App Storeの運営方針は第2ステージへ:ものになるモノ、ならないモノ(40)(2/2 ページ)
iPadの発売や次期iPhoneの噂などもあり、勢力をますます拡大しているように見えるiPhoneアプリの世界。その販売サイト「App Store」をめぐる新しい潮流について考えてみたい。
第2ステージへと入ったApp Storeの運営方針
2008年のサービス開始当初からインディに門戸を開き、とにかくたくさんのアプリを集め、ロングテールのパワーでサイト全体の魅力を底上げし、同時にiPhoneの普及を後方支援することがApp Storeの第1ステージだとする。その意味で、十数万タイトルのアプリが登録されているいまのApp Storeは、十分その目的を達成したといえよう。
だが、それにより「安売りの世界感」が構築され、大手が参入しにくい構造になってしまった。Appleとて、App Storeのこれまでの世界観がそのままでいいとは思っていなかったはずだ。
このところ続々と登場する大手系の有名iPhoneアプリが、この出版幹部がいうように、有利な条件での契約を行っているかどうかは部外者である私は知る由もない。だが、現に既存の人気ゲームが続々と移植され、それ相応の値が付けられている。少なくとも115円や230円で売られている有名アプリはない。1ユーザーとして見たら安価な方がうれしいが、コンテンツビジネスという点でいえば、正常な市場へと、脱皮(進化といってもよい)していると見ることができる。
Appleはあたかも、App Storeに対する大局的な方針転換を実施し、第2ステージへと押し上げようとしているかのようだ。もちろん、これまでどおりインディにも門戸が開かれているわけだから、無名のアプリが多数登場することには違いはないが、今後は、いうなれば「玉石混交ではあるけれど、大手の有名人気アプリもしっかりと品ぞろえしている」という状況になるのだろう。これなら誰も文句はいうまい。
それにAppleとしても、いつまでもロングテールのテールの部分に依存するより、やはりヘッドの部分を、高く、そして幅広にすることで、さらなる収益拡大を狙うのは当然であろう。従って、Flash外しとも受け取れる今回の約款変更についても、玉石混交からなるべく「石」を排除し、App Storeを第2ステージへスムースに導くための措置と考えられなくもない。
もちろん、ほかのフレームワークからコンバートしたアプリすべてが「石」だとは決して思わないし、Appleの公認ツールで作成したアプリの中にも「石」はたくさんあるだろう。だが、巨大サイトの統治者の目線で考えると、それらを個別にはじくよりは、大枠で規制を掛ける方が、コスト面でも運営面でも正しい選択なのではないか。2月にはお色気系アプリの一斉削除事件があったが、この措置も、Appleの方針転換と無関係ではない気がする。
iPadの登場でコンテンツの品ぞろえをさらに拡充
そして、新しくオープンしたiPad向けのアプリ市場である。この注目の端末の上では、電子ブックも含めてアプリの可能性がさらに広がるであろう。そう考えると、出版系も含めてコンテンツ大手が参入しやすい環境を整備することが、ロングテールのヘッドを拡大する意味で大命題となるはずだ。
米国で立ち上がったばかりのiPad向けのアプリ市場についてこのタイミングで結論を得ることは適切ではないが、iPhoneアプリ時代からの有名デベロッパーの多くが、iPhoneから移植したiPadアプリに「〜for iPad」とか「〜HD」という名称を付けて、2〜3倍程度の値付けで販売する傾向にある(もちろん例外もあるが……)。そのことを思うと、App Storeがアプリの市場として正常化路線を歩んでいるかのような印象を受ける。
Appleがデベロッパーに対し指導や誘導を行っているとは思わないが、開発者の側でも、iPadという新しい市場では「安値の世界感」をリセットしたいという思いがあるのではないか。米国App StoreのiPadアプリのiTunes画面を眺めていると、iPhoneのアプリビジネスで安値に疲弊したデベロッパーの、一種の安堵(あんど)感のようなものが伝わってくる。
余談だが、筆者がプロデュースしたiPhoneアプリ「Pocket Organ C3B3」もしっかりとiPadに対応させたが、これはiPad専用の別アプリとしてではなく、ユニバーサルアプリとしてアップグレードで対応した。つまり、すでにiPhone版を購入した人なら、最新版を無料ダウンロードするだけで、iPadでも使うことができるわけだ。これにはTwitter上で、ユーザーから感謝の言葉が寄せられてはいるが、実はちょっと後悔している。
もちろん、みすみす新たに得られる売り上げを逃したという思いがないといえばウソになる。だがそれよりも、新規のiPadアプリとして登場しなかったために、いきなり埋もれてしまった感があるからだ。この新しい端末の新しい市場に、過去のiPhoneアプリ資産を移植させる場合は、iPad専用のアプリとして少しお高い値を付けて望む方がビジネスとしては正解なのかもしれない。
さて、好調な売れ行きを示すiPhoneに加え、iPadという強力な兄貴分が追加されたことで、iPhoneアプリ開発の熱気はインディだけでなく、今後は大手のゲーム、コンテンツ企業をも巻き込んでさらに拡大していくだろう。
筆者のように楽器アプリを開発しているものからすると、KORGやIK Multimediaといった楽器系の有名大手メーカーの参入は、うれしくもあり怖くもある。何せ相手は、それを本職とする人たちだ。KORGの「iELECTRIBE」などは完璧な完成度を持っての登場だけに、インディのアプリが忘れ去られるのでは、という危機感すら感じる。
「そのような中でインディが存在感を示す道はどこにあるのか」を今後も追求していきたい。それは、新しく始まる電子ブックのマーケットでも同様であろう。何はともあれ、5月末のiPad発売が待ち遠しい。
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著者紹介
山崎潤一郎
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライター稼業もこなす蟹座のO型。iPhoneアプリでメロトロンを再現した「Manetron」、ハモンドオルガンを再現した「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、『ケータイ料金は半額になる!』(講談社)、『iPhoneアプリで週末起業』(中経出版)がある。TwitterID: yamasaki9999
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