「事業仕分け」「修正予算」って何? 国家予算の全体像:お茶でも飲みながら会計入門(28)
意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
今回のテーマ:国の予算はどのようにして組まれるのか?
10年度予算案は2日の衆院本会議で民主、社民、国民新の与党3党の賛成多数で可決され、参院に送付された。10年度予算案の一般会計総額は過去最大の92兆2992億円 (2010年3月3日毎日jpニュースより)
国の予算は、なかなか全体像がつかみにくいのではないかと思います。いったい、誰がどのように決めているのでしょうか。また、どういったスケジュールで編成されているのでしょうか。今回は国の予算について解説します。
【1】 予算編成の意義
まず、予算立てが必要な理由について見てみましょう。国が1年間に行う全支出(歳出と呼ばれます)には限界があるため、その中で費用対効果の高い支出を検討して各費目の調整を行う必要性がある、というのが一番の理由です。予算に類似するものとして、企業も業績予想を発表していますね。
しかし、国の予算編成は、企業の予算とは根本的に異なる部分があります。企業は基本的に「利益の獲得」を目指しているので、利益を生み出すのに最も効率的な投資・営業活動に注力することとなります。国は、利益追求を主目的とする企業が提供できない公共サービスを提供する支出および、国家活動を行うための支出に主眼を置きます。例えば、図書館は本の貸し出しを行いますが、収入が得られる活動ではありません。これは教育基盤として必要不可欠な公共サービスを提供する機能になります。
国の予算編成は、「どのような活動にどれだけ支出するか」を決めるものです。この点が、予算編成を非常に難解なものにしています。国家のサービス提供というのは多次元なものであるため、最適配分を議論するのが非常に難しいのです。空港の建設が重要なのか、社会保険制度の拡充が大切なのか、景気対策に主眼を置くべきか、外交政策はどのようにするかといった、幅広い論点を対象として議論する必要があります。
【2】予算決定の流れ
国の予算は、4月1日〜3月31日を一期間として作成されます。前年の8月末までに各省庁が概算要求書を作成し、そこから査定作業をします。翌年の1月に内閣が政府案を作成し、国会に提出します。査定作業は「仕分け作業」とも呼ばれ、年末年始にかけて話題になりました。
政府案は、通常3月中に衆議院で可決し、さらに参議院で可決します。通常、内閣および衆参両院の多数を与党が占めるため、実質的には与党が決定権を持つことになります。予算は年度が始まる前に決定しますが、その後の景気の動向を踏まえたり、政策を実施したりすることによって、修正する場合があります。修正予算は補正予算とも呼ばれ、補正予算も本予算同様に衆参両院で可決する必要があり、与党が決定権を持つことになります。
【3】 歳出の限界
歳出の限界についてお話しします。現在の日本は、租税などの収入だけで年間の歳出を賄えていないのが現状です。賄えない分は、国債を発行することにより補填(ほてん)します。
昔は国債の発行は、将来の国民の負担となることから、基本的には道路や橋など長期間にわたって資源の利用が前提となる(将来の国民もサービスのメリットを享受できる)建築物だけに認められたものでした。しかし現在、この枠は外れてしまい、歳入不足の補填を目的として国債が発行できる特例法が施行され、その国債が毎年発行される状況となっています。この特例法による国債は赤字国債と呼ばれ、よくニュースで話題となっています。
【キーワード】 赤字国債
歳入不足の補填を目的として発行する国債のこと。昔は、将来世代がサービスを享受できないにもかかわらず、債務を負担することになるとして発行が認められていなかった。赤字国債の残高は増加しており、平成22年度は政府予算案によると38兆円発行される予定。
国の予算は、ITエンジニアのみならず、かなりの人にとって遠い世界かと思われます。さまざまな機能を負っており複雑なためか予算案の具体的な内容よりも、誰しもが容易に理解できるスキャンダルや不祥事に重点を置く報道がなされることもたびたびあります。1人ひとりが国民として、どのような支出を行えば効果的かを考えられるような社会になるといいですね。それではまた。
筆者紹介
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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