このように絶妙(?)の“落としどころ”を見つけて何とか船出した日本のPLCだが、利用する側もこの新しい方式の“個性”をしっかりと理解して導入する必要がある。
今回、松下が出荷したPLCアダプタについても、「コードの部分が長くなればそれだけ伝送ロスが大きくなるので、なるべくなら壁のコンセントに直付けして使ってほしい」「たこ足配線での利用は厳しい」(寺内氏)とコンセントに差し込みさすれば何でもOKというわけではないようだ。
特に、近くでモーター、コンプレッサーを使う機器が作動していたり、ドライヤーといった機器が動作していると、そこから発生されるノイズが原因で伝送ロスが大きくなり速度低下が著しくなる。また、極め付きは、携帯電話の充電器だそうだ。「交流の位相を頻繁に切り替えながら充電する」(寺内氏)仕組みなので、2口ある1つのコンセントを共用するような場合は、やはり速度が出ないそうだ。
また、この製品の発表会では、オフィスや事業所の需要にも期待する向きの発言があったが、上記のようなありさまだけに、ビジネスユーザーが導入する際には、電気配線がどうなっているのか、ノイズ源となりそうなものがないか、といった部分をSIerなどとしっかりと検討してからの導入とした方がよさそうだ。
何だか、えらく気を使う必要のあるインフラという感じがしないでもないが、しかし「いったん接続して速度が出ていることが確認できれば、PLCは比較的安定して運用できる」(寺内氏)という。確かに、無線LANの場合は、先ほどまで調子が良かったのに、何らかの要因で急に不安定になる、といったことは珍しくないだけに、この点はPLCの有利な部分であろう。
今回松下電器が発表したPLCモデムには、暗号化技術が実装され認証した機器同士でないと通信が確立しない強固なネットワークセキュリティが実装されている。ここで、ちょっと不思議なのは、電波が飛び交う無線LANじゃあるまいし有線で引き回すPLCになぜ暗号化が必要なのかという部分。
これについて寺内氏は、「戸建ての家には大抵、外にコンセントがあるのでそこに第三者が機器を接続して通信を傍受する可能性もある」からだと教えてくれた。また、弱い信号に減衰してしまうとはいえ、分電盤を超えて電気の引き込み線に信号が流れる可能性もあるそうだ。
2001年の冬に初めてPLCの実験を見てから6年、その間に一般ユーザーを取り巻くネット環境は大きく様変わりした。結局ラストワンマイルへの利用はかなわなかったPLCだが、その代わり、「e-Japan戦略 II」でネットワーク家電の振興という業界の悲願を背負い、それを家庭内インフラの部分から後方支援する“国策”を担わされるハメになってしまった。そんなPLCは、果たして家庭内ユビキタスの夢を見ることができるのか、推進派と反対派の交錯する思いを乗せていま、飛び立とうしている。
パナソニックコミュニケーションズより、PLCアダプタの評価機が送られてきたので、早速、わが家で試してみた。
わが家は、木造2階建4LDKで総床面積が約100平米の一般的な戸建て住宅だ。新築時に各部屋にLAN配線をしておいたので、幸いネットワーク環境には不自由していない。
光ファイバーの終端装置に接続してあるルータの空きポートにマスター(親)アダプターを接続し、MacBookとターミナル(子)アダプターを持って各部屋のコンセントで、74.2MbyteのMPEG4動画ファイルの転送時間を測定した。
PLC | 無線LAN(IEEE802.11g) | ||
各部屋のコンセント5〜6カ所での測定結果 (無線LANはその周辺で測定) |
1分38秒〜2分18秒 | 25秒〜1分53秒 | |
【参考】携帯電話の充電器を接続したコンセントの場合、充電器なしで2分18秒。ありで2分40秒 | |||
そして、対抗馬として無線LAN(IEEE802.11gのAir Mac)を使いPLCで測定したコンセントの周辺で同じファイルを転送してみた。結果は別表にもあるように、無線LANに軍配が上がった。
驚いたのは、接続するコンセントによりけっこうなバラツキが出たことだ。有線LANなのに、電波状況に左右される無線LAN並のバラツキ具合がなんともご愛きょうだ。まさに速度に関しては「つないでみなければ分からない」というところ。
コンセントへのプラグ差し込み時は、ここは速度が出るかな〜などと、「虎ヒゲ危機一髪」ゲームで樽に短剣を差し込むときのようなドキドキ感があり、妙な感じがしたものだ。
数値だけを見ると、無線LANに対し分が悪いPLCだが、名誉のために付け加えておくと、その接続の簡単さといったら唖然とするほどで、箱から出して2分としないでMacBookからネットや他のパソコンへの接続を完了した。
もちろん、難しい設定など一切不要。とにかく物理的なケーブル類を接続するだけでOKだ。最終的には、家電向けのネットワークの要としての技術を標榜するPLCだけに、これはすばらしいと思った。この接続の簡単さは、HD-PLC方式の自慢の1つのようだが、一般世帯にもネットワーク環境を普及させるという部分においては、電灯線という有りモノのインフラが使えるというメリットと同程度に特筆すべきことだと思う。
著者の山崎潤一郎氏は、テクノロジ系にとどまらず、株式、書評、エッセイなど広範囲なフィールドで活躍。独自の着眼点と取材を中心に構成された文章には定評がある。近著に『成功するロングテールのつかみ方』(中経出版刊)がある。ブログ:「山崎潤一郎のネットで流行るものII」
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Page2<電流の電送ロスをなるべく抑える配置が必要>
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