国際会計基準が日本にもやってくるお茶でも飲みながら会計入門(7)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2009年01月08日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

今回のテーマ:国際会計基準

 ここのところ、「国際会計基準」という言葉が注目を集めています。国際会計基準はヨーロッパで誕生し、現在、EU域内を中心にアジア各国でも採用され、日本でも採用が検討されています。今回はこの国際会計基準について取り上げ、今後の日本における会計基準の展望について解説します。

【1】会計基準は各国の文化に起因する

 これまで、会計基準は各国さまざまで、開示される内容は十国十色でした。会計基準は取引の実態を適正に表すものである必要があり、取引の実態は商習慣や各国の商売に対する考え方、すなわち文化によって変わってくるからです。

 文化の違いによる会計基準の違いの一例として、2つの企業の合併が挙げられます。合併の際の日本と欧米の考え方の違いを見てみましょう。

I 日本

 日本では、合併は(1)「どちらかの会社がほかの会社を支配する」形式と、(2)「2社が調和して新しい1社となる」形式があると考えられています。(2)が日本独特の考え方で、和をもって尊しとなす日本文化が表れています。

 日本の会計基準では、日本文化に対応して、2つの会計処理((1)は「パーチェス法」、(2)は「持分プーリング法」と呼ばれます)の採用を認めています。

II 欧米

 欧米では、合併は「どちらかの会社が他の会社を支配する」形式しかあり得ないと考えられています。戦いによって勝敗を決し、自らの文化を築いてきた欧米文化が表れています。

  欧米の会計基準では欧米文化に対応して、1つの会計処理(パーチェス法)しか認められていません。

【2】それでも、国際会計基準が採用される理由

 上記で見たとおり、本来、会計基準は各国の文化の違いから、当然異なる部分が出てくるものです。それ故、世界共通である国際会計基準よりも日本の会計基準の方が、自国文化にフィットしている分、日本における会計基準としては望ましいはずです。

 それでも国際会計基準が欧米以外の各国で採用されているのはなぜでしょうか。その理由は、投資家の国際化です。上場企業が財務諸表を開示するのは、投資家が必要とする情報を提供するためですが、システム化が進んだ現在、その投資家が外国人である場合が多くなってきています。外国人投資家にとって、会計基準が各国別で異なっているのでは、どの銘柄に投資するのが最適かを比較検討することが難しくなってしまいます。

 そういった投資家のジレンマを背景に、国際会計基準が登場しました。各国で足並みをそろえて国際会計基準を導入することにより、投資家が、異なる国の上場企業銘柄を同じ会計基準で比較検討できるようになります

【3】国際会計基準が導入されると、こう変わる

 米国は2008年8月に国際会計基準を採用する方針を打ち出しました。世界の国際会計基準導入に拍車が掛かっている状況であり、日本でも国際会計基準の導入は避けられないであろうと考えられます。最後に、国際会計基準が導入されるという仮定のもと、会計システムに与える影響について、概観しておきましょう。

I 初度適用の際の遡及修正

 国際会計基準を初度適用する際には、2期(今年と前年)を比較できるようにするため、(1)その年の財務諸表、(2)前年の財務諸表、(3)前々年の貸借対照表を、国際会計基準ベースに引き直して開示することが求められています。そのため、いままでの日本基準での数値を保持しつつ、国際基準に引き直すための遡及修正が入力できるシステムを必要とします。

II 日本基準は完全にはなくならない可能性も

 今後の動向によって大きく変わることですが、国際会計基準を採用している欧米諸国においても、完全に自国基準を捨てていない国があります。財務諸表の作成は、(1)投資家に対する情報提供目的のほかに、(2)株主に配当できる剰余金を計算する目的もあります。そこで、(1)については国際会計基準を用い、(2)については、会社運営に大きく影響するため、法制度の制定経緯を無視することができず、自国基準を取る欧米諸国も少なくありません。仮に日本でそういった方針が採用された場合には、システム上(1)と(2)を区別して、会計データを保持しなければならない可能性があります。

 ほかにも、売り上げの認識や、後入れ先出し法の禁止などの、会計基準の変更が出てきます。上述の合併においても、持分プーリング法は廃止されます。これらに対応すべく、システムの設計変更も必要となるでしょうから、これからの動向には十分注意が必要ですね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。

イラスト:Ayumi



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