意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
わが国における原価計算は、従来、財務諸表を作成するに当たって真実の原価を正確に算定表示するとともに、価格計算に対して資料を提供することを主たる任務として成立し、発展してきた(昭和37年に企業会計審議会により設定された原価計算基準より抜粋)。
「ものづくりにどれだけのコストが掛かっているのか」という疑問に答えるために、原価計算は大昔から発展してきました(歴史は、産業革命にまでさかのぼれます)。その集大成が、上記の一文から始まる『原価計算基準』です。すでに公表されてから半世紀が過ぎようとしていますが、いまでも原価計算に関する基準として使われています。
今回から数回にわたって、原価計算の世界に触れてみようと思います。初回は、原価計算の大きな流れについて説明します。
まず、「原価計算」がどういう状況で必要になるのかを見ていきます。そのために、スーパーマーケットとお菓子会社を例として取り上げます。
小売業が品物を加工することはありません。ポテトチップスを売るスーパーマーケットは仕入れた商品を販売しているだけで、ジャガイモを加工しているわけではありませんね。
対して、お菓子会社は材料を加工しています。ポテトチップスでいうなら、ジャガイモ・塩・油などを使って調理をしたうえで販売しています。
この2つの会社が、決算を行って貸借対照表を作るとします。在庫は、将来売れることを前提とすると資産価値があるため、資産の部に載せます。在庫の資産価値は、在庫を得るために支払ったお金で測定します。
ポテトチップスを得るためにスーパーマーケットが払ったお金は、お菓子会社に支出した仕入れ価格です。そのため、期末日に残ったポテトチップスは、スーパーマーケットの貸借対照表には「商品」という名前で登場します。金額は仕入れ値です。
一方、お菓子会社の場合を考えてみましょう。お菓子会社がポテトチップスを作るために支払ったお金とは、一体何なのでしょうか。ジャガイモや塩、油を買うために出したお金がまず思いつきますが、実際にはそれだけではありません。ポテトチップスを作るためには、製造機械や作業員も必要です。
そのため、「機械の減価償却費」や「作業員の給与」も、ポテトチップスを作るために支払ったお金になります。これらを合わせたものが「原価」です。しかし、ポテトチップス1袋だけを作るために、作業員を雇ったり機械を買ったりするわけではありませんので、在庫相当分を計算する必要があります。そのための計算を「原価計算」と呼びます。
主に製造業において、在庫をいくらで貸借対照表に計上するかを計算する手続きのこと。
次に、原価計算の大まかな流れを見ていきましょう。原価計算では、たくさんの勘定科目が登場しますが、支払ったお金が次々と勘定科目を“サーフィン”していくイメージを持つと分かりやすいと思います。
ポテトチップスを作るときには、まず材料を買う必要があります。ジャガイモなどを100万円で買ったとしましょう。そのうち、60万円分を製造現場に持っていきました。人件費40万円、減価償却費20万円を掛けてポテトチップスを作ります。そして、期末までに製造現場に持っていったジャガイモのうち半分がポテトチップスになったとします。
全体像を示す勘定連絡図は、以下のようになります。
資産価値があるものは、
の3つです。
残った原材料は、100−60=40万円です。60万円は「原材料」という科目を離れて、「仕掛品」という科目にサーフィンさせます。同時に、「人件費」と「減価償却費」も「仕掛品」にサーフィンさせます。「仕掛品」のうち完成したものは「製品」にサーフィンさせます。
半分完成したので、ここでは簡単に「仕掛品」の半分を「製品」にサーフィンさせましょう。そうすると残った仕掛品は(60+40+20)÷2=60万円、製品も(60+40+20)÷2=60万円となります。製品のうち、いくつかが売れた場合は自社の資産ではなくなりますから、売れた分に応じて売上原価として「費用」にサーフィンさせます。
今回は、原価計算の大まかな流れについて見てきましたが、サーフィンさせる金額の計算方法がいくつか存在します。次回以降では、それらについて見ていきましょう。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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