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Androidのオープン性でガラパゴスから脱出しようものになるモノ、ならないモノ(29)

ガラパゴスとやゆされる日本の高機能ケータイ。閉塞感に満ちた国内の携帯電話市場から世界に打って出るための解は、Androidのオープン性にある

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端末搭載機能とAPIのマッシュアップこそAndroidの神髄

 Android端末「T-Mobile G1」を触った。

Android端末「T-Mobile G1」方位を検知するコンパスが入っている
Android端末「T-Mobile G1」方位を検知するコンパスが入っている

 「これまでのどのケータイとも全然違うぞ! もちろんiPhone 3Gとも違う」という確信に満ちた思いが、液晶をタップする人差し指の先から伝わり、頭頂葉から前頭葉を支配するのを実感した。短時間の“接触”ではあったが、搭載されたアプリケーションたちがオーラのように発散する「オープン性」という理念に圧倒されっ放しだった。昨年、NTTドコモが「ドコモ2.0」というキャンペーンを行っていたが、Android端末こそケータイの世界に真の「2.0」を持ち込んだぞ、と思わせるに十分な存在だ。

 G1上で展開されていたのは、めくるめく「マッシュアップワールド」だった。それも市井のインディ系の開発者によるアプリ経由によるものが中心だっただけに、『ニッポンのインディよ!iPhoneの「予想外」にカワイイ系で打って出よ』などという原稿を書いたこの身としては、理由もなくうれしくなってしまったのだ。

 印象深かったのは、G1に搭載されたGPSやコンパスといったセンサ類と連携したアプリ。内蔵コンパスからの情報を読み取り端末の動きと同期するGoogleのストリートビュー写真(つまり指や十字キーでグリグリする必要なし。端末を動かすだけで方角が変わる)、リクルートが公開するWebサービスのAPIとGoogleマップを組み合わせた、GPSと連動する最寄りのグルメ情報などだ。つまり、パソコンインターネットのマッシュアップサービスとは違い、センサなど端末機能連動型のマッシュアップに、大いなる希望の光を見てしまったわけだ。

Android端末「T-Mobile G1」裏にはGoogleのロゴが
Android端末「T-Mobile G1」裏にはGoogleのロゴが

 「iPhone 3GだってSDKが公開されているのだから似たようなことができるじゃん」というツッコミも入るだろう。ただ、アップルによりガチガチにコントロールされているiPhone SDKを用いた開発と流通プラットフォームは、アップルの手のひらの上で“踊らされている感”が強く、インターネット的な「オープン性」という理念は感じられない。そのあたりが、Androidと大きく違うところなのだ。Androidの方が、インディ魂がより煮えたぎるのではないだろうか。

 それだけではない。端末センシング機能+マッシュアップの手法を見ていて考えを改めるべきだと思った点がある。モバイルブロードバンドが普及したら、アプリケーションやサービスは、すべて“雲の上”=クラウドから降ってきて、Webブラウザ機能だけを持つシンクライアント的な端末の世界がやって来る、という考えが頭の片隅にあった。しかし、G1を経験したいま、それは違うと感じている。

 早稲田大学大学院客員教授で日本Androidの会の会長に就任した丸山不二夫氏も「クラウドの時代だからこそ、ケータイ端末は高機能であるべき」と説く。確かに、GPS、センサ類、カメラ、音楽プレイヤーなどフルスペックで装備したらシンクライアントとは遠くなる。上記で紹介したAndroidアプリケーションは、クラウドと端末機能の橋渡しを兼ねた「ビュワー」あるいは「プレイヤー」という位置付けだ。

早稲田大学大学院客員教授 日本Androidの会会長 丸山不二夫氏
早稲田大学大学院客員教授 日本Androidの会会長 丸山不二夫氏

 出先ですてきな風景に遭遇し「これをいますぐ写真共有サイトに公開したい」と思ってもカメラが搭載されてないと駄目だし、サーバからストリーミングで音楽を聴きたいと思っても音楽プレイヤーが搭載されていないと意味がない。丸山氏はAndroid端末について、「端末の機能や高い処理能力とクラウド(Web APIなど)を連動したRIA(Rich Internet Application)の方向に進む可能性が高い」と付け加える。そして、「これこそ日本メーカーのお家芸」とも。

