「KMDの森」で触る、感じる、描くを体験してきた:ものになるモノ、ならないモノ(59)(3/3 ページ)
若い感性と企業のコラボで、デジタルはここまで楽しくなれる。実際に体感できる近未来を展示した、「KMD Forest the 5th KMD Forum」リポートをお送りしよう。
超音波スピーカーから発せられた波動で、じゅうたんに絵を描く?
タイトルを見て「何のことか」と不思議に思った人もいるだろう。筆者も一見しただけでは何の展示なのか分からなかった。説明されてやっと分かった。専用のスピーカーから発せられた超音波の力でじゅうたんに絵を描くという。毛足の長いじゅうたんの上を指でなぞると、そこだけ毛が寝る。毛が寝た部分は、他所との間に陰影の差が生じる。その陰影を利用して文字や絵を描いて遊んだ経験は誰にでもあるだろう。それを、指ではなく、超音波の圧力で行うという研究だ。
手前のタブレット上で絵を描くと同じ絵がじゅうたんの上に描かれる。写真では分かりにくいが肉眼で見ると確かにタブレット上で描いたものと同じ図形がじゅうたんの上に表現されている。じゅうたんの手前に設置された超音波スピーカーから、40KHzの超音波の波動が発せられ、じゅうたんの毛がそこだけ押されて寝ることで絵が描かれる仕組みだ。人間の可聴周波数の上限は、20KHzと言われているので、描く際の超音波を音として知覚することはない。つまり音は聞こえない。
超音波スピーカーから発生された音波は、通常のスピーカーのように拡散しない。極めて高い指向性で狙った位置に波動を当てることができるのだ。ただ、ふわふわしたじゅうたんの毛足とはいえ、音波の力で物体を動かすわけだから、それなりの力が必要だ。説明によると、140デシベルの矩形波を発しているという。
通常の騒音における140デシベルというと、離陸時のジェットエンジンを間近で聞くぐらいの破壊力のある音だと思うのだが、案の定「スピーカーの近くに顔を出すと危険」だという。手なら大丈夫だというので、手をかざしてみると確かに圧を感じる。
ただ、読者の皆さんは、この研究が何の役に立つのか不思議に感じていることだろう。筆者も不思議だ。説明によると、宅内などに設置するディスプレーの一種として利用できるというのだ。例えば、パソコンなどにメッセージが届いたときに、この手法で、じゅうたんやカーテンにメッセージが表示されると楽しいだろう。
壁やテーブルなどに透明のディスプレーが偏在し、そこにさまざまなメッセージが投影されている近未来住宅の様子をSF映画など見かけることがある。あれはあれで絵になってカッコイイのだが、このじゅうたんメッセージの技術が現実のものになれば、あのような近未来住宅とは対極に位置する、ほんわかとした未来が実現しそうで嬉しくなる。
筆者は、音楽制作事業者として理論上40KHz程度の音も収録できるハイレゾ音源を制作しているのだが、そのような音楽に、この実験で使われている超音波をミックスすれば、音楽にアーティストのメッセージを込めてリスナーに届けることができるかもしれない。曲をかけると、じゅうたんやカーテンにメッセージが浮かび上がるなんてロマンがあっていい。えっ?「超音波スピーカーを搭載したオーディオなんて誰が買うのか?」って……。うーん。あまり深く考えない方が夢が広がるってもんです。
今回は、@ITの読者の琴線に触れそうな三つの研究についてレポートしたが、このイベントでは他にも興味深い研究発表がたくさんあり、楽しい時間を過ごすことができた。ビジネス系の展示会などに出向くと「技術」の部分ばかりが強調され、見学していても早々に満腹感を感じてしまい、見終えるころには食傷状態でげんなりすることもある。
だが、KMD Forumを見学するたびに感じるのは「技術」の手前側に必ず「人」が存在するという点だ。見終えた後の、ほのぼのとした気持ちはそこから来るのかもしれない。このイベントは、今後も開催されると思うので、興味のある人はKMD ForumのFacebookページで情報をチェックしてほしい。
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著者プロフィール
山崎潤一郎
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、「コストをかけずにお客さまがドンドン集まる!LINE@でお店をPRする方法」(KADOKAWA中経出版刊)がある。TwitterID: yamasaki9999
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