Illustratorのプロダクトマネージャに聞く、Illustrator CS4の面白い機能やFlash Catalyst、デザインの未来。Fireworksがあれば、Illustratorは要らない?
12月3・4日、ベルサール汐留にてデザイナ/クリエイタやDTP関係者向けのイベントとして「Creator's Summit 2009(クリエーターズ・サミット2009)」が開催された。そこで基調講演を行うために来日した、アドビ システムズ(以下、アドビ) Adobe Ilustrator(以下、Ilustrator)担当シニアプロダクトマネージャであるDavid Macy(デイビッド・メイシー)氏に、Illustratorやデザインの今後についてインタビューを行ったので、お伝えしよう。
――Illustratorはコンスタントに売れている定番製品ですが、CS4になってから注目を集めている面白い使い方などがあれば、教えてください。
David Macy氏(以下、Macy) 複数アートボードの採用ですね。アートボードとファイルの管理は、これまではユーザーが独自の複雑な工夫をしつつ活用していた部分ですが、CS4では1つのデータで複数のアートボードを管理できるようになりました。この機能で、ロゴの複数バージョンを1つのファイルで管理したり、複数チャネル(メディア)向けのデザインを1つのファイルで管理したり、いろいろと使いがいのある機能です。
また、「アピアランス」パネルは前バージョン(CS3)でもありましたが、“使える”ものではなかったですね。どんなエフェクトが付いているかは確認できるものの、パネルから直接設定を変えることができなかったので。今回は、それができるようになりました。
――人気の高い機能は何ですか?
Macy 「塗りブラシ」ですね。これは、Flashの「ブラシ機能」にとても似ているツールで、ドローイングした形状が、そのままパス(オブジェクト)データとして扱えるというものです。直感的に絵が描ける点が喜ばれています。
Macy ところで、FXG(※注1)形式への対応は、非常に数多くの努力を経てIllutratorへの実装を実現した機能ですが、発表当初はニーズがほとんどなかったですね(笑)。いまは、FXG形式のデザインを活用するツール「Flash Catalyst」(※注2)のパブリックベータ版のリリースもあり、やっと、この機能が認知されたところです。
――Illustratorのユーザー層も幅が広がりそうですね。
Macy そうですね。これまでの利用者が新たなスキルを身に付けることもできますし、同時に、これまでのスキルを新しいフィールドでも利用できます。例えば印刷物をデザインしていた人々で、モバイルや、Webページにデザインを展開していこうという場合、Flash Catalystを導入することで、Illustratorのスキルをアプリ開発に応用できるようになるわけです。
――開発側がIllustratorを使ってデザインをするよりは、デザインをしていた人がFlash Catalystを使って新しいフィールドに入る方が望ましいでしょうか?
Macy アプリケーションやインタラクションのルックアンドフィールの最適化は、デザイナに任せるやり方が現実的です。
ここ数年でiPhoneのような製品が多く出てきましたよね。こうした製品の登場は、「UXが重要だ」ということを皆にあらためて認識させたように思います。アップルのような企業は、ユーザーエクスペリエンス(以下、UX)に注力してます。iPhoneはスマートフォン分野の競合と比較すると、フィーチャーセットはほかの製品よりも少ないですが、「UXが良ければ商品として成功する」ということです。アップルの例をほかの企業が見て、UXへの投資の必要性を感じたのではないでしょうか。デザイナの活用機会が増えていることが分かる事例です。
――日本では、Illustratorの利用者は印刷業界に多く、UXなどソフトウェアデザインに特化した話は理解するのが簡単ではないのですが、この点について何かご意見は?
