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「着うた」とiTunes Storeの直接対決はあるのかものになるモノ、ならないモノ(26)

最強の音楽ケータイ、iPhone 3Gは、成熟した「着うた」の牙城を切り崩すことができるのだろうか?ケータイ版Web 2.0ビジネスの波を読む

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iPhone 3Gは「通信機能を搭載したiPod」

 iPhone 3Gの発売が開始されてから1カ月余。この革新的な端末の最大の魅力は、「音楽」を中心に構築された独自の世界観にある。ネット、メール、アプリ、GPSなど、さまざまな楽しみや利便性がギュウギュウに詰まってはいるが、この端末の核の部分を構成しているのはやはり「音楽」、つまりiPodなのだと思う。

 ここ日本において、「ケータイ」+「音楽」というキーワードで思い出すのは「着うた」「着うたフル」。「着メロ」から始まって「着うたフル」に至る過程で、端末、ユーザーエクスペリエンス、コンテンツが三位一体となって成長してきた成熟したマーケットが、日本のケータイには存在する。

 そこで、最強の音楽ケータイでもあるiPhone 3Gという“外来種”が、成熟した「着うた」の牙城を切り崩すことができるのかどうか考えてみた。そして、「着うた」側の人は、音楽ケータイとしてのiPhone 3Gをどう考えているのだろうか、と。日本最大の着うたサイト「レコ直♪」を運営するレーベルモバイル代表執行役副社長の服部達也氏に話を聞いた。

写真1 レーベルモバイル代表執行役副社長・服部達也氏
写真1 レーベルモバイル代表執行役副社長・服部達也氏
ロビーには、インテリアとしてギター、ベース、LPレコードが置かれている。60年代、70年代のフレーバーに満ちているのはスタッフの趣味か。さりげなく置かれたボズ・スキャッグスのLPに涙した。30年前の武道館公演が懐かしい、って歳がばれるなあ……

 結論からいうと、「iPhone 3Gとはユーザー層が異なるので、競合することはない」(服部氏)と、この外来種の上陸を冷静に見る。というかハナから敵になるとは思っていない様子。なぜだろうか。話を子細に聞くと、ケータイユーザーとiPhone 3Gユーザー(=iTunes Storeユーザー)の音楽に対する姿勢の違いが見えてくる。

 本題に入る前に、着うたの市場動向について確認しておこう。日本レコード協会の2008年の第2四半期の統計によると、有料音楽配信の売上実績では、モバイル関係の合計が198億円なのに対し、パソコン系のダウンロード配信合計は、22億2900万円。つまり、ケータイ系とパソコン系では、市場規模で10倍近い開きがある。日本の音楽配信市場は、「着うた」系が圧倒的にリードしていることが分かる。

 今回話を聞いた「レコ直♪」にしても、その数字に圧倒される。「毎月1200万人(端末)からのアクセスがあり、その約6割の人が曲を購入し、月間約2200万曲がダウンロードされる」(服部氏)という。つまり、この膨大な訪問ユーザーのコンバージョン率が60%に達しているわけで、一般的なECサイトの感覚からすると「ありえね〜」の声を上げたくなる。このような化け物のようなサービスを擁する着うた市場だけに、パソコン系配信サービスの代表格であるiTunes Storeが、iPhone 3Gの登場を契機にその牙城に切り込めるのかどうか興味津々なのだ。

マスメディアに直結したケータイユーザーの購買行動

 服部氏の話を聞いて感じるのは、着うたとiTunes Storeでは、ユーザーにおける音楽との出合いに徹底的な隔たりがある、ということ。乱暴な分け方を承知でいうと、着うた=Web 1.0的、iTunes Store=Web 2.0的な出合いの法則がそこに存在する。

 まず「着うた」についていうと、「ミュージックステーション(テレビ朝日の音楽番組)」が終了した直後の1時間に10万人がアクセス」(服部氏)してきたり、「人気バラエティー番組で、過去の曲がアイドルタレントによりカバーされると、その原曲がチャートにランクインすることもある」(服部氏)と、着うたユーザーの多くが、マスメディアに影響を受ける形で購買行動を起こす姿が読み取れる。

