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Apple Watchが殺すかもしれないもの、それは……?ものになるモノ、ならないモノ(57)(2/2 ページ)

アップルが新たに発表した「Apple Watch」。小さなディスプレーから追い出されるものの筆頭は、やはり広告なのではないだろうか。

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ネイティブ広告――いかにユーザーの反感を和らげるかという広告手法


グルーバー代表取締役 千島航太氏。グルーバーはインターネット広告大手の株式会社オプトの100%子会社としてスマホを中心としたコンテンツマーケティング、およびネイティブ広告事業を実施するために設立されたできたての会社

 メディア側にしても広告業界にしても、このようなデバイスによる環境変化に対応しなければ生き残れないのは百も承知だろう。最近、耳にすることが多くなった「ネイティブ広告」も、このような環境変化を踏まえた動きだ。ネイティブ広告というのは、ネイティブ=自然という名が示す通り、「メディアのコンテンツに自然に溶け込むように表示される広告」(グルーバー代表取締役・千島航太氏)のことである。

 それはデザインを合わせるなど、見た目で溶け込むという意味もあるし、場合によっては、「見た目だけでなく、主体となるコンテンツと同じ文脈の広告を表示させる場合もある」(千島氏)そうだ。例えば、経済ニュースのヘッドラインの中には、経済情報を欲する人が読んでも違和感のない情報を含んだ広告を挿入する、といったやり方だ。要は、先ほどのアンケート結果からも分かるように、スマホというストレス性の高い端末に向けて発信する企業側のメッセージにおいて、いかににユーザーの反感を和らげるか、という部分に立脚した広告手法、というわけだ。

 ただ、それは、諸刃の剣でもある。前出のジャストシステムが実施したアンケートでは、ネイティブ広告を知っているとするユーザーの約8割が「だまされた気分になる」と回答している。例えば、今流行のニュースキュレーションアプリの中には、居並ぶ記事のヘッドラインとまったく同じ質感で広告へのリンクが埋め込まれているものがある。タップすると有無を言わさずスポンサーや商品のサイトが表示される。せめてワンクッション置いてくれたらなと思う。人によってはだまされた気分になって当然だ。

 ただ「ネイティブ広告には、広告であることを明示する不文律がある」(千島氏)というだけに、前出のニュースキュレーションアプリやFacebookのその手の項目には、確かに広告であることが表示されている。だからステルスマーケティング(ステマ)とは一線を画しているという理屈だ。一方、従来型のバナー広告はいかにも広告然としており、ステマ批判はかわせるが、スルーされる確率も高くなる。だからといって広告と明示せずにコンテンツに完全に同化させるとステマやだまし討ち批判を浴びてしまう。なんとも、涙ぐましい折衷案ではないか。

 この二律背反する悩ましい課題を吸収し、メディア、広告事業者、ユーザーの三者がハッピーになれる手法はあるのだろうか。千島氏は、その可能性を、ゲームアプリのアイテム購入を例に挙げて説明してくれた。 ゲーム中にまったく異なる広告が表示されたら、それは従来型のバナー広告だ。しかし、そのゲームで必要とされるアイテムが、タイミングよく企業のスポンサードアイテムとして現れたら、ユーザーとしてどうだろうか。たとえ広告であっても、有益な情報として受け入れる人もいるだろう。

ユーザーの行動や嗜好を先読みする広告

 おそらく、ネイティブ広告の行き着く先は、そのときそのユーザーが必要としている情報を的確に表示し、そこに企業からのメッセージを“自然”に織り込むということになるのだろう。そうすると、Apple Watchのようなデバイスにおいても、ユーザーは、広告を受け入れる可能性もある。

 ただ、ゲームのように、皆がほぼ同じ志向を共有して利用するメディアであれば、ユーザーがその瞬間に何を求めているのかを判断し、的確な広告をタイムリーに出すこと可能だろう。それが、一般的なメディアでできるのだろうか。バナー広告の分野では、従来より行動ターゲティング、リターゲティングといった手法があるが、前述のような、ユーザーの嗜好を細やかに判断した表示には対応していない。「かつては必要だったが、今は不要」といった商品やサービスの広告がしつこく何度も表示され、イラッときた経験は誰にでもあるだろう。

 Apple Watchのような端末でも、ユーザーに受け入れられる広告を実現するためには、コンテキスト・アウェアコンピューティングといった夢物語のような手法が必要になるのだろうか。コンテキスト・アウェア・コンピューティングとは、ユーザーの過去の行動・購買履歴はもちろん、位置情報、嗜好・興味といった情報から、コンピューターがユーザーの行動を先読みし、適宜利用価値の高い情報をプッシュする技術だ。

 これは現在の技術やインフラで既に実現可能な手法のようだが、ウェアラブル端末が普及し、よりきめ細やかなパーソナルデータを取得できるようになると、その精度は飛躍的に高まるといわれている。それは、ネット広告にとって有利に働く可能性もある。前段では、画面表示面積という観点から、ウェアラブル端末はネット広告にとって不利になるのでは、という疑問を呈した。ただ、見方を変えると、ウェアラブル端末の普及は、人々のネット情報への接触時間を増やす可能性が大きい。ウェアラブル=常に身に付けている端末だけに、接触時間はスマホ以上になるかもしれないのだ。

 例えばGoogle Glassは、コンテキスト・アウェア・コンピューティングとAR技術を組み合わせて、視野内に常時、個々のユーザーにパーソナライズされた広告を表示することも可能だ。接触時間が増えたところに、適宜利用価値の高い企業からのメッセージがプッシュされるようになると、広告にとって有利な環境を構築できる可能性もある。

 だが、ここにも、越えなければならないハードルがある。個人情報保護の問題だ。

 広告配信システムに行動を先読みされ、まるで的中率100%の占い師と対峙しているかのように今まさに自分が欲している情報が的確にプッシュされてきたら、普通の感覚からすると気持ち悪さばかりが先立つ。筆者ならその場でApple Watchの電源を切ってしまいそうだ。

 その一方で、現在でも、筆者を含め多くのユーザーが、Google、Facebook、Twitter、Yahoo! JAPANといった便利なサービスを無料で利用する代わりに、それらの企業に個人情報をダダ漏れ同然に提供している現実がある。結局は、未来のネイティブ広告にしても、便利さとの間にトレードオフの関係が成立し、多くのユーザーが許容する方向に行ってしまうのだろうか。

 メディアにしてもサービスにしても、ネット上では、無料で利用する文化が定着してしまった以上、そこに関わる誰しもが「広告」という領域を無視して活動することはできない。個人が無償で情報を発信する分には広告とは無縁のようにも思えるが、その情報を発信するためのプラットフォームは、広告収入を主たる原資として運営されている場合がほとんどだ。

 「広告を含めネットのビジネスは、テクノロジの影響を大きく受けるだけに、環境変化を的確に捉え、順応していかなければ生き残れない」(千島氏)という。新しいネイティブ広告という考え方も、その結果であろうし、それが今後Apple Watchのような新しい端末に対しどのような順応性を示し生き残るのか、不安と期待が交錯した感情で見届けることになりそうだ。

「ものになるモノ、ならないモノ」バックナンバー

著者プロフィール

山崎潤一郎

音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、『コストをかけずにお客さまがドンドン集まる!LINE@でお店をPRする方法』(KADOKAWA中経出版刊)がある。TwitterID: yamasaki9999


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