 なんと素晴らしい。高い技術力を有し世界がうらやむ高機能ケータイを作り出していたのに「ガラパゴス化」とやゆされるわ、端末販売台数は落ち込むわで、へこみ気味だった国内メーカーに一筋の光を当てる希望に満ちたお言葉だ。閉塞感に満ちた国内の携帯電話市場から世界に打って出るための解は、日本の高機能ケータイにあり、というわけだ。

ドコモのAndroid端末のオープン度に注目せよ

 11月19日付の日本経済新聞によると、NTTドコモが2009年中に4〜5万円程度のAndroid搭載スマートフォンを出すそうだが、この報道がぬかよろこびに終わらないことを願うばかりだ。いや、端末は確かに出るのだろう。だが、NTTドコモのAndroid端末が、G1並みのオープンな思想をもって登場する保証はない。

 ご存じのように、ガチガチの垂直統合型モデルでユーザーを囲い込む代わりに、ワンストップサービスの提供で「安心」「安全」「至れり尽くせり」を最大のウリにしてきたドコモだけに、Androidのオープン思想は、セキュリティやサポートの面であまりにもリスクが大きい。丸山氏も「Android端末のセキュリティ問題はこれからの課題」と顔を曇らせる。

 ドコモの既存端末にも、iアプリを独自にダウンロードする一見オープンな仕様は搭載されているのだが……、

  • ダイヤラ機能や電話帳などの携帯電話内部の基本ソフトウェアやメモリなどに一切アクセスできない
  • iアプリがほかのJavaアプリを起動したり書き換えたりできない(ほかのJavaアプリが使用するスクラッチパッドにもアクセスできない)
  • iアプリの通信先はそのアプリケーションがダウンロードされたサーバに限定される
  • 複雑な計算を行い画面が固まったように見せるなどの嫌がらせJavaアプリに対して、ユーザーは自分の判断で終了できる(強制終了ボタンの採用)
     NTTドコモのiアプリページより引用

 と、セキュリティをガチガチに固めてある。これでは、複数のWeb APIと連携しながらサービスを提供するマッシュアップ系iアプリの開発など無理だ。ドコモから登場するAndroid端末がこの殻を、どこまで破れるか注目だ。

 一方、Android端末向けのアプリケーション配布サービス「Android Market」では、自作アプリケーションを登録する際、「認証」「承認」といったプロセスはない。「極めてオープンであり、アプリケーション登録の場といった雰囲気。販売も自由にしてOK」(日本Androidの会事務局担当者)なのだ。iアプリはもちろん、アップルの認証が必要なiPhone 向けの「App Store」とは大きく異なる。

 ただ、オープン=自己責任が問われる世界でもある。「ドコモのAnswer」思想で手厚く保護されているドコモユーザーに自己責任を説くことは難しい。そんなドコモが市場に送り出すAndroid端末だけに、そのオープン度にいやが応でも注目が集まるのだ。

 ドコモは、今冬の新製品から4つのシリーズを展開するようになった。「PROシリーズ」と呼ばれるスマートフォンが中心のシリーズでは、自己責任型のオープン思想が展開されるのだろうか。いずれにしても、ドコモの方向性、いや、日本のケータイビジネスの今後を占ううえでも、ドコモのAndroid端末のオープン度に注目だ。

端末メーカーは、“雲の上”(クラウド)の方を向いて仕事すべし

 クラウドの勃興という背景を感じつつ、G1を眺めていると、端末メーカーの生き残る道のようなものが見えてくる。これまでは、垂直統合モデルの支配下にあって国内メーカーはキャリアの方だけを向いていればよかった。だが、オープンな競争環境の中では、真に仲良くなるべき相手は、上位レイヤでコンテンツやサービスを提供する事業者、つまりクラウド側の方ではないかと思うのだ。

