意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
「財務省が2日発表した9月末時点の税収実績によると、2009年度上期(4〜9月)の一般会計税収は10兆923億円と、前年同期比で24.4%減った。企業が納めすぎた税金を払い戻す還付金が膨らんで法人税収が1兆3075億円の還付超過になり、赤字に陥ったことが主因だ」(NIKKEI NET「法人税収、1.3兆円の赤字 4〜9月、国債の増発不可避」より抜粋)
わが国において法人税は、10兆円規模の重要な国税であり、あらゆる国内企業に納税義務のあるものです。記事によると、この上期の法人税額は還付超過になったとあり、企業が納付した金額よりも、企業に返還した金額の方が大きくなったとあります。どうしてそんなことが起きるのでしょうか。今回はすべての企業に関係する法人税申告業務の概要について解説します。
法人税といってもほとんどのITエンジニアには、疎遠なものであると思います。そこで、基本的な5W1Hから見ていきましょう。
(1)What〜何か
法人税は、会社の利益(税務上は「所得」と呼ばれるため、以降所得と記載し、会計上の利益と区別します)に税率を掛けて課税されます。どの企業からいくら所得が出ているかは、国には分かりませんので企業が自己申告します。
(2)When〜いつ
法人税は、会社の事業年度を対象として年度末より2カ月後(大企業は3カ月後に延長可)までに、納付します。例えば、3月決算の会社では、2009年4月〜2010年3月の所得に税率を掛けて算出された税額を2010年5月までに納付することになります。
(3)Where〜どこで
税務署で行います(口座振替もできます)。
(4)Who〜誰が
企業です。
(5)Why〜どうして
憲法に納税の義務が定められており、国民の義務だからです。 憲法によると、国民が納税の義務を負うとされ、本来、国民が法人から給与・配当などの形を取って財産を得た段階で課税するべきと考えられます。しかし、それでは、法人に財産をプールしておいて、納税を遅らせることができてしまいます。そのため、法人の所得から法人税を徴収します。
(6)How〜どのように
現金で納付します。
(1)Whatのところで自己申告と書きました。自己申告というと、自分(納税者)に有利な申告ができそうに思えます。「今年はたくさん儲かったが、所得は0と申告して、法人税を払わないようにしてしまおう」という具合です。
これは脱税行為と呼ばれ、脱税を行った場合には、追徴課税を受けたり、悪質な場合は実刑を受けることもあります。こういった行為を防止するため、税務署は定期的に日本中の企業を対象とした税務調査を行い、申告に嘘がないかどうかをチェックしています。
ちなみに、時々一流の企業が税務調査で指摘を受け、追徴課税を受けたとの報道がなされることがありますが、大半は取り扱いに幅のある論点についての見解の相違であり、上記のようなあからさまな嘘によるものではありません。
さて、ずるいことをしていなくても、会計処理によっては、所得が上下することがあり得ます。例えば、5年間の無償保証付でPCを販売した場合に、将来アフターコストに備えて、製品保証引当金として引当を計上する会計処理があります。この場合、製品保証引当金繰入額が費用となり、利益は減少します。アフターコストは将来発生するものであり、現時点では誰にも正しい金額は把握できず、概算計算となるため、同じ規模の会社でもA社は引当額を100と算出し、B社は引当額を50と算出する可能性があります。この概算計算の方法の違いによって、企業の所得が大きく上下してしまっては、課税の公平性に問題が生じます。
そこで、会計上の利益をそのまま税務上の所得とするのではなく、会計上の利益に一定の調整を行い、税務上の所得を算出します。この調整のことを申告調整と呼びます。
会計上の利益から、一定の調整を行い、税務上の所得を計算する際の調整をいう。法人税の申告書では調整計算の過程を別表4という様式に従って行うことから「別表4での調整」とも呼ばれる。所得を増加させる調整を加算調整、所得を減少させる調整を減算調整と呼ぶ。
概して、会計上は利益を水増しする行為について厳しいですが、税務上は課税の公平性を根拠として、所得を減少させる行為について厳しく、詳細に定めを設けています。その結果、たいていの企業では、会計上の利益では加算調整の方が多く入り、税務上の所得は会計上の利益よりも多くなります。
法人税が還付超過になる理由について見ていきましょう。法人税には中間納付というものが存在し、前年申告の半分の金額を仮で納付(前納)することが多いです(中間決算を行い、それに基づき申告することもできます)。3月決算の会社では、2008年3月の決算は順調に所得が生じ、2008年9月にもその所得に基づいて半額を納付(前納)していたと考えられます。
ところが、その後景気は急速に悪化し、年間の所得額は前年よりも相当落ち込みました。2009年3月期の決算の結果、所得がマイナスになれば、2008年9月の仮納付が必要なかったこととなり、還付を受けることができます。
上記のような状況となった企業が非常に多かったため、2009年5月の申告以降に還付を受ける企業が増加し、納付よりも還付が多くなってしまったのです。
システム構築においては、会計上は費用化されても、後で税務上、加算調整されるような項目については、分離して把握しておく必要があることに注意しておくといいでしょう。そうしないと、会計処理は行えても、税務申告で困ってしまいます。一例を挙げると、棚卸資産の評価損や減価償却費、寄付金などです。これらについてより理解を深める場合でも、前述したとおり、税務は課税の公平性の見地から、会計よりも利益減少行為について、細かく定められている点に注意するとよいですね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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