 テレビで気に入ったら即購入という、パーソナル性、リアルタイム性の高いケータイの特性が、ダウンロード購入装置として見事に生かされている格好だ。iPhone 3Gにおいても、iTunes Wi-Fi Music Storeがあるだけに、同様の購買行動も期待されるが、現時点では、アクセスがWi-Fi経由に限定されるという制約もあり、ここまで直接的な購買行動に結び付くとは思えない。iPhone 3Gの場合は、あくまでもパソコンと対で使う、という前提の端末なので、音楽をダウンロードする場合は、やはりiTunes Storeでの利用が多くなるのだろう。

 iTunes Storeの場合もマスメディアに影響を受ける形での購買行動というのは当然あるだろうが、「着うた」のそれほどではないだろう。やはり、購入装置としてのパソコンは、ケータイと比較するとリアルタイム性が低く、テレビを見ていてその瞬間に「欲しい!聴きたい」という衝動に駆られることはあっても、時間の経過とともにその思いは薄れ、パソコンの前に座った時点ではすっかり忘れている、なんてことはままある。パーソナル性にしてもそうだ。一般の家庭においては「パーソナルコンピュータ」とは名ばかりで、家族で1台のパソコンを共有するケースは珍しいことではない。そうなると、衝動的な購買行動はどうしてもケータイに分がある。その一方で、それがすべてとはいわないが、iTunes Storeにおける未知の音楽の出合いの代表的なパターンは、リコメンド、iMix、レビュー、検索、ネット上の情報等をきっかけにした、能動的な音楽の深掘り探求によるものが多い。

パケット定額制と端末画面の大型化は、ケータイにWeb 2.0ムーブメントをもたらす

 突然だが、ここで数年前のWeb 2.0ムーブメントを思い出してほしい。ネットがWeb 2.0化する要因の1つに、ラストワンマイルにおけるブロードバンドの普及があった。

 通信料金が青天井で課金されるダイヤルアップと違い、時間を気にしないで利用できる定額制のブロードバンドは、ユーザーに「情報の深掘り」というネットの新しい使い方を教えてくれた。Web 2.0の代表的現象のようにいわれたアマゾンのロングテールにしても、通信料金や接続時間を気にしないで、リコメンドやレビューから未知の書籍をじっくりと探すというユーザーの行動があってのこと。

 Web 1.0的ダイヤルアップ時代においては、新聞等既存メディアの書評を見て、注文チャンネルの1つ、つまり通販の手段としてアマゾンを利用するというパターンが多かったわけで、これではリアル書店と似たような売れ方となり、ロングテールなどという現象も起こりにくかったであろう。

 というわけで、音楽との出合いが既存メディアによってもたらされることの多い「着うた」は、いまだWeb 1.0的な世界観の中での購買行動が主流である一方、リコメンド、iMix、レビュー、検索等での出合いがあるiTunes Storeは、Web 2.0型ということになる。

 このような背景もあり、「iPhone 3Gとはユーザー層が異なる」という服部氏のコメントに大いに納得もするのだが、この先も「着うた」とiTunes Storeは、異なる道を突き進んでいくのだろうか。筆者は「着うた」の世界にも、近い将来Web 2.0的な流れが押し寄せると考えている。

 固定網の世界では、前述のようにブロードバンドの普及がユーザーエクスペリエンスを高め、コミュニケーション上手になったユーザーの増加と歩調を合わせるように、SNS、CGMといったWeb 2.0的なサービスが浸透していった。それと同様に、パケット定額制のユーザーが増え、画面が大型化したケータイでも、同じ流れが訪れるとみている。つまり“いつか来た道”というわけだ。

