今ならランキング上位が狙える? Apple TVアプリ開発のススメ:ものになるモノ、ならないモノ(69)(2/2 ページ)
2015年9月に発売された第4世代「Apple TV」。実際にアプリ開発を行ってみた筆者が、ユーザー/開発者それぞれの視点から率直な感想を語る。
アプリをプロモーションするすべがない
Apple TVとiPhoneでなぜこのような差がついているのか。その理由は誰にでも想像が付くだろう。単純に端末の販売台数の差だ。新しいApple TVがどの程度出荷されているのか、公式な発表がなされていない現時点では分からないが、普通に考えて、当時のiPhoneと比較してもかなり少ないことは想像できる。少ない出荷台数の端末に向けて、いきなり3000タイトル近いアプリがリリースされたわけだ。
Apple TVアプリの問題点はそれだけではない。せっかくアプリをリリースしてもプロモーションの術がないのだ。例えば、SNSやブログで「こんなアプリを出しました」という告知をしたとしよう。それはあくまでもお知らせに終始するだけであって、そこからダウンロードへ直接導く方法がないのだ。これがiPhoneアプリであれば、ツイートや投稿にApp Storeの該当ページのURLを貼っておけば、クリックやタップをするだけでダウンロードへ誘うことができる。
だが、Apple TVアプリの場合、スマホやPCでの投稿などにリンクを貼っても意味がない。それらの情報にはApple TV上からはアクセスできないからだ。というか、そもそもApple TVアプリにはiOSアプリでおなじみのアプリ個別のダウンロードページが存在しない。リンクの貼りようがないのだ。なぜ、アプリのページが存在しないのか。Apple TVはブラウザを搭載しておらず、Webページを読み込んで表示することができないからだと思われる(ちなみに、Apple TVにもiOSにも対応しているユニバーサルタイプのアプリの場合は、iOS版のアプリページが存在する)。
従って、自分でリリースしたアプリがユーザーの目に触れるためには、Apple TVの「App Store」アプリを起動したときにテレビ画面に表示される「おすすめ」や「ランキング」に登場する必要がある。これは極めて狭き門で、例えばランキングは最大で80位程度(ジャンルにより異なる)までしか表示されない。ましてや、アップルのアプリ担当者の裁量に委ねられる「おすすめ」への登場はさらに狭き門となる。事ほどさように、新しく登場したApple TVアプリがユーザーの目に触れるチャンスは限られるのだ。これが、筆者が「プロモーションの術がない」とした理由だ。
何もしていないのにランキング1位を獲得
「じゃあお前のアプリはどうやって1位を獲得したのだ」「何かプロモーションを実施した結果ではないのか」という疑問の声が聞こえてきそうだが、正直なところ、なぜ1位になったのか不明だ。筆者はプロモーションらしいことは何もしていない。強いて言えば、Facebookに「こんなアプリ出したよ」と「友達」限定で投稿した程度だ。そのときの反応(ダウンロード数)は1件だけだった。
ところが、Facebookに投稿してから2週間が経過し筆者自身も半ば諦めかけていたころ、突如として筆者のアプリがApple TVのランキングに登場したかと思うと、あれよあれよという間に1位にまで上り詰めた。その理由は分からずじまいなのだが、一つ考えられることとして、筆者のアプリが日本発の日本語アプリだったということが影響しているのではないかと筆者は想像している。Apple TVのApp Storeを見ていると、海外がオリジンと思われるアプリが相当数あり、説明文すら日本語化されていないものも多数ある。
アイコンの名称すら日本語化されていないアプリがApple TVにはたくさんある。このようなアプリは、説明文も英語しかない。アプリを日本語表示にするだけでフレンドリな印象になり、ダウンロードに結び付く?
筆者などは、そんなApp Storeを見ていると、黒船に迫られているような感覚に陥る。だから極まれに出くわす日本発と思われるアプリを見て、ホッとした気持ちになる。つまり、それら“黒船”の中にあって、筆者のアプリが極めて“日本的”であるがために、日本人ユーザーの目に留まるところとなり、ランキングが押し上げられたのではないかというのが筆者の推理だ。もちろん、このアプリ自体に大いに魅力があると自負してはいるのだが、その良さもユーザーの目に留まってこそナンボというものだろう。
ここは、日本人開発者にどんどんApple TVアプリを作ってもらい、黒船を蹴散らしてもらいたいものだ。今なら、ダウンロードの実数や売り上げという“果実”こそ期待できないものの、「ランキング◯位」という“名誉”としての実績を積み上げることができるかもしれない。
また、これは筆者の想像だが、アップルとしてもこのままで良いとは思ってはいないはずだ。Apple TVアプリ全体のビジネスを活性化させ、さらに良質なアプリを呼び込むために、何らかの対策を打ち出してくるものと筆者は信じている。少なくとも、現状のように、「おすすめ」や「ランキング」に登場しなければユーザーの目に触れることができないという状況だけは、早急になんとかしてほしいものだ。
例えば、Apple TVユーザーはかなりの確率でiOS端末を利用しているであろうから、「iOS端末上でSNSなどから取得したアプリの情報をもとにアクションを起こすと、Apple TV側でダウンロードが始まる」といったセカンドスクリーン化による連携は可能なはずだ。このままでは開発者からソッポを向かれかねないだけに、アップルには頑張ってほしいものだ。
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著者紹介
山崎潤一郎
長く音楽制作業を営む傍ら、インターネットが一般に普及し始めた90年代前半から現在に至るまで、IT分野のライターとして数々の媒体に執筆を続けている。取材、自己体験、幅広い人脈などを通じて得たディープな情報を基にした記事には定評がある。著書多数。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Combo Organ Model V」「Alina String Ensemble」の開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。
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