その「基礎体力」の鍵を握るのが「モーションコミック」である。モーションコミックは「SAY-U」のためだけに開発されたコンテンツ作成技術ではない。実は、シフトワンが目論んでいる“クールジャパン”ビジネスの核となる要素だ。同社は、このモーションコミックを軸に、世界を見据えたコンテンツ配信を行うことで、同社の収益の柱にしようとしている。
同社では、モーションコミックとは別に、世界に向けて日本のポップカルチャーを紹介するサイト「ENSOKU」を展開し、ゲーム、リアルコンテンツ、アニメ、コスプレといったオタクなニュースを、日本語、英語、スペイン語など11カ国語で発信している。「このサイトは、モーションコミックにユーザーを呼び込むための窓口として立ち上げた」というのだが、このサイト単体でも人気が出るだけの魅力を備えている。
オタク文化に興味のない人が見たら、普通にスルーしてしまう小ネタニュースがたくさん並んでいるのだが、これらの記事は、全て契約あるいは社内のライターによる内製だというからすごい。“人のフンドシで相撲を取る”バイラルメディアとは一線を画しているのだ。
驚くのは、各国言語への翻訳業務も基本的に内製で実施している点だ「オタクなニュアンスを大切にしたいので、そのような言い回しに慣れた翻訳スタッフを使っている」という。
「ENSOKU」はモーションコミックの配信サイトにユーザーを呼び込むための窓口だけあり、サイトには、モーションコミックを紹介するバナーが貼り付けてある。このバナーをクリックすると「ENSOKU STORE」という配信サイトに飛ぶ仕組みだ
このモーションコミックの配信サイトでは、出版社やクリエイターからコミックの権利を預かり、静止画の作品に、動き、台詞、BGMなどを付けて配信している。先ほど紹介した「ULTRAMAN」の他に「インベスターZ」や「テンプリズム」といった人気作品の配信も行っている。
先ほどの多言語のポップカルチャー紹介サイトからのユーザー流入を目論んでいるだけあり、この配信サイトも、日本語を含め、英語、スペイン語、ポルトガル語など5カ国語に対応している。サイトの説明だけでなく、コミック内の吹き出しもちゃんと翻訳されている。ただし、さすがに、台詞は日本語のままだ(一部英語版を除く)。ちなみに、スペイン語とポルトガル語にいち早く対応してるのは「南米からのアクセスが多い」ことがその理由だ。
全ストーリーを無料で見ることができるタイトルもあるが、有名作品は基本的に一部を除いて有料での配信だ。有料のタイトルは、あらかじめ購入しておいた仮想チケットで支払う。チケット12枚で324円(税込)。例えば「ULTRAMAN」の有料タイトルは、チケット2枚で見ることができる。
ユーザーからすると、チケット制はちょっと面倒だ。コンテンツ配信ビジネスの世界標準ともいえる定額制にはならないものかと思うのだが、「まだまだコンテンツ数が少なく定額制にしてもユーザーメリットがない」ことがその理由だという。
モーションコミックを数作品見て思ったのだが、単に登場人物の一部や吹き出しに動きが付いただけでなく、背景がダイナミックに躍動するなど、かなり凝った作品もある。また、効果音が入っているので、漫画家が擬音語、擬態語で表現しようとしていたことの意図のような部分がより強調されて、ビンビンと伝わってくる。これにより作品の新たな魅力や世界観をユーザーに伝えることができれば、紙のコミック本の購買へと誘う効果も期待できる。
「続きはWebで」という言葉はあるが、さしずめこちらは、「続きは紙で」といったところだろうか?
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライターもこなす。大手出版社とのコラボ作品で街歩き用iPhoneアプリ「東京今昔散歩」「スカイツリー今昔散歩」のプロデューサー。また、ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、「コストをかけずにお客さまがドンドン集まる!LINE@でお店をPRする方法」(KADOKAWA中経出版刊)がある。TwitterID: yamasaki9999
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