「勝負をかけた」からには、収益を上げないといけない。そのためには、自社タイトルをランキングの上位に上げることが最優先課題となる。例えば、Google Playのランキングでユーザーの目に触れるのは500位まで。圏外ともなると存在しないのに等しい。特に発売直後のスタートダッシュで、一気にランキング上位に顔を出すか、出さないかがその後のビジネスに大きな影響を及ぼす。
スタートダッシュ施策として2013年頃からゲーム業界で注目されているのが「事前予約」という広告手法だ。その名が示す通り、ユーザーが発売前のゲームタイトルを予約することができる仕組み。予約したユーザーは、そのゲームの課金アイテムや限定レアキャラクターなどの予約特典を得ることができる。
ゲームがリリースされたら、プッシュ通知やメールなどで告知されるので、ユーザーは、ゲームアプリを忘れずにダウンロードできる。ゲームを起動して告知されたコードなどを入力することで、予約者のみにしか配布されない特典をダウンロードできるという手順だ。有料、あるいは特別なアイテムを無料で得ることができるので、ユーザーの側に進んでダウンロードしようというインセンティブが働く。
このようにして、リリース直後に集中的にダウンロードを発生させることで、初登場時の確実なランクインを狙う。ランクインすると、事前予約をしていない一般ユーザーの目に触れるようになる。そこから、通常のダウンロードも発生するので、さらに上位に入ることが期待できる。事前予約は、このような流れを作るための広告戦略なのだ。
この事前予約の仕組みで躍進する注目の会社がある。先ほど代表取締役のコメントを紹介したAppBroadCastだ。「ゲームギフト」というAndroidアプリを提供し、インストール数で270万人のユーザーを抱えている。代表取締役の小原氏は「ゲーム紹介メディアとしては国内最大級。事前予約ではトップシェア」と胸を張る。
小原氏が「ゲーム紹介メディア」と表現したように「ゲームギフト」は、アプリとして提供されているものの、さまざまなゲームを紹介するための「メディア」と考えると理解しやすい。事前予約の仕組み以外に、ゲームギフトを「メディア」たらしめる最大の特徴がある。アプリ名の由来にもなっている「無料ギフト」だ。
アプリ内で紹介されているゲームをダウンロードすると「無料ギフト」として、本来なら有料で提供しているアイテムやここでしか手に入らない限定キャラクターなどが「おまけ」として無料で付いてくる。「ゲームギフト」アプリを起動するとさまざまなゲームが並んでいるので、Google Playの「ゲーム」カテゴリから探すより効率が良く、しかも「お得」なのだ。
前述の「事前予約」が、発売前から、ダウンロードの見込み客を獲得してスタートダッシュを狙うのに対し、こちらは、既に発売中のタイトルのダウンロード数をさらに伸ばすための仕組みと言えよう。ただ、Google Playにあるすべてのゲームがおまけ付きで並んでいるわけではない。ゲーム会社がギフト=おまけの提供を承諾したゲームだけが並ぶ。
このゲームギフトのモデルを大岡越前風に言うと「三方一両損」ならぬ「三方一両得」システムといえる。ゲーム会社、ユーザー、AppBroadCastの三者が、それぞれリスクなしで得をする仕組みといえる。
ここで情報を整理しよう。「ゲームギフト」は、大別して2つのサービスを提供している。一つは「事前予約」であり、二つめは「無料ギフト」だ。ここで気になるのは、どのように収益を上げているのかという部分。「事前予約は、広告媒体という位置付けなので、ゲーム会社から広告料をいただいている」(AppBroadCast代表取締役の小原聖誉氏)という。一方の「無料ギフト」については、前述のようにゲーム会社は、アイテムとゲームギフトへの相互送客のリンクを提供するだけなので、直接の収益はない(ただし相互送客のリンクがない場合は有償になる)。