 例えば、アップルやノキアといった海外勢が展開するビジネスを見ているとその一端が理解できる。この両者は端末を供給すると同時に上位レイヤのサービスも提供している。アップルの、iPhoneという端末に対するiTunes Store、App Store、MobileMeというクラウド系サービスがそれであり、ノキア端末に対する同社のクラウド系サービス「Share On Ovi」がそれに当たる。

 11月22日付の日本経済新聞夕刊によると、ノキアは、「VERTU」というブランド名で500万円(!)の端末をドコモから回線を借りてMVNOとして提供するそうだ。この端末のユーザー向けに、専用オペレーターがホテルやレストラン、飛行機の予約などをホテルのコンジェルジュよろしく代行してくれるサービスを提供するだけでなく、独自の音楽やニュース配信サービスも行うとしている。

 ちなみに、ノキアは11月27日、日本のキャリア向けにローカライズしたNTTドコモやソフトバンクモバイル向け端末のローカライズと販売を打ち切ると発表した(リリース)。ただし、「VERTU」事業はその対象外としており、日経新聞のMVNO報道と並んで今後のノキアの動向を注視したい。

 考えてみれば、ユーザーにとって、ケータイの魅力や満足度を最も実感する部分は、常に携帯する端末そのものであり、それがもたらすエクスペリエンス(アプリケーションやサービス)にほかならない。この2社が、これらボトムとトップのレイヤをコントロール下に置いて、キャリアを土管化してしまおうという戦略は、モバイルブロードバンドの普及によるクラウドの増殖と端末の高機能化を見越したものなのだろう。

 であるなら、日本のメーカーもキャリアとばかり仲良くしないで、サービスやアプリケーション提供者の方に軸足に向けるよう、もっともっと注力してはどうだろうか。その一例を10月のCEATECで実施されたナビタイムジャパンのプレゼンに見て取った。Androidは、組み込みの分野でも期待されているのだが、ユビキタス型のモバイル端末の分野で、メーカーとサービス事業者が深く結び付きそうな事例として紹介したい。

 このプレゼンでナビタイムジャパンは、WND(ワイヤレスナビゲーションデバイス・プレスリリース)と呼ばれる独自カーナビの発売を予告した。もちろん、現時点では、WNDにAndroidが採用されるという発表はないし、メーカーも公表されていない。だが、この事例では、クラウド側であるナビタイムジャパンと端末メーカーがコラボする、という部分に注目すべきだ。情報によると、ナビタイムジャパンはMVNOでの参入に意欲を燃やし、IIJや日本通信などと接触を行っているという。MVNOでの参入はつまり、キャリアを土管として利用することで、トップとボトムをしっかりと押さえようというモデルなのだ。

 そんな日本通信もドコモのネットワークを利用するMVNOとして、法人向けにAndroid端末のスマートフォンを導入しようとしている。メーカーにAndroid端末を供給してもらい、クラウドに当たる企業内の各種サーバ(メール、グループウェア、ユニファイドメッセージ系など)との間をMVNOとして結び付けるビジネスだ。Androidのオープン性を生かすことで各企業向けの独自アプリケーションを作り込むこともできる。日本通信の常務取締役CFO・福田尚久氏は「オープン性がウリのAndroidは、法人顧客から期待されている。Android端末をできるだけ早期に提供したい」と張り切る。

図1 キャリアを土管化し、ボトムとトップのレイヤをコントロール下に置くものが、モバイルインターネットの覇者となるのか
図1 キャリアを土管化し、ボトムとトップのレイヤをコントロール下に置くものが、モバイルインターネットの覇者となるのか

 Androidが日本の携帯電話業界に及ぼす波紋は、現時点ではまださざ波程度なのかもしれない。しかし、マッシュアップ、MVNO、クラウド側からの端末参入など、既存の寡占キャリアがコントロールできない部分で、Androidがジワジワと浸透し、その存在感を示し始めるのは必至だ。

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著者紹介

ケータイ料金は半額になる!

山崎潤一郎

音楽制作業に従事する傍ら、IT系のライターもこなす蟹座のO型。自身が主宰する音楽レーベルのサイト「インサイドアウト」もよろしくお願いします。最新刊『ケータイ料金は半額になる!』も好評発売中。著者ブログ 「家を建てよう」


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