Amazonガチャ騒動から考える、サービス名と商標の関係:ものになるモノ、ならないモノ(51)(2/2 ページ)
筑波大学発のベンチャー企業「BearTail」が開始した「Amazonガチャ」なるサービスだが、「商標権を侵害しているのでは」といった集中砲火を浴びてあっという間にサービスを停止してしまった。この件、本当にサービスを停止するほどの問題なのだろうか?
「商標」だけでなく「不正競争防止法」という「地雷」も
では、逆に、商標登録されていなければ使ってもOKなのか、というとそうでもないようだ。
「Amazonガチャ」に対する批判の中に、「不正競争防止法」といったキーワードが使われていたように、「著名なサービスや名称に便乗して利益を得ようとすると行為は、不正競争防止法に違反する可能性もある」(鳥飼総合法律事務所の神田芳明弁護士)という。ただ、これにしても、著名サービス・製品側の権利者が、どのように判断するかによって、着地点がどうなるか分からない。不利益を被ると判断すれば何らかの行動に出るであろうし、Win-Winになり得ると考えれば、「おとがめなし」という判断もあるだろう。
とはいえ、便乗ビジネスは、それ自体が「地雷」になることも確かだ。「日本の場合、知財周りの権利について意識が低い企業が多かった。だが、最近は意識も高まり、権利を主張したり守るケースが増えている。実際、我々もそのようにアドバイスしている」(鳥飼総合法律事務所の鳥飼重和弁護士)というだけに、甘く考えていると、ある日突然「訴状」が届くことがあるかもしれない。
つまり、何かのサービス・製品の名称を取り入れるような「商品」を世に送り出す場合は、完全なオリジナルでもない限り、何かしら他社の権利を意識をしないといけないということだ。ただ、それが商標やコンテンツの著作権のように、権利者や権利に関する情報が明確に開示されていれば問題はないのだろうが、中には調べきれないものもある。
例えば、筆者は、ヴィンテージ鍵盤楽器をシミュレートしたiOSアプリをApp Storeを通じて世界に向けて販売している。販売に際し、日本はもちろん、米国や英国の商標や特許など、自分で調べられる範囲の知財情報は調査したのだが、それでもすべてをクリアすることは断念した。60〜70年代に製造された楽器だけに、意匠、音色といった部分の権利が現在どのようになっているのか追い切れなかったからだ。ましてや、専門家に依頼するほのコストはかけられない。
「楽天主義でいこう」という考え方
結局、これらアプリをリリースする際に下した結論は、「楽天主義でいこう」だった。つまり、自分で調べられる範囲のものは調べ尽くし、それでも分からない部分があれば、「権利者から言われてから対応すればよいではないか」と考えるようにしたのだ。
いや、何も他人の権利を甘く見て、ないがしろにしているわけではない。筆者自身も音楽制作事業を行っており、ライターとしての著書もある。筆者が100%原盤権を保有する音楽が有名放送局のドラマに無断で使用された経験もある。それだけに権利には、人一倍敏感な方だ。
だが、App Storeなどの各種アプリマーケット、Kindleダイレクト・パブリッシング、Webサービスなど、個人でも、国境を越えて「商品」や「サービス」を販売することができる時代になり、そこで誰でも手軽にビジネスできる今、どこに潜んでいるか分からない「地雷」に萎縮してしまったのでは、何も新しいことを興すことはできない。専門家に調べてもらうという考え方もあろうが、それだと資本力のあるところだけがビジネスを興すことができるという話になり、インターネット前の世界に逆戻りだ。個人はもちろん、スタートアップの出る幕はなくなる。
幸い、アプリ、Kindle本、Webサービスなどは、クリック一発で販売やサービスを停止することができる。だから、権利者などから何らかのクレームが入ったら、その主張に真摯に耳を傾け、その主張に納得したら、そのタイミングで販売や提供を停止すればよい、と思うのだ。明らかに確信犯、明らかに悪意がある、といった状況でない限り、権利者側もいきなり強硬な手段に取って出ることはないと考えている。
だが、鳥飼弁護士は「以前は、警告→内容証明→訴訟と段階を踏む場合が多かったが、今は、いきなりレッドカードで、ある日、権利者から何の前触れもなく訴状が届く、という例も増えている」と教えてくれた。
う〜ん、困った。そのようなことが現実に行われているとなると、「楽天主義でいこう」などと呑気なことも言っていられない時代ということだ。
だから、「Amazonガチャ」に対するBearTailの対応は、トラブル回避という点では正しい判断だったのかもしれない。だが、それでも思うのだ。「地雷」が怖くて萎縮してしまっては、何も新しいことを産み出せない、と。ちなみに、前出のヴィンテージ鍵盤楽器は、2009年の5月に販売を開始して4年近くになるが、今のところ、権利侵害に関係するクレームは舞い込んでいない。
著者プロフィール
山崎潤一郎
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。OneTopi「ヴィンテージ鍵盤楽器」担当。近著に、『AmazonのKindleで自分の本を出す方法』(ソフトバンククリエイティブ刊)がある。TwitterID: yamasaki9999
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