Macy ソフトウェアデザインの分野でデザインをするとなると、これまではコードを理解しないとできない、という意見が根強くあったのではないでしょうか。HTMLやActionScriptができなければダメだと。しかしながら、デザイナの興味の対象やスキルを考えると、こうしたコードはその守備範囲外ですよね。この状態では恐れおののいてしまうだけです。そこで、Flash Catalystなんです。コードを書かずしてインタラクションデザインができますから。
この状況は1987年にIllustratorの最初のバージョンが発売されたころと似ています。約20年前ですが、当時は「PostScript」というデザイン用のデータを直接コーディングしてデザインを作るという作業の仕方もありました! でもデザイナは、そんなことをしたくありませんよね。そこで、Illustratorが誕生したわけです。直感的にドローイングして作ったデザインを、裏でコードに直すということを初めてやったわけです。
――Illustratorでデザインすることが普通のことになるまでには、どれくらい掛かりましたか?
Macy 何年も掛かりましたね。しかし、いまとは状況が違います。当時のデザインは、いまと違いアナログの方式でやっていましたから。コンピュータについてさえ、デザイナはまったく知らない! という時代でした。しかも、PCは非常に原始的な時代でした。その後、技術開発が進んで、技術は大きく変化しています。おそらく、いまのデザイナは「デジタルやソフトウェア環境に関するスキルを身に付けなければならないんだ」という意識をすでにお持ちだと思います。それでもやっぱり、少しは時間が掛かると思っています。
――Flash Catalystはスマートフォン向けのフィーチャーはありましたか?
Macy いいえ、ありません。Flash CatalystはPC向けのアプリケーション作成用ツールです。現状ではWebブラウザの中で動くアプリをデザインするためのツールという位置付けになっています。が、今後は垣根がなくなっていきます。「スマートフォンで動くアプリとPCで動くアプリの垣根がなくなる」ということです。
――印刷業界では必携のIllustratorですが、Web業界では「Fireworksがあれば、Illustratorは要らない」というユーザーも少なくないのですが。
Macy FireworksはPCスクリーン向けのアウトプットを作るツールです。ところが、そのデザインを印刷媒体など、ほかのチャネルに向け応用する必要が出てくることもありますよね。ビルボードとかテレビCMとかWebなどなど。それらは、すべてFireworksでこなすことはできませんから、Illustratorが必要になります。表現力に関しても同じことがいえます。Illustratorでないとできない表現、作れないビジュアルというものが数えきれないほどありますし。
――なるほど。ところで、Illustratorというツールは非常に夢のあるツールでもあります。例えば、「Illustratorを買うだけでデザインができるようになるかもしれない」という考え方もあると思いますが。
Macy 「鉛筆を持っていれば、絵が描ける」と思うのと同じことですね! プログラミングも同じだと思いますけど。「コードをちょっと理解できたからといって、素晴らしいプログラミングができるとは限らない」というように。
――いずれにしても、センスが必要だということですね。
Macy 一番大切なことは、「デザインというものは、もはやスタティックなものではなく、ダイナミックなものだ」ということを理解することでしょう。ダイナミックというのは、「そこにインタラクションがあって、モーションがあり、データがある」ということです。そのようなことを実現するためのスキルを身に付けるのは当然なのですが、「デザインのプロセスのうえで、それらのことに留意できるか」も非常に重要です。
現在は、とてもエキサイティングな時代です。「UXに注力することが重要だ」といいましたが、いま非常にたくさんの企業がその点に注目していることが分かっています。「ここがデザイナにとってのチャンスだ」ととらえることが可能です。
われわれは、メディアを問わずにデザインできる環境作りに取り組んでいます。この点がアドビがデザインツールで実現しようと考えていることです。さまざまなツールの連携、データの共有など、デザイナが技術を意識せず力を発揮できることが重要です。
――ありがとうございました!
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矢野 りん
デザイナー/日本Androidの会 女子部の部長
北海道足寄町生まれ。女子美術大学芸術学部芸術学科卒。講義活動を通してWebサイトなど情報デザインのトレーニングを担当しつつ、執筆活動を行う。adamrockerさんとの開発ユニット「rockrin'」のrinの方。近著に「WEBデザインメソッド−伝わるコンテンツのための理論と実践」(ワークスコーポレーション)がある。身長151cm
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