といった仕組みのうえで、ユーザー間で信頼と中立を保てるプラットフォームを提供してきた極めてWeb2.0的な、いうなれば「CGM(Consumer Generated Media)」な企業なだけに、大いに期待したいものだ。
それにしても、ブランド的権威を否定し、閉鎖性を嫌い、囲い込み戦略に背を向けたところから始まるWeb2.0というムーブメントは、これまでのリアル世界でのビジネスマインドを根底からひっくり返す概念ばかりが並んでいる。Web2.0は、これからのネット社会を考えるうえで重要な要素であることは間違いないのだろうが、取材をして勉強をすればするほど、まだ何か釈然としないモヤモヤとしたわだかまりが心底にへばりついている。このコラムでは次回もWeb2.0的なキーワードにスポットを当てて、モヤモヤを晴らす旅に出てみたい。
著者の山崎潤一郎氏は、テクノロジ系にとどまらず、株式、書評、エッセイなど広範囲なフィールドで活躍。独自の着眼点と取材を中心に構成された文章には定評がある。
「山崎潤一郎のネットで流行るものII」
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