ただ、「三方一両得」で説明したように、「無料ギフト」の魅力で270万人のユーザーがアプリをインストールし「ゲーム紹介メディアとして国内最大級」になっていることから、広告媒体としての価値も上がり、「事前予約」の収益向上に結び付く、というのが筆者の見方だ。これについてAppBroadCast取締役の佐伯英恵氏は「無料ギフトは、結果的には収益にも繋がるが、あくまでユーザーに対し、純粋に『お得な価値を届けたい』という意図で提供している」という。
実際、「お得な価値」を受け取ったユーザーは、「ダウンロードしたゲームを長くプレーしてくれるので、結果的におまけ以外のアイテムも購入にもつながる」(AppBroadCast取締役の佐伯英恵氏)そうだ。ゲーム会社からすると、良質なファンを集めることができ、高いLTVを見込めるのだ。
現在「ゲームギフト」アプリにはAndroid版しかない。iOSユーザー向けにはWebサイトを提供している。なぜ、アプリで提供しないのだろうか。「アップルの規約に抵触する恐れがある」(小原氏)というのがその理由だ。
確かにApp Storeの規約には、「他のアプリのダウンロードを促進する目的でおまけを配布するアプリ」(大意)を禁止する項目がある。その一方で、現実にそのようなアプリが存在し、ダウンロード可能となっている。そうしたアプリが、審査の目をすり抜けているのか、Apple側が規約を厳格に運用していないのか、その辺りの事情は不明だ。
そのような規約が存在する以上、「ゲームギフト」のようなアプリは、削除リスクと隣り合わせであることは事実なので、現在は、Webサイトでの提供にとどめているそうだ。
そう考えると、今流行の「リワード広告」に特化した報酬稼ぎ用アプリなどは、完全に「クロ」といえるわけで、iOSに限っていうと、なんとも不安定なビジネスモデルの上に成り立っていることがわかる。
リワード広告というのは、リワード=報酬の名が示す通り、報酬稼ぎ用のアプリに表示されるゲームをダウンロードしたユーザーは、報酬(仮想通貨やアマゾンのポイントなど)を得ることができるというもの。App Storeをのぞくと、多種多様な報酬稼ぎ用アプリが存在し、ランキングの上の方に位置している。ある日突然これらのアプリが姿を消すようなことになるのだろうか。Appleのみぞ知るといったところだ。
ちなみに、「ゲームギフト」とリワード広告アプリは方向性が異なるものだといえる。リワード広告アプリのユーザーは、基本的に報酬目的でゲームをダウンロードする。ダウンロードしてしまえば、そのゲームをプレーしようがしまいが関係ない。そのため、継続的にプレーするユーザーは多くはない。広告料金を支払うゲーム会社からすると、ゲームのファンを獲得できるわけではない。ダウンロード数を伸ばす目的で「ランキングを買っている」(ゲーム会社役員)に過ぎないことになる。
一方の「ゲームギフト」は、ダウンロードの報酬(ギフト)は、ゲーム内で通用するアイテムだ。ゲームをプレーしたいユーザーがダウンロードするのでゲームのファンを増やせるのは前述の通り。LTVという視点で見たら、「ゲームギフト」の方が広告メディアとしては、はるかに優れていると私は考えている。
冒頭で、「バブル」と表現した現在のスマホゲーム市場だが、最初に紹介した、Google Playの表をもう一度見てほしい。ランキングが200位でも月商は1000万円に達している。200位ともなると、ロングテールの“しっぽ”の部分に追いやられてしまい、大きな収益は見込めないと勝手に想像していたのだが、月に1000万円の売り上げがあれば、数人のプログラマーを組織することも可能だ。
この表を見ていると、ニッチ狙いのプチゲームで「一発当てる」ことも夢ではないと思えてくる。このコラムを読んでいるあなたが、ネイティブアプリのプログラミングスキルを持っているなら、このスマホゲームバブルに乗ってみてはいかがだろうか。
山崎潤一郎
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、「コストをかけずにお客さまがドンドン集まる!LINE@でお店をPRする方法」(KADOKAWA中経出版刊)がある。TwitterID: yamasaki9999
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