写真2 渋谷の宮益坂上にある同社オフィスからは、東に延びる青山通りが一望できる。この通り沿いには同社に出資するメジャーレコード会社のオフィスが点在する。レーベルモバイルに集められた音楽配信の収益が青山通りを通じてレコード各社に分配される様子を象徴しているかのような位置関係だ
写真2 渋谷の宮益坂上にある同社オフィスからは、東に延びる青山通りが一望できる。この通り沿いには同社に出資するメジャーレコード会社のオフィスが点在する。レーベルモバイルに集められた音楽配信の収益が青山通りを通じてレコード各社に分配される様子を象徴しているかのような位置関係だ

 auを皮切りに大手3キャリアの料金コースにパケット定額制が導入されてから、ある程度時間が経過しているだけに、経験を積んだユーザーが主導する形で、すでにケータイのWeb 2.0化は始まっているのかもしれない。モバゲータウンや「魔法のiらんど」の人気は、そのようなケータイの環境変化の潮流を見事につかんだ結果であろう。また、auやNTTドコモがGoogleと提携し本格的な検索機能を提供したことも、今後、ケータイの世界において、Web 2.0的ユーザーエクスペリエンスが高まる下地となっている。

 「着うた」にしてもこのような、新たな潮流にあらがうことはできないはずだ。現に、服部氏も「マスメディア連動型ではない、新しい音楽の出合いを提供するのが次の課題」と、この、遅れてやって来るケータイのWeb 2.0化を見据えた取り組みを示唆する。

 前述のようなマスメディアの力学に加えて、(1)パソコン並みの情報処理能力、(2)ユーザーの成長、(3)高いパーソナル性とリアルタイム性、この3つの要素が三位一体となって次世代のケータイに加わったとき、さらに強力な音楽ダウンロード装置になるのではないだろうか。そうなったとき、「レコ直♪」が抱える月間1200万人という膨大なアクセスとコンバージョン率60%という驚異的な数字が、さらに大きな意味を持ってくるのだろう。

ケータイのIP化は、ケータイビジネスにインターネット的な考え方を要求する

 現状の「着うた」とiTunes Storeの間には、ユーザーの意識や考え方の面で、キャリアの囲い込みモデルという制度以上の高い壁があり、まったく別世界のものであることが分かる。そのようなわけで、iPhone 3Gという切り込み隊長を得たiTunes Storeが「着うた」の牙城を切り崩せるのかというテーマについては、「短期的には無理」という結論しか思い浮かばない。

 ただ、「ニッポンのインディよ!iPhoneの『予想外』にカワイイ系で打って出よ」で書いたように、インディ事業者としてiTunes Storeに楽曲を提供している筆者としては、「着うた」市場がWeb 2.0化しロングテール効果が盛り上がることで、新たな販売チャンネルがもたらされることへの期待感は大きい。現状の「着うた」において、インディは、ほとんどお呼びではない状態なのだ。レゲエアーティストの「九州男」が、iTunes Storeのレゲエチャートがきっかけになって火が付いたような「出会い頭」的なムーブメントが、「着うた」でも起こり得るのではという期待だ。

 ソフトバンク社長の孫正義氏は最近事あるごとに、「モバイルを制する者は、次世代のインターネットを制する」といった趣旨の発言をしている。GoogleがAndroidを引っ提げてケータイビジネスの世界に乗り込んできたのも同様の考えがあってのことであろう。パーソナル性、リアルタイム性に優れたケータイであればこそWeb 2.0的な世界観を身にまとった際のパワーは計り知れないものがある。

 WiMAX、3.9Gといった次世代のモバイル技術を見ると、ケータイ電話の世界にもIP化の波が押し寄せてくる。「IP化」というのは、ネットワークがInternet Protocol化する、という技術的な意味だけでなく、そこで行われるサービスやアプリケーションにも、「オープン」で「水平」なインターネット的な考え方や方法論が入り込んでくることを意味している。まさにWeb 2.0的な考え方が求められるのだ。

 ケータイキャリアや端末メーカーはもちろん、コンテンツ事業者たちも、この遅れてやって来るケータイ版Web 2.0ビジネスの波をつかまえなければ生き残れない時代になるだろう。そのときこそ「着うた」とiTunes Storeは、直接対決するのであろうか。

「ものになるモノ、ならないモノ」バックナンバー

著者紹介

ケータイ料金は半額になる

山崎潤一郎

音楽制作業に従事する傍ら、IT系のライターもこなす蟹座のO型。自身が主宰する音楽レーベルのサイト「インサイドアウト」もよろしくお願いします。最新刊『ケータイ料金は半額になる!』も好評発売中。著者ブログ 「家を建てよう」


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